(5)
「よし、じゃあ飛ぼう!」
「いきなりか?」
「とりあえずアパートまで飛んでみよ?」
「だな」
「じゃ、そこに立って」
「ここ?」
「うん……えいっ」
寿が後ろから抱きついた。
「えーと……」
「司ちゃん、何か言うことあるんじゃない?」
「何を言えと」
「あててんのよ」
この姉はっ!
「殴るぞ」
「お姉ちゃんへの暴力はんたーい!」
「はあ……」
なんだかスゴく疲れた。高校まではこんな姉と一緒に暮らしていたのが信じられない。しばらく離れて忘れていたがこんなに面倒な性格だったっけ?
「さ、飛ぶよ」
「お、おう」
どうやら足が変形したらしく、ガションッと足元で音がして、ゴオッと言う音が響く……が、
「と、飛べない……」
「誰かを抱えて飛ぶのは無理っぽいな」
「そんなぁ……」
ほんのわずか上に動こうとしているのはわかるが、その程度。
垂直離陸って結構な推進力が必要だから、おそらく本人が飛ぶのが精一杯なのだろう。レベルを上げれば可能かも知れないが、そこは寿が自分で判断することだ。
「どうしよう……」
「どうしようも何も……俺を抱えて飛べないなら、別々に行くしか無いだろ。寿姉は空から、俺は地上から。道がまともに通れるかわからないから、かなり時間がかかると思うけどな」
「はあ……」
がっくりと落ち込んでいるがが、よく考えてみたらこの姉に抱えられたまま一日中空を飛ぶというのは結構キツい。そう言う意味では飛べなかったのはラッキーだと……豪運の効果じゃないよな?
「あのさ」
「何?」
「ステータスを見る限り、寿姉は強い。多分世界でもトップクラスだと思う」
「え?や、やっぱり?」
実際、物理戦闘能力だけならトップだろう。
どうでもいいが、両手を頬にあててニマニマするのをやめろ。
「おう。だからさ、先に実家に行ってくれ。二人がどうなってるかわからないけど、きっと苦労してると思う。寿姉の能力があれば色々助かると思うんだ」
「そ、そうだよね!」
説得成功だ。
「じゃ、頼んだぞ」
「うん。司ちゃんもすぐに追いかけてきてね」
「頑張るよ」
「あんまり遅いと」
「遅いと?」
「ネットに無いこと無いこと書き込むからね」
「やめて、そういうの」
特に今みたいな時期は。
つか、無いことを書くな!
「じゃ、行くね」
「うん」
少し離れると、ゴオッと音がして、変形した足の裏からジェット噴射が始まり、ゆっくりと上昇していく。
「おお……」
思わず見上げながら見送る。
が、そのまま数メートル上がったところで、何故か下りてきた。
「司ちゃん」
「何?」
「スカートの女の子が空を飛ぶときに下から見上げるなんて、デリカシーなさ過ぎ。お姉ちゃんのならいくら見てもいいけど、他の女の子には絶対しちゃダメだよ」
「あのなぁ」
「ちなみに……今日は白よ!」
「知りたくない情報だよっ!」
「あ、もしかして縞パンが良かった?」
「さっさと行け!」
司が知っている中で、スカート姿で空を飛ぶのは寿だけなんだが。
「なんかもう……疲れた」
寿を見送っただけなのに、一日動き回ったかのような疲労感。今日は一日寝て過ごそうかと思うほど。だが、とりあえず高速道路を見に行こうと原付を出して走り出す。
「ただいま……誰もいないけどな」
一人で突っ込みを入れながら中に入ると鍵をかけて冷蔵庫でフタをする。
姉の相手をしていたせいと、高速道路に自分で乗った事なんて無かったから道がイマイチわからず迷ったせいで――地図アプリを使おうとしたが、途中で圏外になってしまって使えなかった――高速道路に着いたのは三時過ぎ。だが、高速道路はどうやら使えそうだと言うことはわかったし、道順も頭に入れた。いよいよ明日、出発しよう。
祝日もいつも更新してますが、今回は諸事情により見送ります。
詳しくは活動報告で。




