(1)
天下の険と謳われた山道を超え、なだらかな道を下っていく。
そろそろ日が暮れるのでどこか休めそうな場所を探していると、
「お、あそこなんてどう?」
「いいんじゃないですか?」
全国展開している大型スーパーがあったので立体駐車場へ入る。
予想通りひどい状態だが無人。キャンピングカーを出しても邪魔にはならないだろう。
「イマイチでしたね」
「予想はしてたけどな」
スーパーの中を見て回ったが、食料品はあらかた持ってかれたあとだった。缶詰、レトルトはほとんど残っておらず、生鮮食品――腐っていたけど――は残っていたと言うことは寿ではなく、付近の住民が持って行ったのだろう。
日用品は残っていたので半分ほど回収したが。
「あとはトイレが生きていたのが嬉しいところかな」
「私は大自然の中でするのもいいかなぁって思い始めてますけど」
出来れば文明社会に戻ってきて欲しいところなんですけどねえ。
ここまでの間に出てきたモンスターはオーク、大トカゲの他、狼に熊、大コウモリと言った動物系の他、コボルドにウッドゴーレム、オーガである。かなりの強敵も増えているのだが、工場なんかで回収しておいた鉄製のコンテナ(中身入り)で周りを囲み、成海の魔法を撃ち込みながらさらに追加でコンテナを落として押しつぶす、という雑な戦法で倒せている。アイテムボックス様々だが、それ以上にいきなり目の前に現れるなんてことが無いおかげで落ち着いて対処出来ている。
藤咲司 レベル45 (67/450)
HP 67/67
MP 55/55
力: 44(+11)
魔力: 23(+11)
素早さ: 39(+11)
頑丈: 32(+11)
運:MAX
スキルポイント:43
称号
先駆者★★★★★★★
スキル
豪運
成長促進
アイテムボックス レベル10
性別転換
ガチャ
偽装 レベル4
解錠 レベル1
今のところ、上げておきたいスキルも無いのでスキルポイントはそのままにしてある。
赤畑成海 レベル7 (1001/7000)
HP 22/22
MP 32/32
力: 8
魔力: 15
素早さ: 10
頑丈: 10
運: 14
スキルポイント:1
スキル
追跡者 レベル1
瞬間移動 レベル1
アイテムボックス レベル6
火魔法 レベル5
水魔法 レベル5
一方、成海はアイテムボックスのレベルを六に上げた。時間停止はとても貴重なので。
「成長促進とか羨ましいです」
「イヤイヤ、成海さんも結構なペースで上がってますよね」
司の戦闘スタイルは相変わらず金属バット(三本目)だが、レベルアップに伴って上昇している力や素早さに加え、アイテムボックスからの重量物落下攻撃のおかげでかなりの強敵でも安定して戦えるようになりつつある。そして、共闘している成海も引っ張られるようにレベルが上がっている。
「細かい確認はしてないけど……成長促進とか先駆者って、一緒に戦っている人にも効果があるかも知れないな」
「それはそれでありがたいんですけど……すごく目立ってます」
司は相変わらずランキングトップを独走中。ランキング二位も頑張っているのだろうがまだレベル十一。そしてランキング上位五十位以内に成海も入っている。ちなみに日本人限定で言えば五位になる……日本人の比率が微妙に高いのは謎だが。
「世界トップレベルですけど……嬉しいかと言われると微妙です」
ローマ字表記ではあるが名前が公表されているというのは、都合が悪いこともある、と言うことだ。
「大丈夫でしょ。俺に比べれば」
「それはそうですけどね」
「ところで」
「何でしょうか?」
「そろそろ離してもらえません?」
「いやです」
司が女になっている日の夜はキャンピングカー内で抱き枕状態。振りほどいても寝ている間にこの体勢にされてしまうので、少し諦め始めている。
「俺、こんな見た目でも中身は男なんですよ?」
「知ってます」
「大学生男子なんて、性欲の塊なんですよ?」
「知ってます」
「日付が変わった直後に、襲っちゃうかも知れませんよ?」
「別に構いませんよ?」
説得出来ませんでした。なんとか理性を保ちたい……うん。
◇ ◇ ◇
「むー、何か司ちゃんがよろしくないことをしているというか、されているというか……そんな感じがする」
ようやく大阪に到着し、一番高いビルの上で夜明けを待とうとしていたのだが、どうにもイヤな予感がする。
「こんなことなら、どこかでスマホを拾っておけば良かったな」
そうすれば司とも連絡が取れただろうに……朝昼晩と寝る前起きた後、さらにあと一時間おきに。
「それにしてもやっぱり変だなぁ」
両親の位置を探知しているのだが、ここから見ると淡路島の向こう側。どう見ても海の上。
「何やってんだろう?釣り?」
はて、あの両親に釣りの趣味があっただろうか?それとも私たちが大学進学してから始めた趣味なのだろうか?
「ま、行けばわかるからいいか」
ゴロンと横になる。
「司ちゃん、おやすみなさい。ちゃんとお姉ちゃんと一緒の夢を見るんですよ」
かなり無茶を言っている自覚は、勿論無い。
◇ ◇ ◇
「藤咲司の続報です」
「聞こうか……あ、イヤいい。どうせ見つからなかったんだろう?」
「まあ、そうなんですけどね」
「少しでも希望が持てる報告なら聞くが」
「絶望しかないですね」
「はあ……一応聞こうか」
「はい。携帯番号が判明しまして、携帯会社に連絡、緊急時と言うことで位置情報の開示をさせました」
「それで?」
「神奈川県内で六月八日に位置情報の記録があり……それ以降途絶えています」
「……それで?」
「確認に行った結果がこちらです」
ビニール袋に入った残骸が机の上に置かれる。
「高いところから落ちたようで、ご覧の通りバラバラに。なお、SIMカードは本人のものだと確認が取れました」
「はあ……」
「しかし、一つ言えることがありまして」
「ほう?」
「スマホが落ちていた地点は藤咲司のアパートから西方向」
「実家に向かっているのは間違いないな」
「はい」
「緊急配備だ……って無理か、人をそこまで割けん」
「はい」
「引き続き調査。あと実家の様子も見るように」
「手配します」




