(3)
とりあえず、互いに近況を話すことにしよう。とにかくいろいろなことがありすぎた。
「そうか。仙台に帰ろうとしたのに新千歳空港まで行っちゃったのか」
「大変だったんだよぉ」
「だろうな」
いきなりジェットの操縦桿を握るとか、学校にテロリストが攻めてくる妄想と同レベルだ。おまけに周りでバタバタ人が死んでいくとか、かなりキツかっただろう。
「頑張ったんだよ。いっぱい褒めてくれていいんだよ」
「お断りします」
「ひどっ、司ちゃんいつの間にそんなひどいことを言うようになったの?!」
「あのなあ……」
寿は……家族の前だとこんな感じのゆるゆるになる。外では結構キリッとしているんだけど、このユルい感じが本来の寿だ。あと、本人は否定しているみたいだが、ブラコン気味だ。家族、姉弟として目一杯振り向けられる愛情は別にイヤではないが、さすがにそろそろと言うか、もうずっとと言うか、恥ずかしいのでやめて欲しいところなんだが、まあ無理な願いだな。
「やっぱり別々の大学に通うのが良くなかったのね……今からでも遅くないからこっちに編入を」
「俺が興味持った専門分野が違いすぎるだろ」
「でもぉ……それなら私が同じ大学に編入して一緒に」
「やめてくれ」
「ぶぅ……司ちゃんが冷たい」
「姉離れしたと言ってくれ」
「えー」
話が進まん。
「で、どうやってここまで来たんだ?電車は止まってたし、飛行機が飛んでるとは思えないし、船……もどうなんだ?わからんけど」
「飛んできたの」
「は?」
「司ちゃん聞いて。私、空が飛べるのよ!」
「マジか」
「うーん!あ、そうか。ステータスを見ればすぐわかるよね、はいこれ」
藤咲寿 レベル2 (175/2000)
HP 20205/20205
MP 1/1
力:5100
魔力: 5
素早さ:550
頑丈:5100
運: 7
スキルポイント:1
スキル
飛行 レベル1
アイテムボックス レベル10
機械化体
身体武装化 レベル5
探知 レベル10
どうやらステータスは「見せよう」と思えば見せられるらしい。司は他人に見せるつもりはないが。
「なんかもう、色々と……突っ込みどころが満載だな」
「司ちゃん、いくらお姉ちゃんでも突っ込める所はそんなにたくさん無いわよ?」
誰かこの姉、引き取ってくんねえかな。
「なるほど。ガチャ終了直前にね」
「慌てて五回ペシペシって押したのよ」
「あれ、連続で押せたんだ」
あのガチャ演出を見ていた時間は何だったのか。
「あのガチャ、終了直前になるとレアが出やすくなる仕様だったみたいだぞ」
「え?ホント?」
「だって、スキルレベル十があるし。機械化体はユニークスキルだからレベルはないみたいだけど」
「……そ、そうよ!狙ってたんだから!」
ピシッと胸をはる寿。なら、なんで★3★4が混じっているんだよと思ったが、何も言うまい。
「で、この飛行ってので飛んできたんだ」
「そう言うこと。結構大変だったけどね」
「で……アイテムボックスはまあいいとして」
「え?スゴいスキルじゃないの?」
「俺も持ってる」
「わ、お揃いだね!」
言わなきゃ良かった。
「機械化体……体が機械になったのか?」
「あ、うん。そうみたい」
「まあ、HPがワケわからんし、力の数値がスゴいし……」
「そうよ!お姉ちゃんはスゴいんだから!」
各種スキルが自動的に機械の体に統合されていくというなかなか素敵な仕様らしい。
デメリットとして魔力が激減するのと、MPが一に固定されるというのがあるようだが、それでもおつりが来るようなスキルだろう。
「ハイハイ。で、身体武装化ってのは?」
「あー、こんな感じ」
右腕をトンとテーブルにのせる。
「見てて」
ガションッと音がして、肘から手首まで溝が生まれ少し広がる。そして、シャコンッと何かが飛び出してくる。
「剣?」
「そう、スゴいでしょ」
「見た目がスゴいな……」
「えへへ……切れ味も結構良いのよ?」
飛行機の中ではこれで無双し、半分以上のゴブリンは寿が倒したらしい。
だが、そもそも狭い機内がパニック状態だったはずで、寿が刃物を振り回すのもなかなか難しかったはず。大学で出来た友人が亡くなったのをなんとか空元気でごまかしているようにも見える。触れないでおこう。
「へえ」
「あとはこんなのもあるの」
左腕をツイと突き出すと、手首の辺りでカコンッと折れ、ススッと金属の筒がせり出してくる。
「じゃーん、マシンガンでーす♪」
「うわぁ……」
「ただね、欠点があって」
「何?」
「弾がないの」
「ダメじゃん」
「材料があれば弾は作れるって説明があったから作ればいいんだよ?今は無いってだけで」
「そうか。でもそれは……ダメだ」
「え?」
そう、美しくない。
軽くこうあるべきだという指導をする。
「こうね……」
右手で左前腕中央部を握り、カチッと音をさせてスッと抜くと中から黒鉄の銃身が現れる。
「サイ○ガン……いいかも!」
「ヒューッ!コイツはすげえや。呼ばれてもいない賞金首の同窓会に乗り込むのかい?」
実際には普通の弾丸しか撃てないようだが、こう言うロマンは大事だろ?
ふとしばらく互いに見つめ合い……しばらく大爆笑した。姉弟の笑いのツボは相変わらず似ているようだ。
ちなみに男としてはおっ○いミサイルも捨てがたいのだが、この姉にそれを言うのは戦車すら吹き飛ばす地雷になりそうなので黙っておいた。
司の最後の台詞、もっといいのがあったら差し替えようかと思います。




