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  作者: ひじきとコロッケ
六月十七日
56/176

(3)

  ◇  ◇  ◇




「ああ、恐かった」


 ぷはっとペットボトルをあおりながら成海が呟く。原付のガソリン補給がてら、少し休憩だ。


「あの問答無用な感じ、何だろうね」


 その疑問はもっともだが、おそらくとても簡単な理由だろう。


「多分、この状況がこんなに続くとは思っていなかったんじゃないかな」

「ああ、そういうことね」


 サービスエリアにはレストランもあるだろうから、食料の備蓄もそれなりにあったのだろう。それを管理すればある程度の人数がいても数日間は保つ。そこで、何人かの使える(・・・・)スキル持ちが中心となって、サービスエリア全体で籠城作戦をとったと言ったところか。だが、その期間が五日経ち、十日経ち、とうとう二週間を越えた。


「おそらく数日前から破綻していたのかな、と」

「破綻……ねえ」

「遠くから見えただけだからよくわからないけど……あそこにいる人たちは三種類に分かれていたと思う」

「三種類?」

「まず、この状況下で有効な、強いスキルを持った、いわば支配階級。そして、支配階級に支配される人々」


 指を二本立てる。


「そして、支配される人々が二種類に分かれる。支配階級からある程度気に入られて優遇される人と、特に関心を寄せられない、煙たがられる、搾取される、粗暴に扱われる人」

「はい、質問」

「何でしょう」

「支配階級はわかるけど、気に入られた人って?」

「あそこで並んでいたのは気に入られた人と粗暴に扱われる人の混成だと思う。見ていた感じだとすんなり何かを受け取れている人と、いきなり殴られたりしている人がいたように見えたよね?」

「見えたねぇ……って、それで二種類に?」

「そう」

「んー、優遇されている人が混じってるのって意味あるの?」

傍目(はため)には支配する側、される側という構図になるから反発されにくくなる、かな?」

「そう言う物なの?」

「ま、あの極限状況の精神状態だと、支配してる連中から「こうだ!」って言われたら無条件に信じるんじゃないかと」

「なるほどねぇ」

「ま、勝手な推測だけど」


 他にも何かありそうだけど、関わるつもりもないから真相を知りたいとは思わない。


「じゃ、優遇されるされないって、どういう基準で分けてるのかな」

「多分……」


 憶測で、ひどい話だから言いづらいがと前置きして述べた。


「ある程度使い勝手のいいスキル持ち、または支配階級が個人的に好意を持って接したいと思った人物とそれ以外、かな」

「え?どういうこと?」

「ある程度使い勝手のいいスキルってのは、例えば……多少戦闘の補助が出来る魔法があるとか、食べ物をほんのり冷やして保管できるみたいな微妙に役に立つ能力とか」

「それは何となくわかるかな。もう一つの個人的な好意って?」

「言いづらいけど、性的な目的?」

「げ。マジで?」

「お前に食い物を多めに回してやるから自由にさせろ、とかそういう感じ?」

「男って最低」

「いや、支配階級に女性がいたら男性もターゲットにするでしょうし……男が男をとか、そういうケースも少なからずありそうな気が」

「うわあ……他でも似たようなこと、起きてるんですかね……」

「こういう状況だと、あり得るかな」


 少なくとも★3以上を出して、戦闘や生存に有効なスキルを手に入れたら、かなり優位に立てるのは間違いない。それは自分たちの今の状況が示している。

 だが、その時に「他人にまで無条件にその恩恵を施すか」というところで、二人は「ノー」と答える。一方で「ある程度利害が一致したり、置かれた状況が近かったりする他人を排除するか」というと、こちらも「ノー」と答える。

 二人とも、今の何も新しい物を生産できない状況はジリ貧で、自分たちの持っている物資が有限だと言うことを理解している。気軽にホイホイ施したらそのあとどうなるか。だが、目の前で空腹を訴えている人がいたら、一食二食くらいは分け与えてもいいと思っている。もっとも、それ以上絡まれたくないのですぐにその場から逃げ出すことが前提だ。


「さてと……ん?」

「え?」

「車の音?」

「え……あ!」

「マジかよ、まだ追ってきてるのか?!」

「ど、どうしよう?」

「どうしようって……逃げるしかないって!」


 二人がいるのは道路沿いのちょっとした空き地。そしてその道路はセンターラインこそ無いが、車が楽々すれ違えるほどのなかなか立派な道路。原付で逃げたとしても今度こそ追いつかれる。


「成海さんって車の運転は?」

「出来ると思う?大学入ってすぐに免許取ったけど、原付に乗ったのも久しぶりよ!」

「ですよねー」

「司ちゃんは?」

「免許取り立てッス」


 つまり、仮に自動車を出したとしても、運転技術では追ってくる連中よりはるかに未熟。原付よりも追いつかれるまでの時間が少し長くなる程度だろう。それなら細い道でも走りやすい原付の方がマシだとエンジンをかける。

 司が走りながら、ヘルメットに付けたインカムをオンにする。


「とりあえずここまででの推測」

「うん?」

「相手は俺たちを追跡できる能力、成海さんの追跡者と同じかそれに近いスキルを持っている可能性がある」

「そうね……ハァハァ……」


 成海の様子がおかしい。見た目で気付かなかったが、どこか具合でも悪いのだろうか?


「成海さん……大丈夫?」

「だ、大丈夫よ……ハァ」

「息が荒いんですが」

「そりゃ荒くもなるわよ、司ちゃんのかわいい声が耳元で息づかいまで聞こえたりなんかしたら」

「置いてくぞ!」


 走り続けて三分もしないうちに、後ろにでかいSUVが二台見えてきた。最悪二手に分かれて、と言うことも考えたのだがこれでは意味が無い。

 さてどうしようか。

 さっきの休憩中に地図を見た限り、逃げ込めそうな場所は無さそうだし、こちらを追跡する能力があるなら少し目くらましをしても意味は無いだろう。


「司ちゃん!」

「はい?!」

「もっと声を聞かせて!」

「おいいいい!」

「冗談よ!」

「冗談かよって、何かいい案が?」

「思いついた!」

「おお!」

「だけどここじゃ無理ね、もう少しいい場所がないと」

「いい場所?どんな感じの?」

「んーと……」


 成海の出した「いい場所」の条件はそれほど難しい物では無く、多分この先にあるだろう。ついでに言うと、何をしようとしているかもすぐにわかった。


「それで一台は始末出来ると思う」

「多分あと少し行ったところにあったかな。さっき見てた地図だと」

「よし、じゃあ少し先に行くわ」

「俺も一つ思いついたから、試してみる」

「わかったわ」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何故わざわざ小説を使ってLQBTQへの批判をしたのかわからないです。主人公も身体が女、心が男の実質トランズジェンダーなのに、ゲイの人たちを「腐ってないから嫌悪感を抱くのが当然」のように…
[気になる点] 敵は車で追ってきているのだから、ガソリンなり灯油なりを地面に撒けばスリップして勝手に自滅しそうだけど。 後はその辺に大量に転がっている車をアイテムボックスで回収して進路上に置けば、事故…
[一言] 男女二人って事でヒャッハーしてそうなサービスエリアからの追っ手達、というか主人公があっさりアイテムボックスを暴露したから追いかけられてるんじゃね? 高速道路の下に降りてモンスターと遭遇する…
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