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  作者: ひじきとコロッケ
七月七日
171/176

(1)

「いやあ、歩けるようになって良かったな」

「うん……」

「ほら、行くぞ」

「うん……」


 司に急かされて仕方なく寿は歩みを進めた。おかしい、予定ではまだ歩けるまでに回復せず、おんぶまたはお姫様抱っこで運ばれるはずだったのに、目が覚めたらほぼ全部治っていたなんて。

 ほぼ、というのはただ単に表面の接合が完了していないだけ。見た目が何というか、元州知事が出演たハリウッドの人気映画シリーズ一作目で、未来から来たロボットが腕の修理をやったときのように、皮膚が裂けたところから機械部分が見えているような感じになっている程度。

 これなら軽く包帯を巻けば隠せるし、何なら袖の長い服でも着れば全く見えなくなる。


「はあ……夢は中々かなわないから夢なのね」

「何を言いたいか聞くのが怖いから聞かないぞ」

「そこは聞いてくれるくらいの余裕を見せて欲しかった」

「弟に何期待してんだよ」

「今は妹みたいに見えるね」


 どうでもいい会話をしながら歩く二人の後ろをついて行く成海もこれまた少し覇気の無い顔をしている。

 昨夜書き上げた反省文がなぜか自衛隊員たちの間で受けた結果、「どうせならもっと良いものに仕上げましょう!」と盛り上がった結果、ほぼ徹夜で反省文というタイトルのついた何かを仕上げるのに熱中してしまったという、ただの寝不足である。

 なお、眠そうではあるが肌艶がいいという点について司はコメントを控えた。余計な火種も燃料も投下しない方がいいという判断だ。

 やがて二人が、陸自の用意したヘリに乗り込むと成海があとに続く。


「本当に成海さんもついてくるんですか?」

「当たり前じゃない」

「うーん、でも」

「私が一度お会いしてご挨拶したいってだけなんだから」


 何かと世話になったというか、世話をしたというか、奇妙な持ちつ持たれつで来た関係。あまりアレコレ引っ張り回すのもどうかとは思うが、本人がそれでいいと言っている以上、ダメとは言いづらい。

 なお、成海の家族や親戚などに関しては、既に色々と確認がすんでいたという話を駐屯地に到着した時点で聞かされている。それを成海がどう受け止めたのか、確認は控えていたが、比較的早い段階――司と合流するより前――に、電話が通じないという方法で確認をしているため、それほどショックだった様子は無い。

 と言うか、その話を聞いて一時間もしないで、昨日の騒動を引き起こしているのだから、本人の中では済んだ話なのだろう。もっとも、それなりに辛い現実から逃れるための逃避行動だった可能性もあり得る。だからこそ、あまりキツいことは言わずに反省文だけで済ませたのだが、逆に何かおかしな事態が進行してしまったのは司にとって予想外の出来事である。


「それでは離陸します」

「はい、お願いします」


 全員がベルトを締めたところで、ヘリのエンジンがかけられ、やがてゆっくりと離陸すると近くの国際空港方面へ針路を取る。


「へえ……空から見るとこんな感じなんだ」


 寿も空から見たことがあるはず風景だが、移動するのに手一杯だったために景色を楽しむだとか、アレコレ確認してみるなんてことは無かったから、「アレは何だ」だの「あの道は通った」だのという話で少しだけ盛り上がる。

 やがてへりは空港滑走路の隅に着陸し、そこから小型のジェット機に乗り換える。


「では色々とお世話になりました」

「いや、こちらこそ世話になりっぱなしだったように思う」


 見送りに来ていた奥澤と握手を交わして飛行機の中へ。


「ね、ね、ファーストクラスってどこ?」

「無いよ」

「え?」

「言っとくが、このジェットにはビジネスクラスもない」

「そんなっ!」


 短距離を結ぶ小型ジェットなんてそんなものである。


「立場的に最低でもビジネスクラスには座れると思ったのに!」

「諦めろ」


 そんなやりとりをしながら適当な席に座ると、しばらくして離陸。西へ向けて飛び立った。


「ヘリもそうだったけど、飛行機も速いねえ」

「そうだな」


 寿の飛行速度は原付に毛が生えた程度。それでも地形を無視して移動出来るというのは大きいが、雨が降ると飛べなくなる謎仕様を考えると微妙に不便なスキルである。

 ちなみに、今のところ日本政府が各国と連携して確認した中で、寿以外に飛行スキルを得た者がいないらしいので、寿の飛行スキルの性質が身体機械化の影響なのかどうかは不明である。


