(2)
「結構綺麗にしてるね」
「まあな……って、何してるんだ?」
「ベッドの下にえっちな本が無いかなって」
「無えよ!」
「え?……まさか、その年でもう」
「はあ……そういうの、いいから」
「えー」
不満げだが、どういう返事を期待してたんだ?
「ねね、司ちゃん」
「ん?」
「お風呂、使える?」
「ああ、一応まだガスも水道も生きてるぞ」
「よかった。使っていい?」
「いいぞ」
「ありがと」
一人暮らしのアパートには脱衣所なんて物は無いが、日よけに使っていた衝立があるので囲んでやると、顔だけひょいと覗かせた。
「久しぶりに一緒に入る?」
「入らねえよ!」
「恥ずかしがらなくても」
「狭いんだよ」
「あ、ホントだ」
広い風呂でなくて良かったと心の底から不動産屋に感謝した。
「こっそり写真とか撮っても怒らないからね」
「入るならさっさと入れ!」
シャワーの音を聞きながら、収納している物から着替えを出そうかと思ったが、やめた。
何を言い出すかわかったものではないからだ。
だが、タオルだけは出して衝立に掛けておく。そうしないと「タオルどこ?」とそのまま出てきそうなので。
ちなみに二人の名前を合わせると『寿司』になるが、これは父の子供の頃の夢が寿司職人だったからだそうだ。色々あって消防士になったものの、子供の頃の夢が捨てきれず、自分の子供にこんな名前を付けた……らしい。
「夫婦で頑張って寿司を作ったんだ」
こう話した父に対し、姉弟二人とも一ヶ月ほど口を利かなかったのも今となってはいい思い出……じゃないよな。
やがて、シャワーの音が止まり、「タオルありがとね~」という声とともにタオルが向こう側に引っ張られて消える。しばらくすると、白のワンピース姿で出てきたのでホッとした。流れ的に全裸で出てきてもおかしくなかったので。
「ふぃ~さっぱりしたぁ。ありがとね」
「どういたしまして」
とりあえずテーブルに着かせて、コーヒーを入れたカップを二つ並べる。
「ほい。砂糖とミルクはこっちな」
「ありがと」
ズズッと一口飲んで、根本的な質問をする。
「ところで、俺がここに住んでるって、知らなかったよね?」
「うん。だから頑張って探したんだ」
頑張ると探せるんだ……