(5)
今回ほぼ閑話。
なかなか進まなくて申し訳ないです。
「さて、他も色々と収納していくか」
まずはガソリンスタンド。原付のガソリンが心許ないというのもあるのだが、どうせならガソリンスタンドのタンクから収納出来ないだろうか。
ノズルを引っ張り出して原付のタンクに差し込み、給油を始める。同時に「収納」。ズルリ、という妙な感触の後、ガソリンが止まった。アイテムボックスを見ると「レギュラーガソリン 五千二十一リットル」。一気に入ったな。これで同じ要領でハイオクと軽油も収納する。いざというときは積み上げればバリケードになるだろうと思ってあちこちの駐車場に並んでいた無人の自動車を収納しておいたが、ガソリンが使えるなら有効活用できそうだ。この調子で他のガソリンスタンドも回っておこう。
◇ ◇ ◇
「一応は落ち着いたのだろうか?」
「そのようです。ゴブリンとか言う人型のモンスターは知能が低く……ドアなどを開けることが出来ないようです」
「そのため、ある程度密閉された建物からは出られませんし、車の中に現れた場合はそのままのようです」
「生存者の数は?」
「正確な数はつかめておりませんが……集計出来ているだけで一千万ほどです」
「避難所の集計ですから……」
「そうだな。避難所に来ていない国民の方が多いのでは?」
「実態を掴むのは難しいか」
「現状では」
状況的にここだろうと言うことで設けられた防衛省内の対策本部には、意外なことに日本の各省庁のトップである、大臣・長官がほぼ全員揃っていた。ここにいないのは、別室で次官たちと作業をしているか、疲れ切って休憩しているか。なんと全員が無事だったのだ。
五月三十一日のあの声を聞いた一部の議員から「早急に対策を取っておくべきだ」との強い要望があり、そこまで言うならと待ち構えてみた結果、一部に負傷者が出たものの、どうにか死者を出すことなく、政府の体裁は維持出来ている。ただし、ゴブリンたちによって機器が壊されたところがあるようで、通信網の大半が機能しなくなっており、地方との連携はなかなか苦労しており、なんとももどかしい状況だ。
地方の状況はそれぞれの人口や地理的条件により大きく異なる。突然の出来事だったために、首長不在となってしまったところも少なくない。また、避難所の開設をしても、物資の供給が十分ではないし、これが全世界で起きていると言うことを考えると、いつまでも避難所を維持出来るとは言い難い。
「アメリカは?」
「連絡がつきません。通信網が機能していないようです」
「衛星通信くらいは生きてるんじゃないのか?」
「地上の機械がぶっ壊されてるかも知れませんね」
行政が機能していても限界はあると言う厳しい状況は、普通に考えると野党議員が大騒ぎするのがいつものパターンなのだが、今回に限りそれが適合しなかった。対策を取るべきだと述べていた議員たちは全員与党議員で、野党議員は「馬鹿なことを」と一蹴し、集まって自衛すると言うこともしなかったため、命を落とした者が多かった。
「ライフラインを可能な限り復旧、維持。それと食糧供給の維持……か」
政府の手腕が問われている。いつもならそう書き立てるマスコミも我が身可愛さで取材にすら来ない。動きやすいのはいいのだが、政府としての見解や、方針などを伝える手段が乏しいのは少し困るなと、マスコミに揚げ足取りばかりされて辟易している大臣たちは矛盾を感じていた。




