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  作者: ひじきとコロッケ
六月十七日
59/176

(6)

  ◇  ◇  ◇




「どうやら追ってこないみたいですねぇ」

「全くやれやれだぜ」

「ふふっ」

「ん?」

「有名な漫画の主人公の口癖ね」

「あの漫画、好きなんだ」

「私も結構好き。実は全巻持ってます」


 かなりの距離を走って、日が暮れてきたので入ったのが、海沿いの観光ホテル。

 無人だが、まあひどい状態だった。しかし、客室は大半がまともだったので、勝手に使わせてもらうことにした。


「あ、このホテル、温泉がありますよ」

「お先にどうぞ」

「一緒に入りましょう!」

「イヤです」

「ぶう……司ちゃんのいけず」




  ◇  ◇  ◇




「思った以上に進めないもんだな」

「でしょ?」


 ことごとく道がふさがっていて進めない状況に典明が呟き、寿が自慢げに答える。

 高速道路も主要幹線道路も事故車両で埋まっていて、思うように進めないとは聞いていたがこれほどとは。仕方が無いので、基本は歩き。寿が時折上空から様子を見て、ある程度行けそうなところは車を出しているが……


「バイクの方が早いか?」

「司の判断、結構正しいのかもね」

「バイクかぁ……」


 碧が免許を持っていないので……タンデム?悪くはないのだが、なんだか色々アレな感じがするのでやめておこうと典明は判断した。そういうのは二人きりの時にする事であって、娘の見ている前ではやるものじゃないだろう。

 自宅まで残り二十キロ弱。日も落ちて、辺りはかなり暗くなっているが、今日中に着ければいいか、と三人の意見が一致。歩き&車でいいか、となった。


「ん?うーん……」

「どうしたの?」

「ラジオ、鳴らなくなったな。音楽でも聴きながらと思ったんだが」


カチカチとラジオを操作するが、放送電波は拾えない。


「10日くらいまでは放送してる局もあったよ?」

「そうだよな。テレビも何かレポーターが騒いでるだけで何の役にも立たなかったけど」

「多分、放送局にある食料が尽きて、出ていったんじゃない?」

「こういうときにまともに仕事しないって、あいつらはいつ仕事をしてるんだ?」




  ◇  ◇  ◇




「逃げられたぁ?」

「はい」

「すんません」


 ダン!とテーブルを叩くとうなだれていた四人がビクン、と震える。

 フードコートの隅に衝立で囲んだスペース内で何が起きているのか。興味はあってもあえて見ようとする者はいない。


「やはり俺が行くべきだったか……」

「イヤ、それは……」

「ふじさきつかさ……ランキング一位は伊達じゃねえって事か……クソッ!」


ガンッとテーブルが蹴られて、四人に当たる。


「まあまあ斉藤、そうカリカリすんなって。追跡中にトロールが出たんだろ?」

「は、はい……」

「向こうはバイク。そのまますり抜けて行っちまったんなら仕方ねえさ」

「……」

「お怒りごもっとも。だが、いつどこにどんなモンスターが出るかわからないんだから、こういうアクシデントもあるって……なぁ?」


 怒りに震える斉藤直也を軽い口調でなだめている男が周りに同意を求めると、「そうだな」「仕方ねえさ」といった同意の声が聞こえる。

 気が短く、すぐに手が出るタイプの斉藤を宥めるのはこの中で一番付き合いの長い松下茂樹の役目。


「ドローンによる観察、こちらの追跡に気づいてからの逃げ足の速さ。それだけでも充分だけど、逃げ方もなかなかだね」

「そうね。油まいたりペンキかけたりして強引に事故らせるなんて、何十年も前のスパイ映画っぽくて古くさいけど、実際にやられるとキツいわね」


 感心しているのは中井正行と落合恵実。

 この四人が★5レアだけを引いた、このグループの中心メンバーであり、司が推測した支配者階級のトップである。

 そして四人程ではないが、かなりの能力を有しているのが司たちを追跡していた四人を含む七人。

 サービスエリア内の秩序はこの十一人が支配しており、さらに十一人のお気に入りが二十人ほど。あとは人数すらろくに把握していないその他大勢だ。


「追跡者の範囲外に逃げられたんじゃ追いかけようがないんだし……な?」

「そうだな……だが……次は無いぜ?」

「は、はい……」


 シン、と静まりかえったところに息を切らせて一人の女が走ってきた。松下のお気に入りで確か、大村だったか。


「モンスター出現!十匹くらい。トロール込み」

「わかった。斉藤」

「チッ、面倒くせえ」


 斉藤が面倒くさそうに立ち上がり、女の指さす方へ歩き出す。なるほど確かにそちらの方角から悲鳴や打撃音が聞こえてくる。

 だが、悲鳴を聞いても特に慌てる様子はなく、ダラダラとしたペースで歩くだけだ。


「ちょっと、急いでよ!早くしないと!」

「しないとどうなる?」

「何人も死ぬのよ?!」

「死ねばその分食いもんの分配しなくてよくなるだろ?」

「う……」


 たっぷり三分ほどかけて、モンスター大暴れの現場に到着。武器も無く、Tシャツにカーゴパンツで防具も付けない格好で、両手をポケットに突っ込んだまま、数人の男と力比べ状態になっているオークへ向かう。


「オークか……ま、普通の人間にゃキツいよな」


 スタスタと近づき、チラリと視線をやった瞬間、オークが全身から血を吹き出し……ずるりと崩れ落ちた。


「うわっ(きたね)っ!」


 力比べ状態だった男たちは血まみれだが、斉藤は血の一滴も浴びていない。


「さて、あとは……トロール二匹か」


 グシャッと言う音と悲鳴が響く方向へゆらゆらと歩み寄ると、トロールも斉藤に気づき、その豪腕を振り上げる。

 が、


(おせ)ぇ」


 スッと手をかざすだけで、トロールが全身からシュウウと異臭のする煙を吹き出して崩れ落ちる。そしてどういうわけか、回復しない。


「あと一匹……ほれ」


 もう一匹のトロールも襲いかかろうとしたところで、斉藤が指でピストルの形を作り、「バン」とやると、おなじように全身から煙を吹き出して倒れ、動かなくなった。


「他は?」

「ゴブリンとゾンビだったから何とか」

「あっそ」


 興味なさそうに(きびす)を返し、フードコートの奥へ戻っていく。


「マジハンパねえな」

「ああ……」


 そんな声を聞きながら元いた席に座る。


「相変わらずすげえな」

「あんな雑魚、自慢にもならねえよ」

「斉藤、ちょっと自慢げなんだが」

「……うっせえ!殺すぞ!」

「はははっ、スマンスマン。頼むから殺さないでくれ。な?」


 昔からつるんでいた四人はあの日、斉藤が気付いた説明文の続きに従い、★5レアのみを出した。他の誰にも情報を流さず、あらかじめ取り巻き七人で本当に確率が上昇しているのか、十一時頃から検証をした上で。

 その結果手に入れたスキルはどれも生きていく上では重宝し、誰一人として斉藤に頭が上がらないのだが、それ以上に斉藤が手に入れた敵を瞬殺するスキルの正体がわからないので、刃向かうとか言う気にもならない。結果、とりあえず機嫌だけ取っておけば生きていられそうなので従っているという、極めて歪な協力関係が築かれていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] くずVSくずの構図かな
[一言] やはり気付いていた人はいましたか
[気になる点] なんなーくだけど、作者は洋ドラ好きのような気がする
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