「ね、ね!」

「うん?」

「機内食、何かな?」

「出るわけないだろ」

「そんなっ!」


 一応飛行機自体は通常の航空会社のもので、パイロットもその航空会社の者であるが、客室乗務員と呼べるのは航空自衛隊から派遣された二名のみ。それも客室のためでは無く、副操縦士的な位置づけと通信士官として乗り込んでいるため、客室にいるのは実質彼らだけ……では無い。一応、近隣の空港同士を結んで人や物の輸送を開始しており、自衛隊員の他、医師や看護師なども乗り込んでいる。が、どうせ乗っても一時間かそこら。整備が面倒になるという理由でトイレすら使えない状態で運航されているのが現状。当然、ドリンクのサービスすら無い。

 さて、今日は朝からバタバタしていたので、このタイミングで、と。


「とりあえず今日の分のガチャをやるか」

「何が出るかな」

「……きっとロクでもないものが出ると思う」

「司ちゃん、そう言うこと言ってると、本当にロクでもないものが出るんだからね!」


 さんざんフラグを立てた結果は、


「昨日出て欲しかったな、これ」

「何が出たの?」


 カプセルから出すと機能しだすという説明書きのついたカプセルを軽くひねって開けながら、興味津々の寿の方へ放る。


「え?」


 いきなり放られて反応の遅れた寿の額に当たり、パカリと割れた中から何かが飛び出し、顔に張り付いた。


「ぎゃー!」

「な、何コレ!」

「取って!取ってよ!」

「ひいいっ!」

「取って!取ってってば!」

「ヤだよ」

「ひどい!司ちゃんがひどいよお!」

「ひどくない」


 顔に貼り付いて悲鳴を上げる寿と、そのビジュアルにパニクった成海が大騒ぎしているうちに、それ(・・)がワサワサと虫っぽい()を動かして肩口へ移動し、そのまま服の中へ潜り込みながら背中へ。


「うっひょぁっ!」


 ワサワサ動く足がくすぐったいらしく、寿がおかしな声を上げる。


「何なのよ!これ!」

「名前は「機械修理ユニット」」

「へ?」

「機能は、どんな機械でも修理出来る、だってさ」

「は……はあ?」


 なるほど落ち着いてみると、寿の背中に張り付いたそれはまだ治りきっていない両手足に、細長い手なのか足なのかわからないものを伸ばしており、その先端で何かを開始したらしく、ジジ……という音がしている。


「おお……修復率がどんどん進んでいくよ」

「良かったな」

「うん。これなら着くまでに治るかも!」

「昨日欲しかったよな」

「う……うん」


 どうやら修理が終わっても消えるアイテムでは無いらしいのでそのままにしておけばいいだろう。珍しく(?)非常に役に立つアイテムだが、タイミング的にやや遅いのと、見た目が完全に人間の体内に卵を産み付けるアレなのが欠点だろうか。

 あとは、


「司ちゃん」

「何?」

「コレ、背中から外れてくれない」

「諦めてくれ」

「そんな!」


 寿的には、コレでは水着に着替えられない、と言うことらしいが、諦めてくれとしか言えない。なお、司は見ないようにしたが、成海に言わせると、その張り付いた姿は主人公が奇妙な冒険をするマンガの第二部で主人公の背中に張り付いて日光で焼け落ちたアレのよう、らしい。

 うん、諦めてくれ。

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