(1)
ファミレスの厨房に入る。思ったより人の姿――主に死体――は無く、ガランとしていた。冷蔵庫は空っぽなのだが、冷蔵庫自体は使えそうなので収納。
っと、今日はこっちじゃ無くて……シンクの前に立ち、蛇口を捻る。
ドドドドッと結構な勢いで水が出てきた。この水量は一般家庭じゃ無理だな。
「収納」
さすがにある程度の範囲までしか収納できないのだが……アイテムボックスと表示されている透明ウィンドウを蛇口の下に合わせたらどんどん水を飲み込んでいく。手近な椅子を引っ張ってきて腰を下ろし、ゆったり待つことにしよう。
しばらくするとスマホのアラームが鳴る。
「さて、二日目のガチャを実行だ」
昨日よりも一時間遅れの時間だとどうなるだろうか……
★★★ 解錠(レベル1)
「レアと言えばレアだけど、ハズレだな」
鍵を開けたくなる状況というのが思いつかない。仮に金庫をこじ開けて大金を手にしても、使える状況ではないのだから。
それでも一応詳細を確認してみたが、レベル一だと、窓の鍵――クレセント錠というらしい――が開けられる。レベルが上がるとだんだん複雑な鍵も開けられるようだが……使い道が思いつかない。
ま、こういうこともあるかと放置することにした。スキルポイントに余裕があると言ってもいつ必要になるかわからない以上、無駄に使えないし。
昼過ぎまでかかって約九千リットル。まあ、こんなモンかと水を止めて外に出る。水の音でゴブリンが寄ってきたりするかと思ったがそう言うことは無く、閑散とした街並みを眺めながらまだ行っていない地域へ向かう。
まだ物資を回収できる場所はいくらでもあるのだ。
「ただいま、と」
ここまで必死に物資を集めなくてもいいんじゃないかとも思うが、何となく集めておきたい貧乏性が悪いのだよ。今日は大きめの団地のあるところへ向かったのだが、スーパーを四軒発見。冷蔵庫は稼働したままになっていて、多少の不安は残るが生鮮食品が結構集まった。もちろんレトルト、缶詰、冷凍食品も大量に。
「これで食料は大丈夫だな」
さて、情報収集をしようか。
「我々もそろそろ限界です。助けはまだ来ないのでしょうか」
テレビではかなりやつれた感じのアナウンサーが必死に訴えている。イヤイヤ、テレビ局に籠もってないで外へ行けよ、と突っ込みを入れておく。
「政府の対応が不透明で……」
「危機管理体制が……」
「我々としては……」
どうでもいいことを議論し続けているのを見ていると、お前らの危機感の無さが心配になってくるよと思う。
少なくとも今日向かったスーパーは物資の回収を行っていた痕跡があった。主に缶詰とレトルト食品だったが、持てるだけ持って行ったんだろうなという感じだったので、全部回収するのは忍びなく、半分以上残しておいた。どれくらい保つかわからないけど。
この異常事態に対して、政府がどこまで対応できるのかというと……全然情報が無いんだよな。気持ちを切り替えて生き抜くために知恵を絞る。そう言う対応を進めてくれているとありがたいんだが、そう言うことが出来ない連中がテレビで騒いでいるんだろう。
ネットの情報は……特に変化はないな。レベル二になったという報告が増えてきているが、その程度。海外の情報も似たり寄ったり。軍が動いているという書き込みもあったが、信憑性はどうだろう?
「まだ他にも、疑問がある」
最初に聞こえた声、『明日から頑張って生き抜いて下さい』で締めくくっていた。色々なことが想定された中、ゴブリンが現れて多くの命が奪われた。
だが、その後だ。
ゴブリンが新しく現れた様子がない。
昨日も今日もゴブリンは倒しているのだが、だいたいが車の中から出られないままのゴブリン。つまり最初に現れたゴブリンの生き残りだ。このクソ暑い中、車の中でよく生きていられるものだと感心したが。
「これから先、新しいモンスターが現れるのだろうか?」
今のところゴブリンは問題ない。金属バット一撃だ。だが、他のモンスターはどうだ?ファンタジーの定番ならオークとかアンデッド系とか。物理攻撃の通じない奴がでたら?ドラゴンみたいなトンデモ系が出たら?
「考えても仕方ないけど、出てきたときのことは想定して……無理だな」
考える材料が少なすぎる。
だいぶ停滞・閉塞感が出てしまってますが、もうしばらくお付き合い下さい。
六月六日になると色々と動き出す予定です。




