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そんな家族+1のやりとりは何だかよくわからないところに落ち着いて、今後についての話になる。
「まあ、この状況だからな。これからどうするって話はいろんな意見が飛び交っていて今のところは何も言えん」
「だろうなあ」
典明の言葉に同意する司。そもそも典明だってここではただの消防隊員でしかなく、避難している人たちの世話で手一杯の状態。他の消防隊員も自衛隊員も似たようなもの。避難住民の移動が落ち着いたら落ち着いたで新たにやるべき事が山積みになり、現場は他のことまで手が回らない。
「さてと、そろそろ交替の時間だから行くが……司、一緒に来てくれ」
「え?」
「少しでいいから物資を。あと、総理と話をしなければならん」
「俺、ただの大学生なんだけど」
「大学は休校中。オマケにお前は世界ランキング1位だ」
「普通の大学生に戻りたい」
「お前の頑張り次第だな」
ポンポンと肩を叩きながら、テレビ会議の用意をしている部屋へ親子で向かう。何をどう頑張れば戻れるんだろうね?
「改めて、私が小倉健次です。こんな状況下ですが、この国の総理として全体の統括責任者の立場にあります」
「えと……藤咲司です」
「ありがとう」
「え?」
「昨日までのアレコレは全て報告を受けています。まだ報告書の全てに目を通せていませんが、要所要所で個別の報告も受けています。色々と尽力いただいたこと、まずは感謝します。ありがとう」
画面の向こうで総理の言葉に合わせ、他の大臣やら官僚やらが頭を下げるのが見えた。
官僚に関しては見覚えは無いが、大臣ともなるとニュースで見かけたような顔もチラホラ。こんな大学生風情に頭を下げるとは思えないような立場のはずだが、全員が頭を下げながら感謝の言葉を述べるのはちょっとくすぐったい。
「さて、いくつかの懸念事項を解消しておこうか」
「懸念事項?」
「一応、昨日のうちに形式上は処理したことになったが、君の集めた物資と、その集め方についてだ」
「はい」
そして、総理は昨日の取り調べの結果を踏まえた結果を告げた。
物資の出所はわからない。各地の店舗で商品がごっそり消えているとの通報があるにはあるが、そもそも指紋採取だとか防犯カメラ映像だとかの確認が出来ていない。
一部、防犯カメラ映像を確認出来た店もあるようだが、大勢が乗り込んできて運び出していたり、モンスターが入り込んで食料品を荒らしていったりした映像もあり、司が持って行ったと確証の取れるものが見当たらない。
それにそもそも、司の持っていた物がその店の物かどうかもわからない上に、肉や魚と言った腐りやすい生鮮食品に至っては、現時点で常温で新鮮な状態の物があるのは常識的に考えておかしい。確かにアイテムボックスがあれば不可能ではないが、日本の法律はアイテムボックスなんてスキルがあることを前提にしていないため、法的にどうこうするのは不可能というのが法務大臣の判断である。
と言うことで、司の持っている物は出所不明だが、盗んだ物と断定するには証拠が足りない上、緊急事態の中で避難所で有効活用するため保管、輸送しただけと判断。
だが、出来るだけ大勢の人に物資が行き渡るよう、協力して欲しい、という結論で国が認めることとなった、と。
「日本政府のお墨付きとか、話が大きくなりすぎててよくわかりませんが」
「気にしなくていい。恐らくこの先、色々言ってくる連中もいるだろう。その時は総理大臣が直々に認めていると言えばいい。文句があるならそちらへ言ってくれ、とね」
言えるか。かえって話がややこしくなるわ。
「さて、過ぎたことはこのくらいにして、これからのことを話そう」
「これからのこと?」
「そうだ」
画面が切り替わり、日本地図が表示された。だいたい赤く塗られていて、ごく一部が緑色になっている。
「この地図上、赤い部分は未だにモンスターが自由気ままにやりたい放題の場所。この辺、君たちが昨日までいた辺りは大分緑色になっているが、見ての通り周りは真っ赤だ」
「なるほど……って、東京はかなり頑張ってるんですね」
「ああ。君たちの頑張りを見ていた各員が奮起してね。犠牲がゼロとは行かないが、大型のボスモンスターも撃破出来ている」
「おお」
「ま、その辺の映像はそちらの駐屯地にもデータを送ってあるから、興味があるなら見てもいい」
「はっきり言って、怪獣映画にしか見えない映像だったぞ」
司たちは各種スキルやら便利なアイテムで撃破していたが、あちらはあちらで映画さながらに武器弾薬をばらまいて、という戦いだったようだが、当然それらの映像は他のボスモンスターを攻略するための参考映像として各地に配信されているのであって、国民に見せるためのものではなく、現時点どころか将来にわたっても非公開の予定だ。
「え?見せないんですか?」
「ああ。見せない」
「どうして?」
司にしてみれば、それらを見せることで避難している人たちが希望を持てるのでは、と思ったのだが、政府の判断は全く違うものだった。
「そもそも、とても見せられないシーンが多すぎる。映画やアニメは作り物だ。どんなにリアリティを追求しても作り手側に越えてはならないラインがある。だが、ボスモンスターの討伐戦は本物だ。越えてはならないラインは軽く飛び越えていく」
戦争映画だとかモンスター系の映画、はたまたホラー映画などで、手足が千切れ飛び、死体が山積みにされたとしてもそれらは全部作り物。リアルすぎると話題になっても、それは良く出来ているという意味であって本物ではない。だから見る人を選ぶものの、一般公開が可能という判断がされる。
しかし、ボスモンスターとの戦闘は現実。火薬類での爆発で飛び散るもの、刃物などによる切断など、モザイクをかけて隠すにしても限度があるものが多い。だから厳重に管理をし、各地へ配信しているものは作戦の概要図と主な攻撃ポイントを示すまでとしており、具体的な戦闘シーンは割愛されている。
「俺の戦闘シーンがネットに流出しているんですが」
「あれはなあ……」
防衛大臣が続きを引き継いだ。
「そもそも君たちの参加していた戦闘シーン、所謂グロいシーンがゼロなんだよね」
「え?」
「撮影者の腕もあるんだろうけど、ヤバそうなところはカメラが明後日の方向を向くし、ちょうど何かの陰に吹っ飛んでからスプラッタになったりとか」
そう言われてみれば、そう、かな?
「あの映像を見ただいたいの人が持つ感想が、特撮映画か魔法少女アニメの実写化。こちらでも実態を把握し切れていないのだが、一部ではCGがどこに使われているか検証する、なんてのも始まっているらしくてね」
「つまり、映画の撮影の様子というか、近日公開される予定の映画の予告編、CMみたいな感じの扱い?」
「そう。色々と対策は取りたいところだが、一方で大勢の人に希望を与えている映像でもあるんだよ」
「え?」
「アレが、どこからどう見ても本物。映画の撮影ではない、と断言しているグループもあってね。そこから「モンスターに勝てる」「元の日常が取り戻せるのでは?」なんていう話も出ている。それはそれで極限状況におかれている人たちに希望を与えるからね」
「わかりました」
ネットに流れた映像では司はもちろん、他の面々も顔は隠れていたから個人の特定は……まあ、出来ないと思う。なら……諦めよう。




