(4)
何も考え無しに信じて協力体制の申し出に応じたわけではない。
仮に赤畑さんが俺を攻撃したとしよう。
魔法でキャンピングカーくらい吹き飛ぶと言っていたから不意討ちすればいくらでも出来たはずだが、その場合俺が生き残る確率は極めて低い。と言うか、死ぬ。彼女の言うとおり、俺は戦闘系のスキルが無いからな。
だが、俺を攻撃するメリットは何だろうか?
俺に性的に襲われて、反撃するというのならともかく、わざわざ追いかけてきて攻撃するとしたら、俺のアイテムボックスの中身が目的になるだろうか。だが、俺が死んだ場合、アイテムボックスの中身はどうなるんだろう?
可能性は二つ。永久に消失するか、いきなりその場に全部ばら撒かれるか。
消失する場合は、当然ながら目的は達成できない。俺を殺しただけと言うことになる。
では、その場にばら撒かれた場合は?彼女の瞬間移動は百メートルほど移動できると言うことだが、収納している物資が百メートル四方で納まるとは思えない。ということは……圧死は免れない。
つまり、俺を殺してもアイテムボックスの中身を入手することは難しい。俺がアイテムボックスにどれだけ入れてるか、正確には把握していないだろうけど、ある程度は予想して行動しているだろう。
ではアイテムボックスの中身を諦めるとして、彼女が俺を殺して得られるメリットは……多分ない。月が変わるときに死ぬ最下位一万人ギリギリで競っているのならメリットはあるかも知れないが、俺はランキング一位、彼女もレベル四ならそこそこの順位のハズで、当分は最下位一万人を気にする必要は無いはずだ。
つまり、協力体制という彼女の言葉は、現時点で信用してもいいと思う。判断材料は少ないけど。
そして、彼女の持つ戦闘向きスキル、特に火魔法と水魔法は、現状で戦闘向きのスキルの無い俺にとってきっと役に立つ。今まで出ているモンスターはゴブリンとゾンビくらいだが、今後は物理攻撃が効かないモンスターも出てくるかも知れないのだから。もちろん、これから先のガチャで出る可能性もあるが、いつ出るかわからない物に期待するのはどうかと思う。
つまり、この申し出は俺にとってメリットはある。ならば、俺のスキルについてはきちんと伝えておこう。聞かれて困るほどの秘密があるわけでは無いし。
「まず、アイテムボックス。レベル十だ。中に入れた物の時間が止まるという、お約束機能付きで、容量がどのくらいか見当が付かない」
「時間停止って、レベルいくつからなんです?」
「スキル説明にはレベル六からと書いてあった」
「よし、がんばります」
ぎゅっと両手を握りしめる赤畑さん。仕草がいちいち、可愛い。さっきそう言うのはしないって宣言したのをちょっと後悔。イヤ、人としては正しいはずだ。
「で、次が成長促進」
「えっと……レベルは?」
「無いな。ユニークスキルらしくて、レベル無し」
「へえ」
「効果は経験値の増加とレベルアップに必要な経験値の減少」
「それでランキング一位に」
「そう言うこと。つまり、何かコツがあるとかそう言うのでは無く、このスキルのおかげなんだよ。で、次に豪運。運がMAXになる」
「MAX?」
「ステータスの表示がそうなるんだ」
「へえ……その運で、私と出会えたんですねっ」
このポジティブ思考はちょっと尊敬に値するな。
「いやあ、司くんって本当にラッキーですよねぇ!」
「それはそれとして、ガチャ」
「スルーですか!スルーですか!……って……ガチャ?」
「うん。一日一回出来るガチャ」
「へえ……何が出るの?」
「例えばこんなのが出る」
拳銃を見せる。
「おおお!ほ、本物?!本物なの?!」
「うん、本物」
おっかなびっくり触っているのでネタばらししておこう。
「弾がないから、精巧なモデルガンと変わらない感じだけど」
「ふぇっ?!」
「銃しか出なかったんだよ。で、弾を手に入れる方法がないと来た」
「世の中うまく行かないねぇ」
「そのうち弾もガチャで出るかも知れないけど」
「おおっ!」
