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区切りが良くなるので本日は二回更新です。
家に帰り、テレビを点けてみると、予想通りの事態になっていた。
「謎の人物『藤崎つかさ』とは?!」
「陰謀の黒幕か?!『藤崎つかさ』の正体は!」
ガクリと膝をつく。
「何だよ……陰謀って」
曰く、「自己顕示欲を満たすためにこんな事態を引き起こした」
曰く、「自分が頂点に立つことで自己実現を」
曰く、「承認欲求を満たすために」
どこのどんな技術を使ったらこの状況を作り出せるというのか、まず説明してみせろと思うのだが、彼らにとってそれは重要では無いのだ。ランキング一位「藤崎つかさ」なる謎の人物を面白おかしく扱えれば、何だっていいのだろう。
「これは女性ですね。二十代後半から三十代前半、多分三十代でしょう。地方の中小企業で経理事務などをしていると思われます」
「地方ですか」
「ええ。藤崎という名字は千葉や鹿児島、福岡に多い名字ですが、おそらくこれは……熊本ではないかと」
「ほほう」
「そして、公務員になろうとして失敗、中小企業に就職したものの自分が正しく評価されていないと考えているのでしょう」
「なるほど」
「と言いますのは、まずローマ字の表記が……」
見事だ。
見事に全部外れ。
今日は女になっているが、実際には男だし。
年齢も現役で大学に入ったばかりだから十八。
学生だから仕事はしていないし、出身地も関西地方。両親が関西出身ではないから関西弁はあまり身に付いていないが。
よくもまあ適当なことをペラペラと話せるものだと感心してしまった。今更ながら。
そしてネットもこの話題で持ちきりだ。
そもそも藤崎じゃなくて、藤咲なんだよな、俺の名字。
さて、あのとき聞こえてきた声に気になる言葉があった。確か……
『全然進展しません』
進展とはなんだろう?
しん‐てん【進展】
事態が進行して、新たな局面があらわれること。
事態が進行。『世界中の人がガチャを引き、ゴブリンが現れた』というのを事態の進行というのかな?確かに世界中の人がほぼ一斉にガチャを引くというのは過去に例が無い。そしてゴブリンなんてファンタジー世界の存在で現実にはあり得なかったものがあふれ出てきた。事態がどの辺を指しているのかわからないが、少なくとも世界の状況は一気に変わった。
新たな局面。今日のランキングと下位一万人の件を考えると、レベルとかステータスとかの概念の登場と共に、世界中の人がレベルアップに勤しむことを望んでいたが、実際にレベルアップと言うか、経験値を得ているのが全体の数%くらいで、声の主が望んでいる状況になっていない、とか?
だがそもそも、二百匹のゴブリンを倒さなければレベルが上がらないとなると、レベル二になれるのって一%にも満たないだろう。
あの声の主がこの事態を引き起こした張本人という断定は出来ないが、関係者であることは間違いないが、ぶっちゃけ何言ってんのかよくわからないまま、ランキングが公開され……俺が目立っている。
理不尽極まりないが、あのマスコミの様子から見て、俺に辿り着くまでにはもう少し時間がかかるか?あ、偽装で名前を変えたらどうなるんだろう?試して……
確認してもらえる相手がいない件について。
余計な心配はするだけ無駄か。
それよりも実家に帰る準備の方に気持ちを向けていこう。
そう考えて、メシ・風呂・寝る。それだけだな。




