(2)
本日、3回更新です
◇ ◇ ◇
本当はパーキングエリアで止まりたかったのだが、停まったままの車が多すぎてあまり進めず、仕方が無いので少し開けたところでキャンピングカーを出す。
「明日はもう少し進みたいな」
さて、少し情報収集でもと思ってポケットに手をやり……アレ?
「スマホが無い」
アイテムボックスには……入っていない。
「落とした……か」
ガクリと膝をつく。どこだ、どこで落とした……正午のアレの直前までは持っていた。時間の確認をしていたから。
それで、ゾンビを叩きのめして、ポケットに入っているのを確認して原付に乗って……そのあとはポケットを確認してない。今日の移動距離は二十キロにも満たないが、今更戻ってスマホを探すなんて……無理だ。
「あきらめよう」
かなり高額ではあったが、今更どうにもならない。世の中がいつも通り正常だったら、携帯ショップに駆け込んでどこにあるか調べてもらうことも出来ただろうが、この状況で開いている携帯ショップがあるはずも無く。
ただ、情報収集の手段はどうにかしたい。ネットの情報なんて普段ならトイレの落書きレベルと揶揄されるようなものだが、今は書き込む側も必死なので情報の精度も高いだろうし。
「ま、明日以降の課題だな」
車内の時計を見上げるといい感じの時刻だ。
「では、本日のガチャを」
一昨日は「★3:素早さが+1される丸薬」。昨日は「★5:完全回復薬」だった。
「おりゃ」
★★★★日本刀
カプセルが開くと同時に目の前に現れ、ベッドの上に落ちた。拾い上げてみるとずしりと重い。
「手のひらサイズのカプセルから出る大きさじゃないだろ……えーと……日本刀、同田貫?」
割と有名な、そして実用性を重視した日本刀だったか。「折れず、曲がらずの同田貫」という奴だ。
「……やるしかないな」
スッと鞘から抜き右手で持つ。そして左手に拳銃。
刀を水平横一文字に構え、拳銃をその刀身にそっと乗せるようにして正面に向ける。
右目を赤、左目を青に変えて。
「ぷっ……っはははは……わははははっ」
笑いが止まらない。
もうダメだ。大丈夫か、俺は後戻りできるか?手遅れになってないか?
うん、大丈夫だ。まだ手遅れじゃ無い、多分。
ひとしきり笑ってから、晩飯をどうしようかとアイテムボックスの中身を見ていたら、ドアがドンドン、と叩かれた。
「誰だ?」
モンスターがドアをノックするとは思えないが、ドアを開ける勇気が無い。窓は完全に塞いでいるから全然見えないし。
「あ、そうか。これを使おう」
運転席へ移り、キーを差し込んで少しだけ回し、スイッチを操作する。
かなりお高いキャンピングカーだけあって、左右の死角をなくすためのカメラが搭載されているので、ドアを叩いているのが誰か確認。
「女?」
顔はよく見えないが、体格的には女性。だが、このあたりに住んでいる女性……覚えはないな。後ろに戻り、ドアの内側で外の様子を窺う。
「すみませーん。開けてくださーい」
怪しい。すごく怪しい。
「あのー、お話だけでも聞いて下さーい」
「宗教の勧誘か!」
思わず突っ込んでしまった。
「あ、良かった。聞こえてたんですね。あの、少し話を聞いて下さい」
「聞くだけなら」
「良かった。あの……藤咲司さんですよね?」
え?
「フジは植物の藤、サキは花が咲くの咲、ツカサは司るの司」
「……」
「沈黙は正解と受け取って良いですか?」
「こちらの名前を聞く前に自分から名乗ってもらえます?」
「あ、そうですね。失礼しました。赤畑成海と言います。赤い畑に、成人する海で、赤畑成海、二十歳の大学生です」
「ご丁寧にどうも。赤畑さん、何の用でしょうか?」
「はい、簡潔に言いますね。藤咲さん、私と一緒に行動しませんか?」
「は?」
「ですから、一緒に行動しませんか?って。あ、正確に言うと私が付いていくだけなのかも知れませんけど」
「ちょっと何言ってるかわからない」
「ですよねー……って、モノマネ上手ですね」
自分でもそう思ってんのかい!と突っ込みたいところだがやめた。決してモノマネを褒められたからでは無い。つか、まねてないし。
「えっと、色々信用してもらうために、まず私のことを話しますね」
そう言って、赤畑が自分のステータスを読み上げた。
赤畑成海 レベル4 (163/4000)
HP 20/20
MP 2/30
力: 7
魔力: 13
素早さ: 9
頑丈: 9
運: 13
スキルポイント:3
スキル
追跡者 レベル1
瞬間移動 レベル1
アイテムボックス レベル5
火魔法 レベル5
水魔法 レベル5
なんか物騒なスキルがあるな。だが、かなりいい感じの構成じゃないかとも思う。それに、レベル四ってなかなかスゴい。
「藤咲さんの名前がわかるのは、追跡者ってスキルの効果です。レベル一なので対象の名前と位置を捉えるくらいしか出来ませんけど」
「位置を捉える時点で相当なモンだと思うけど」
「でもこれ、百メートルくらいしか有効範囲がないんです。レベルが上がると距離が伸びるみたいですけど」
「へえ」
「ここまでは瞬間移動ってのを使って追いかけてきました。これも百メートルくらいしか移動できないんで、メインは自転車ですけど」
スキルの情報って結構重要だと思うんだが、秘密にするつもりはないらしくペラペラと喋ってくれる。
「藤咲さんって、あの藤咲さんで良いんですよね?」
「どの藤咲さんだ?」
「ランキング一位の藤咲さんです」
「だとしたら何?俺に何を要求するの?」
「いえ何も」
「へ?」
「ただ、その……お互いに協力しませんか?と」
「協力ねぇ」
藤咲司 レベル28 (164/280)
HP 48/48
MP 42/42
力: 31(+6)
魔力: 18(+6)
素早さ: 28(+6)
頑丈: 23(+6)
運:MAX
スキルポイント:20
称号
先駆者★★★★
スキル
豪運
成長促進
アイテムボックス レベル10
性別転換
ガチャ
偽装 レベル4
解錠 レベル1
魔法とか持ってる分、赤畑の方が戦闘能力が高いような気がするんだけどな。
「ここでドアを開けていきなり魔法ぶち込まれないという保証がないんだけど」
「攻撃するつもりならとっくにやってますよ。全力で魔法を撃ったらどうなるか実験済みですから」
「参考までにどのくらいの威力なんだ?」
「このキャンピングカーくらいなら跡形もなく消えるくらい」
「マジか!」
つまり攻撃する気があるならとっくにやっているというわけだ。
「一緒に行動すると言っていたけど、具体的には?」
「特に何も。一緒に行動するだけです。モンスターが出たら協力して戦いますし、私もアイテムボックスなんてスキルがあるので荷物運びできますし」
「も?」
「藤咲さんもアイテムボックス持ちですよね?」
「何故そう思う?」
「原付にガソリン入れてるとこ遠目で見てましたし、この周りに原付はありません。それに、ナンバーも付いてないキャンピングカーが高速道路にある時点で不自然です」
なかなかの観察力だ。