「知ってる?銃弾って色々とサイズがあるんだって」
「ああ、なんか聞いたことありますね。何口径とか。そうですね、サイズが合わないと意味ないですね」
「それに……」
「それに?」
「サイズが合っても一発しか出てこないとか」
「うわぁ、ありそう」
カプセルからコロンと転がり出る弾丸……流す涙の方が多いかも知れん。
「で、このガチャ、スキルも出るんだ」
「おお!」
「出たのが……解錠」
「鍵を開けるスキル?使いどころが微妙ね……ゾンビに追われて鍵のかかったドアを必死に開けようとするときには便利そう……?」
「ゾンビ映画のシーンを再現したいとは思わないけど」
「私も」
すっげえ臭いからな。
「で、偽装」
「偽装?」
「こんなことが出来る」
スッと右手で両目をかくし……いかにもなポーズを付けながら、片目を金色にして指の隙間から見せる。
「ククク……我が瞳は真理を見通す神の瞳!」
「ぷ……うははははっ!」
床に転がりながらバタバタと笑い転げだした。
「はーっ、はーっ……お、お腹痛いです」
「そこまで受けるとは思わなかった」
「不意討ち過ぎ、本当に。でも、見た目が変わるだけなのね?」
「そう言うこと。後はアイテム系だな。完全回復薬とか出た」
「エリクサーって奴?」
「そうそう、そう言う系」
さて……あと一つも説明しないとダメだろうな。
「ガチャはこんな感じ。何となくだけど、最初のあの二四時間限定ガチャが毎日出来るみたいな感じだ。で、あともう一つ、ユニークスキルがあるんだけど、詳細は明日」
「へ?」
「実際に見た方がいいと思うから」
「なるほど。わかりました……それにしてもスゴいです」
「え?」
「運MAXに、成長促進、アイテムボックスにガチャ。さらにもう一つ……って、全部★5レア?!」
「ああ、それなんだけど」
最初のガチャの時間経過による確率変化について説明しつつ、ガチャスキルがそれと同じか検証中と言うことも告げる。
「なるほど。確かに私も結構時間ギリギリでガチャをやりましたけど、もう少し待てばもっといいのが出たかも知れないと……ちょっと残念」
「今更の事だし、★5だからと言って戦闘向きとも限らないからそこは何ともコメントしづらいな」
「あはは、そうだね」
説明を終えたところで晩飯にすることにした。俺の方がたくさん食料を集めているので、一応リクエストがあるか聞いてみたら、
「その……お寿司食べたい」
と言うことで、パック寿司を出した。そうか、時間停止の無いアイテムボックスだと生鮮食品は厳しいよなと、泣きそうな顔をしながら寿司を食べるのを見て……ちょっと引いた。さすがに必死すぎだろ。気持ちはわかるけどさ。
ちなみに風呂とトイレはキャンピングカーの物は使えないと伝えた。なかなか立派な物がついているが、事前準備が必要らしく、使い方がよくわからないからだ。
「外でトイレって……ちょっと何かに目覚めそうねっ」
「いや、目覚めないから」
「そう?」
「つか、何に目覚めるんですか?」
「その……開放感とかそう言うのに」
「最低限の文化的行動とか羞恥心は残そう、な?」
この人、本当に大丈夫だろうか?
ドアの鍵を確認し、ランタンタイプの懐中電灯を消すと車内はほぼ真っ暗になる。
「おやすみなさい」
「え、えーと……その……」
「何?」
「本当に何もしなくて?」
「う……うん」
それ以上言われると我慢できるか自信がなくなるので止めてください、と言いたい。
「あ、あの!」
「はい?!」
「えと……私、変な寝言言うみたいなので……その……」
「寝言はお互い様と言うことで」
「はい、ありがとうございます」
キャンピングカーのベッドは広く、充分に距離をとって寝られるのだが、時折聞こえる「ん……」とか「ふぅ……」という声のおかげでなかなか寝付けない。
必死に頭の中で、羊を数えていたら、なぜか寿が出てきて羊をぶん投げ始めた。あわてて止めに入ろうとしたら笑いながら逃げ回るので追いかけ続け……そのまま眠りに落ちていった。




