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◇ ◇ ◇
「ある程度の広い場所?」
「はい」
避難所から寄せられた情報を整理した内容を聞いた総理は思わず聞き返した。
最初のゴブリンと、モンスターの種類を増やすという宣言直後では全員の目の前にモンスターが現れた。だが、その後はというと、
「避難所が学校の場合、教室で寝泊まりするケースもあるが、そこには一度も出てきていないようです」
「一方、体育館や校庭には出現」
「個人宅も屋内には出てきていませんが、庭には出てきています」
「無人の場所に出てきているかどうかはさすがに誰も見ていないのでわかりませんが、防犯カメラなどが誰もいないところでのモンスター出現を捉えていませんから、ほぼ確実かと」
「つまり我々がいるこの会議室も」
「広さの基準を満たしていないのでしょうね」
「逆に最初に使っていた部屋は」
「あの広さだと出てきていたでしょう。幸い、今は無人なので出てきていませんが」
「すぐに連絡だ!連絡がつく限りの避難所全てに情報を送れ!」
もちろん、全ての避難所が学校の教室程度の広さに全員を移動させられるわけではない。だが、被害を少しでも減らすべく、行動を起こした。
「あとは……それとなくネットに情報を流せ!」
「それとなくって……」
「掲示板とかSNSとか……色々あるだろう!」
◇ ◇ ◇
「と言うことは、家の中にいる分には無事?」
「そういうことね」
推測でしかないが、今のところ避難所でのモンスター出現は抑えられているらしい。
「で、ここからが本題なんだけど」
「うん?」
「寿が持っている物、避難所に提供できるかしら?」
「うーん……多分無理」
ここに来るまでの間に、それなりの量の物資を集めているが、正直なところ食糧はあまり多くない。あらかた回収されてしまったあとで集めているため、ホームセンターの中身の方が多い。あとはガソリンなんかの燃料。
アイテムボックスの表示を見ながらこのくらいの量がある、ということを包み隠さず伝える。
「うーん……厳しいわね」
碧が電卓を叩いて考え込む。回収している食糧を単純に一日あたりの食事量で割る。避難所にどれくらいいるか聞きそびれたが、多分数日も経たずに尽きてしまうか。大勢が避難していると言うことは、この状況下では喜ばしいことなのだが、同時に危うい状況と言える。寿が正直に「もうありません」と言ったところで、「まだあるはずだ、出せ!」という声が出るのは間違いない。そして僅か数人でも、そんな声を上げたら一気に拡がる。そうなったときにどうなるか想像がつかない。
司も寿と同じように物資を集めているらしいが、それを知られたらさらにどうなるか。
親として、まだ未成年の子供たちを守るためには……
「寿の言いたいことはわかったわ」
「うん、ゴメンね」
「寿が謝ることじゃないわ。ここから先は私たち大人のする仕事なの」
さて、と碧がパンと手を叩いて立ち上がる。
「明日、お父さんのところに行きましょう」
「え?」
「ちょっと相談に」
こんな微妙な話、周りで誰が聞いているかもわからない電話ではできない。
外を歩くというのはタイミングによってはモンスターと遭遇する可能性もあるが、寿がいるなら問題ないだろうと、二人で典明のいる避難所へ向かうことにする。
自転車で。
◇ ◇ ◇
モンスター討伐スレッド 十八匹目
235名無しさん
避難所で生活しているんだが、モンスターがいきなり出てくる条件、少しわかったかも
236 名無しさん
>>235 kwsk
237 名無しさん
>>235 kwsk
241 235
>>236-239
まず、夜は出てこない
多分これは確実だと思う
そして昼間出てくるときも十時ちょうどとか十二時ちょうどとか、分が0分の時
時計がずれてるかもしれんが、多分ちょうどのタイミング
それで、出てくる場所だが、人のいる場所で広い場所
外とか体育館には出てきたけど、教室に出たって話は聞かなかった
あと、人がいないところに出たって話も無かった
243 名無しさん
>>241 マジか
でも、言われてみると夜出てきたってのは確かに見てないかも
だけど、人がいないところには出ないってのはちょっと怪しいんじゃないか?
