(2)
◇ ◇ ◇
「何かいる」
「ええ」
車が折り重なって道路を塞いでいるので原付を止めたのだが、その車の向こうから三メートルはありそうな巨大な人型のモンスターがぬっと現れ、すぐに車を乗り越えてきた。灰色がかった緑色の肌に醜悪な顔、そして両腕と顔面にべったりとついた赤いものを見た瞬間、アイテムボックスを発動させた。
「コンテナ落下!」
ゴン!ゴン!とモンスターの周囲を囲むが、その巨体故にコンテナの高さでも頭が見えていて、乗り越えようとコンテナに手を掛けている。
「もう一段!」
さらに一段積み上げて周囲を囲み、モンスターの真上からコンテナを降らせる。
「ガアッ!」
「マジか?!」
二十フィートの鋼鉄製FCLは空の状態でも約二トン。中に物を詰めれば十トン以上にもなるというのに、その重さに耐えている。
「さらに追加よ!」
司に続けて成海がコンテナを降らせるとさすがに静かになった。
「ふう……」
「トン単位の重さでやっと……」
「まさにモンスターね」
この調子だと、今後はもっと強いモンスターが出てくるだろう。上から物を落とす、以外の戦い方を考えないとこれからは厳しいかも知れない。
「これ、普通の人はどうやって戦うんでしょうね」
「んー、これで倒せるとは思えないんだよな」
「斧とか」
「あんなのに近づきたくないな」
「じゃあ、銃ですか」
「バズーカとかそう言うのじゃ無いと通じない気が」
「ですよねぇ」
「案外、重機とかの方がいいかも」
「ブルドーザーでどーん!ショベルカーでばーん!……アリですね」
一応数台回収しているが、当然操作方法がわからないので、上から落とすくらいしか使い道がない。
そんなことを話しながらコンテナを回収。血まみれになっていても、コンテナだけ回収出来るというのは便利だな。
「え……」
「ん?」
ほぼ平らに潰したそれを見ないようにしていたのだが、成海がなぜか注視している。
「司くん、マズい」
「え?」
「生きてる!」
「マジで?!」
振り返るとそこには、確かにぐちゃぐちゃに潰したはずだったのに、モゾモゾとその肉が盛り上がり、元の形に戻ろうとしている。
「どういう……こと?」
「あれ、トロールだって」
「トロール?」
成海が追跡者のスキルでモンスターの名前を確認し、ファンタジーでは比較的定番の名を告げる。
「そうか、トロールか……」
「ど、どうしよう……逃げる?逃げるしかない?」
成海が逃亡を提案してくるが、
「成海さん、一つだけ試したいことがあります。手伝ってください」
「わかりました!」
ジュルジュルとイヤな音をさせながら再生していくモンスターの周囲を確認。よし、大丈夫。燃える物は無い。
「行きます……アイテムボックス!灯油投下!」
全身の姿がだいたい戻ってきているトロールの真上から灯油をまく。
「成海さん、火を!」
「了解!火の矢!」
ボッと音をさせながら火の矢がトロールに突き刺さると、すぐに灯油に燃え移り、全身が燃え上がる。
「@#$!%&!」
再生しかけていたモンスターが悲鳴を上げ、ジタバタと暴れ出す。
「もう少し灯油追加」
「どうですか?」
「多分行ける」
やがて、全身が燃え尽きて、動かない灰の山になった。
「ふう」
「すごいモンスターね」
「トロールの厄介なところはあの恐ろしいレベルの回復力ですから」
司のゲーム記憶によるとトロールは火か酸でないとダメージが回復してしまうハズだったので試したのだが、正解だったようだ。
燃料をまいて火を点ける。言葉で言えば簡単だが、ライターで何かに火を点けて投げてちゃんと火が点くかというと正直不安である。そう言う意味では火の魔法は実に便利。これだけでも成海と行動を共にしたメリットはある。
イヤな臭いをさせているそれの横を抜け、原付を取り出して走り出す。まだ先は長い。




