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◇ ◇ ◇
地理上は湖、河川法では川、漁業法では海という湖に架かる橋の向こうにサービスエリアが見える位置まで来たところで止め、双眼鏡を出して二人で確認。
「うわあ……何あれ」
「道路封鎖とか、ガチっぽい」
「つか、あれコンクリートブロックよね。よく持ち上げたわと感心しちゃう」
「怪力とかそういう系のスキル持ちがいるんじゃないか?」
「それは勝ち目ないわねぇ」
少し後退して、ドローンを出して飛ばし、サービスエリアの状況を見る。
「「無いわあ」」
二人してハモる。
大勢の人間が一列に並んでおり、その先頭では何かを配っている。おそらく食糧を配給制のようにしているのだろう。限られた資源の分配手段としては、確かに有効な方法だが、見ていると、三人に一人くらいは殴られ、転がされた上で何も渡されないという状況になっている。
「暴力で支配みたいな感じ?イヤそれにしては……」
「殴られてるの男ばっかりに見えるの、気のせいじゃないよね?」
胸糞悪い物を見せられているのだが、ではアレを助けに行けるかというと無理だ。
司はそのレベルアップによって得られたステータスのおかげで、常人ではあり得ないほどの運動能力を得ている。成海もかなりレベルが上がっていることに加え、二種類の魔法に瞬間移動なんて物もある。
少人数相手ならおそらく負けることはないが、ガチャの紙に書かれていたとおりなら相手の方が数では上。しかも巨大コンクリートブロックを運べるような能力持ちがいることを考えると、あそこに飛び込んでいって「暴力をやめろ」なんて、わざわざ捕まりに行くだけでしか無い。
「引き返して別ルートに」
「賛成。異議無し」
そう決めて、引き返そうとしたのだが、
「マズい、こっちに気づいたみたい」
「え?マジで?!」
成海が司よりワンテンポ遅れて双眼鏡をしまおうとしたところで、数名がこちらを指さしているような動きを見てしまった。
「ブロックの前に止めてある車に乗り込んでる!」
「全力で逃げる!以上!」
「了解っ!」
原付に飛び乗って引き返す。逆走?原付で高速道路を走っている時点で苦情は一切受け付けないので気にしません。
アクセルを全開にして飛ばしているが、原付と自動車の違いは明らか。追いつかれるのも時間の問題だが、あらかじめ逃げることを前提にしていたから準備もしていた。
「「アイテムボックス!色々ばらまき!」」
ホームセンターで集めていた、木や鉄等の資材にレンガブロックなんかをバラバラ落としてやる。高さ1メートル以上、道幅一杯、長さ10メートルほどに積み上げれば重量も相まって立派な障害物。車を降りて端を歩くか、ガラクタの山をどかすかの二択。そして、こうやってバラバラに落としてあるとアイテムボックスでも一度に回収出来ないから足止めとしては充分だ。
「今のうちに!」
原付を降りてガードレールを跳び越えてすぐ下を交差する道路へ下り、再び原付に。しかも、わざわざ反対車線、高速の北側に飛び降りて、高速をくぐって南側に逃げていくという目くらましつき。
車で追いつこうとしても、ここまでの自由度は出せないと踏んで、逃げ切ることは出来ると考えているが、全くもって面倒な連中だ。
幸い、高速を降りてからの道はそこらに車が止まっているようなことも無いのでスイスイと進め、三十分ほど走ったところで一旦休憩とした。
朝からずっと走っていたので、ガソリンも入れておきたい。
◇ ◇ ◇
船を出る決断をした乗務員の内、伊藤と谷川の二名に案内され、救命ボートを確認する。
「二十五名が乗ると言うことですと、こちらですね」
「結構大きいですね」
「ええ。この船の救命ボートとしては小型の方ですが、これでも六十名乗れます」
本来なら、全員が一度に乗って脱出可能なんですよね、と呟きながら伊藤がボートのハッチを開く。季節柄仕方が無いのだが、ムワッとした熱気があふれ出てきて全員が少し顔をしかめる。
「中はこんな感じです。一応自走することも出来ますが、港まで着けるかというと正直何とも」
中に入った谷川が座席や小さな窓を示しながら説明する。なるほど下を見ると確かに小さなスクリューがついているが、燃料は四時間程度しか保たないらしい。どこかの港か砂浜に着けるのではとも思ったが、速度がそれほど出ないというから寿がどうにかするしかないか。
「んー」
「寿、どうしたの?」
「さすがにこの大きさは引っ張れないなぁ……って」
「そう……」
「うん、決まり」
「どしたの?」
「ちょっと部屋に戻るね。準備してくる」
「わかったわ。じゃあ、こっちはこっちで進めておくけど」
「うん!」
準備を任せて寿は両親の客室に戻り、アイテムボックスから色々と取り出す。司が「何でもいいから集めていけ。きっと役に立つ。特にホームセンターは根こそぎ行っとけ」と言っていたが、まさに今のための言葉だった。司ちゃんを褒めておくリストに書き加えておこう。
ノートとペンを取り出し、造ろうとする物の絵を簡単に描いていく。
「こんな感じになればいいかな?あとは……こんなの回収したっけかな……あ、あった。あとはこれと……これもあるから……」
ベッドをどかして作業場所を確保し、トンカントンカン工作を開始。コストも重量も度外視し、頑丈さだけを追求という贅沢仕様。本来考慮すべき安全面も寿が使う前提ならば問題は無い。急いで作ったつもりだが二時間もかかってしまっていた。
明らかに部屋を出られないサイズの物が出来上がったが、アイテムボックスがあれば問題ない。だが、出来上がったそれをしまって廊下へ出た途端、上から殴られた。
「痛っ!」
探知を切っていた寿が悪いのだが、廊下にオークとゴブリンが数匹うろついていて、ドアを開けた途端に棍棒で殴られたのだ。
「嘘っ?!」
モンスターが突然現れる現象は船の上でもお構いなし。すっかり忘れていた。
「ていっ!」
オークとゴブリン程度ならすぐに片が付く。だが、
「救命ボートが!」
廊下を駆け出した。あんな無防備な状態でトロールなんかに襲われたらひとたまりも無い。




