(13)
「それはそれとして」
「うん?」
「明日、空港まで連れて行ってくれるってさ」
「空港?」
「おう」
東京ほどでは無いが、日本有数の大都市で大半の拠点を獲得。しかも中には歴史に残る偉業を遂げた者に影響を受けたであろうボスや、ファンタジーでは定番の巨大モンスターと言った具合に、ちょっと気軽に戦えるような相手ではないボスを討伐。しかも被害を最小限に食い止めて。
さらに言うなら駐屯地へ到着後、かなりの量の物資を放出しており、周辺の避難所も含めて食糧事情が大分落ち着くのにも貢献。勝手にそこらの店から回収したのは決して褒められる行為ではないどころか、普通に犯罪行為だが、状況が状況だ。それに季節柄、腐ってしまってもおかしくないものが鮮度を維持したまま保管されていたとなれば話は別。
もちろん、
「本当は立派に犯罪行為だからねえ」
と、苦言を呈されたのと、一応示しをつけるかと言うことで、駐屯地内に緊急的に用意された拘置所に十分ほど拘留されたが、証拠不十分で釈放となった。
何しろ、盗んだ現場を目撃した者がおらず、現場検証もされていない。そして、放出された物が盗んだ物だと現時点では立証出来ない、と言う結構いい加減な流れである。
一応、避難所にいた県警捜査一課の課長が形の上では取り調べを行ったが、司たちから、
「取り調べと言ったらカツ丼ですよね。食べます?冷凍ですけど」
「お、おう」
という締まらない流れとレンチンの音で取り調べは終了し、釈放された。
一方で、これだけ貢献した人物を「はいさようなら」と追い出すような真似は出来ぬと提示してきたのが、司たちを両親の元へ送り届けるというものだった。
今のところ、互いに無事は確認できているが、その一方で実際に顔を合わせたのは寿だけ。両親にはほぼリアルタイムで色々状況が伝わっていて「心配はしてませんから」と言われているらしいが、それはそれ。
しかも、日本政府としてはこのあとも司たちに全国どころか、国内が落ち着いたら世界中を飛び回ってもらえたら、何てことも考えているのだ。そんなわけで個人のために飛行機を飛ばすくらいは安いものと考えているどころか、なんなら専用機を一機用意してもいいくらいに考えているらしい。
「ま、明日の様子を見てからになるけどな。さすがにその格好で連れて行くのは色々マズいと思うし」
「うん」
自分の子供が両手足を包帯グルグル巻きで、その理由が千切れたからですなんて、心配しない親がいたら一度その面を拝んでみたいレベルだろう。せめて「ほら、なんともないから」というのを見せられるくらいにはなっていないと連れて行けない。
「でも、いいの?」
「ん?」
「明日は……ほら」
「あー、色々説明する手間が省けるだろうから、いいだろ」
「それもそっか」
実は男女入れ替わります、なんてのを男の姿で説明するよりも、寿と全く同じ姿で「司です。今日はこんな感じです」というほうが説明が早い。と言うか、納得せざるを得ない状況に持って行ける。
「じゃ、お休み」
「待って!」
「ん?」
避難所も色々と落ち着いてきていると言え、数千人単位で受け入れていると怪我人病人は絶えず、医務室……というか病室になっているここも数人が寝ており、これ以上長居すると迷惑になると思うのだが。
「お休みのちゅ「お休み!」
本日二度目のハリセンは、使い手の意を汲んだのか、音は抑えめのくせに打たれた寿は満足に動かせない手で「顔がっ!顔がっ!」とジタバタするような威力だった。
「あうぅぅぅ……」
悶絶する寿を残して――ほかのベッドで休んでいる人たちに謝りながら――医務室をあとにする。何となくだが、今日一番活躍したのはハリセンではないだろうか?ラストスパート的に。
「次に泉の精が出てきたら、ハリセンでも放り込んでみるか」
「司くんやめて」
「え?」
「鉄のハリセンとか、殺傷力がヤバいと思う」
それ以上に、伝説のハリセンとかになったらどうなっちゃうんだろうね?
「ここにいたか」
「あ、奥澤さん。お疲れ様っす」
「ホントだよ。お疲れだよ俺は。もうトシだな」
こういうとき、なんて答えれば良いんだろうね。笑えばいいのかな?
「ところで例の二人だが」
「ええ」
「一応、色々と確認が取れてな。今取り調べを受けてるところだ」
「冷凍カツ丼で買収出来るような取り調べに意味はあるんですかね?」
「アイツらのアイテムボックスの中身は空っぽにしたらしいから買収は無理だろ」
そういう話では無いと思うんだが。
「ま、本人たちが、自分たちのしたことについてしっかり理解していて、その上で出来ることなら何でもするって言ってるからな。俺も色々と思うところはあるが、とりあえず俺の監督下で働いてもらうことになった」
「そうですか」
「それと、斉藤の件」
「はい」
「ついさっき、科学処理班が作業開始。とても見れたもんじゃない姿だが、背格好に血液型なんかが一致したそうだ」
何だかよくわからないうちにライバル視(?)されて、一方的に攻撃されたから自衛のために色々やった結果、自爆。なんとも締まりの無い結末だが、とりあえずこの件はこれでおしまいだな。
「それから……動画の件」
「ええ」
「とりあえず撮影、編集した隊員を特定した」
「はい」
「だがなあ……何をどうすりゃいいんだって話なんだよな」
「まあ、そうですね」
「と言うことで、一週間、メシのおかずを二品減らすことと、避難所内の数カ所、毎日清掃としたが……それで勘弁してくれ」
あの状況下で、情報確保のためにカメラを回し、短時間であのクオリティに編集するという腕前は、使いどころさえ選べば優秀な才能。放り出すのは惜しい人材なんだそうだ。
「いいですけど……俺の撮影は金輪際、禁止と言うことで」
「もちろんだ」
次回より新章、というか日付が変わります




