(3)
◇ ◇ ◇
「では、ガチャ実行」
ここ数日のガチャ結果から、時間による変動はないのでは?と推測したので、しばらくは朝食後にガチャを回すことに決めた。
これまでに出た物をメモした紙を眺める。
★3 偽装スキル、解錠スキル、経験値千×三、HP十%回復薬、一時間だけ運を+1する薬、一時間だけ素早さを+1する薬
★4 拳銃 素早さ+1、日本刀、経験値三千、力+1
★5 完全回復薬
★1、★2が出ないのは豪運の効果だろうか。そんなことを考えながらガチャを実行する。レバーが回り、コロン、とカプセルが転がり出る。
「お、出ましたね。今日は★3ですか」
ガチャ自体は本人にしか見えないが、排出されたガチャは他人からも見える。
そして、パカッと開いたそこにあったのは……
「銃弾!当たり……なのかな?」
「嬉しいような、嬉しくないような」
銃弾と言ってもたった一発。それでも、ないよりマシかとアイテムボックスから拳銃を取り出す。
ここ数日、銃をいじっていたので、迷うことなくガチャリと弾倉を取り出す。
「ダメだな」
「ダメですか」
明らかにサイズが違う。
どうもこの拳銃は小口径のようで、出てきた銃弾は弾倉の弾を込めるところよりも幅が大きく、入らない。
「ま、予想はしてたけど」
「残念ですねぇ」
「仮に入っても一発だけだからな。あまり意味は無いな」
◇ ◇ ◇
「寿は大丈夫なのか?」
「うん、平気」
父の問いに平然と答えるが、見た目だけで言うと重傷を負っているように見えてもおかしくないので気が気でない。着ている服はあちこちが焦げているし、顔や手足は煤で真っ黒。そこに赤や緑の液体――返り血だ――がべったりとついている。
親としては今すぐどうにかしたいのだが、それより優先しなければならないこともある。
「じゃあ……頼む」
「まかせて」
メインホールから階段を上ると、こちらもまた最上階の扉の前にガッチリ組み上げたバリケードがある。
この向こう側の通路の突き当たり扉の向こう側もモンスターだらけ。だが、早めにバリケードを組んだので頑丈に出来たのと、モンスターが通路とこのドアに気付いていないらしいので今のところは安全。とは言え、いつこちらに気付いてもおかしくないため、何とかしたいのだが、数が多くて手を出せていない。
「よいしょっと」
寿が通気ダクトの中に体を突っ込んでいく。
下準備はバッチリ……のハズ。あとは寿がうまく立ち回れば、船内にいる戦う意志のある有志と協力してなんとかなる……ハズ。一番確実なのは寿が飛び込んで無双する方法なのだが、出来ればこの設備は使えるようにしておきたいとの意向からちょっと無理をしよう、となった。
「ちょっと狭いけど、このくらいなら……」
先に見せてもらったダクトの見取り図を思い出しながら匍匐前進。元々人が通るように作られていないダクトは小柄な寿でもかなり狭いがなんとか進める。
「……これって、私が……凹凸の凸が無い……から……」
うがあっと、ちょっと自己嫌悪に陥って頭を抱えた。何だかんだ言っても色々と気になるのだ。
若干余分な時間がかかったものの、目的の位置に到着し、そっと蓋を外す。
探知によると、室内のモンスターは二十ほど。内、トロールが五匹というのがかなりキツい。
「とおっ」
モンスターの位置がいい感じになったところで、かけ声一発で飛び降りると、一気に前方へ駆ける。そして、寿に気付いたモンスターたちが向かってくるが、相手をする前にやることがある。
「えいっ!やっ!はっ!」
いちいち声を出す必要は無いが、そこは気分。大きな窓を三つ全開にすると、気持ちのいい潮風が入ってきた。
だが、風を堪能している余裕はない。すぐに振り向くと、こちらに飛びかかろうとしていたオークを右ストレートで昏倒させつつ、足をつかんで振り上げる。一瞬モンスターたちの足が止まるが、本能的なものなのかすぐにこちらに向かってくる。
「さあ、行くよ!」
つかんだオークを振り回して、飛びかかってくるモンスターを一瞬怯ませてから窓に向けて放り出す。
「もう一匹!」
オークが二匹、窓から放り出されたが、その先に待っているのは……
「来たぞ!」
ドボーン!
デッキにあるプールにオークが落ちる。さすがのコントロールだと感心しながら典明は周囲に集まった全員に声をかける。
「火を点ける!気をつけてくれ!」
あらかじめ用意しておいた松明をそっと液面に近づけると、ボウッと燃え上がる。あらかじめプールの水を抜き、灯油でいっぱいにした火のプールの完成だ。引火のさせやすさではガソリンに軍配が上がるのだが、火の扱いのプロがいるなら灯油でも構わないし、何よりガソリンは寿のジェットの燃料なのでプールに満たすほどの量はあまり使いたくない。
「寿!いいぞ!どんどん来い!」
「はーい」
典明の叫びに間延びした返事が返り、ポーンポーンとオーガ二匹とオークが一匹降ってくる。ドボンとプールに落ちるくらいなら何のダメージもないが、そこが火の海だとすると話が変わる。
深さは一メートルほどでモンスターの身長よりはるかに浅いが、燃えさかる炎と動きを阻害する灯油の水圧……いや油圧か?……で、なかなか自由が利かず、バシャバシャともがいているところに周囲から追撃が入る。
「食らえ!」
「おりゃ!」
扱いやすく、プールに落ちてもモンスターが簡単に拾って使えそうにないもの、ということで女性陣がファスナー付きビニール袋に詰めた灯油を、男性陣がボーリング玉を投げつける。
それぞれ火力の追加と物理ダメージを期待してみたのだが、思いのほかよく効いていて、プールに落ちて三十秒と保たずにプカリと浮かぶだけになる。
「いいぞ!」
「次、トロール!」
「了解!」
モンスターが次々と放り込まれ、倒されていき、いよいよ本番という雰囲気の寿の声に全員が緊張する。
船内に現れた中で一番大きく力も強く、おまけに常識を越えた再生能力を持つモンスターを本当に倒せるのか、と。
「ていっ!やあっ!えいっ!」
左手の刃で切り裂き右拳で殴り、少しフラついたところに体当たりをして弾き飛ばす。力加減が難しいが、そこは機械の体、絶妙なコントロールが出来て、深い切り傷と一部が潰れた状態のトロールが狙い通りプールに着水した。
「追撃!」
「おう!」
早くも再生しかけたトロールに今度は物干し竿の先にサバイバルナイフを括り付けて作った槍を突き立てられる。手に伝わってくるイヤな感触に戸惑い、手が止まるが、典明が「頑張れ!」と叫び、自らも槍を突き立てて見せると、全員が気持ちを奮い立たせる。
「次行くよ!」
「おう!」
こうして最上階にある展望露天風呂を占拠していたモンスターは全て排除された。寿の探知によると船内にはまだ数匹のゴブリンが隠れていたが、見つけてしまえばどうと言うことの無いモンスター。あっという間に排除され、船内におよそ二週間ぶりの平和が訪れた。
「私、一発で大当たりした友達、知ってますよ?」
「何の一発が大当たりしたのかは聞かないでおきます」