244 名無しさん
>>241-243 要検証だな
命がけの検証だけど
245 235
>>243-244 この条件が完全だとは思ってないぞ
それに、条件が合うと必ず出るってわけじゃない
他にも条件があると思うけど、この条件なら出ないって場所があるなら安心して寝てられるだろ?
246 名無しさん
>>241 自宅警備員の生存率が高いのはそのせいか
「モンスターの出現条件……」
「んー、なんか妙ですよね」
「そうなんだよな」
この条件にはまだ何か足りないものがある。
なぜなら、ここまでの移動の間、モンスターが目の前に現れたのは一度きり。サービスエリアの連中から逃げたときだけだ。
「無我夢中で時間を確認してなかったけど、あれ、多分十二時くらいだったよね」
「うん、ドローンで撮影したのが十一時半過ぎって、日付がついてる」
外を走っていたのだからトロールが出たのもわかる。
車は「狭い」と判断されたのなら、追っ手を除いた二人分で二匹。このときのモンスターの数は説明がついた。
「だが、その他のタイミングでモンスターの出現に遭遇していない」
「そうなんですよね」
ここまでの間にいろいろなモンスターと遭遇し、倒しているのだが、目の前にいきなり出てきたのはあの時だけ。その他は全て、既にいたモンスターに遭遇している。つまり、誰かの前に現れ、その誰かに倒されていないモンスターだ。
この条件だけだと、移動しているとは言え、外の広い場所にずっといて、一回だけというのは少し不自然。そして、
「この条件が正しいとして、これを引き起こしている奴が、いつまでも守るとは限らない」
「ですよねー」
◇ ◇ ◇
「ちょ、ちょっと待ってくれ。君たちがいなくなったら私たちはどうすれば」
「知るか」
「そ、そもそもだね「うるせえよ」
「ぐあっ」
斉藤が面倒くさそうに告げると同時に男が倒れた。目立った外傷はなく、血の一滴も流していないが、ほぼ即死のようだ。
「汚ねえ手でさわるな、ってんだよ」
動かなくなった男を邪魔だと言わんばかりに蹴飛ばし、大きな四駆に乗り込む。
「出せ」
「お、おう」
さすがに少しやりすぎではと仲間たちは思ったが、それで機嫌を損ねるのもマズいと、他の者も続いて乗り込む。このサービスエリアに止まっている車でまともに動くのは彼らが乗り込んだ五台だけだ。
サービスエリアを出ていくのは斉藤たち十一人と、そのお気に入りから選ばれた九人の合計二十人。車はそのまま高速道路へ坂を下りていく。
「で、どっちへ行く?」
「西。このまま下りを行け」
「理由を聞いてもいいか?」
「あいつらを追うんだよ」
「あいつら……ああ、昨日の」
「そうだ」
「でもよ、何で下りでいいんだ?逆かも知れないだろ?」
「そもそもあいつらは、下りでこっちに来たんだろ?しかも俺らから逃げるときにそのまま戻っていかずにすぐに高速を下りた。つまり、あいつらはこの先、西に用があるはずだ」
「へえ」
「っだよ。俺が頭使うのがそんなにおかしいか?」
「いや、全然」
四人の中では一番頭がいい。学歴とかそう言うのではなく、こう言うときの読みとかで。
「あいつらにはきっと何かある。それがなにかはわからんがな。だが、持ってるもんは全部いただく。シンプルだろ?」
「だな」
ここから数キロ程度は事前に掃除してあるのでそのまま進む。
そして、事故を起こしたままの車が目立ち始めると……
「収納!投棄!」
アイテムボックスで回収してすぐ後ろに捨てる。
まれに生き残っているゴブリンが取り残されるが、構わずに轢いていく。
有名な砂漠を踏破するラリーで活躍するその走破性は、小柄なゴブリンがぶつかった程度ではびくともしない。
「でもよお」
「あ?」
「向こうがどこにいるかわかんねえんだろ?探せるか?」
「確かにな。だが、別にいいじゃねえか」
「え?」
「どうせあんな連中見捨てて出るつもりだったんだし」
「まあな」
「それに……俺らの能力、もっと試してみようぜ」




