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「はあ……ったく、どうするかな、これ」
避難している人たちの中で何かあったらしく、武井も含めた隊員たちがそちらにかかりきりになったため、現在この部屋にいるのはとりあえず両腕がつながった寿と、「私は色々ダメな人間です」という札を首から提げて正座している成海に、事態の解決策を必死に考えている司の三名。
あとは両足だけなのだが、これがどちらも付け根辺りから千切れているため、司がやるよりは同じ女性にと、成海に任せようとしたらコレだ。
「わ、私は司ちゃんだったら別に」
「ヤだよ」
「即答?!」
もちろんコレは歴とした医療行為なのだから、何ら恥ずべき事は無い。堂々とやればいいのだが、それをやろうとするといつの間にか成海が動画撮影を開始するのである。スマホやカメラを取り上げたところで意味は無い。成海のアイテムボックスには家電量販店三軒に携帯ショップ十軒くらいの在庫が入っているのだから。
「そう言うの、止められないんですか?」
無駄と知りつつも質問をすると、
「本能には逆らえなくて」
と言う、とても残念な返事が返ってきた。
「仕方ない、寿姉」
「ん?」
「なんとか成海さんを押さえておくから、自分でなんとかしてくれ」
「ひどっ!」
「しょうが無いだろ」
「でも」
「俺はともかく……撮影されたい?」
「それはイヤ」
「だろ?」
ガチガチに固めた両腕でも何とか動かすことが出来、どうにか両足がつながるところまで二時間ほどかかった。
「何とか動けそう……かな?」
「じゃ、おとなしく寝ててくれ」
「うん」
寿の視界内に「左上腕部修復中」「右肩修復中」と言った具合に修復が始まった表示が出てきて、パーセントまで表示されたらしいので、完了までは医務室に放り込むことにした。
一応包帯っぽいのを巻いているから怪我人扱いでいいだろうし、他にも治療を受けている人がいる部屋なら成海が何かをすると言うこともないだろう。
もっとも、当の成海はそれどころではないが。
「うう……えっとぉ……」
「明日の朝までにしっかり書き上げてくださいね」
「はい……」
「あ、ちなみに」
「ん?」
「全員とは行かないまでも自衛隊員さんたちの前で読み上げてもらいますから」
「えええええっ?!」
明日の朝までに反省文を原稿用紙五枚である。
ランキング一位のふじさきつかさについて語るスレ レベル94
41 名無しさん
こんな動画があるんだが
http://dougaup.com/movie/XXXXXXXXXXXXXXX
42 名無しさん
え?何コレ
コスプレ?
51 名無しさん
動画のコメントにふじさきつかさちゃんの魔法少女戦闘スタイルってあるんだが
まさか?
52 名無しさん
マジで魔法少女だった件
55 名無しさん
アングルが微妙だな
ずっと後ろからで首から上が映ってないのはなんでだ?
67 名無しさん
色々配慮したんだろ?
よく見ろ
体格は男じゃねえか
68 名無しさん
げ、マジだ
それでこの格好とか正気か?
75名無しさん
>>68-73
待て待てお前ら落ち着け
実はつかさちゃんは体は男だけど
心は永遠の魔法少女なのかも知れん
だとしたらこの格好の説明がつく
82 名無しさん
つくわけないだろ
83 名無しさん
ついてるけどな
85 名無しさん
誰がうまいことを言えと
93 名無しさん
だが待て。ついていると言うことは?
98 名無しさん
スマン、ちょっとそう言う扉を開くのはハードル高いわ
108 名無しさん
有りか無しかで言えば
有りだな
ついてるって意味で
119 名無しさん
そうじゃないぞお前ら
よく考えろ
ついてるとかついてないとか
そんな些細なことで揺らいでどうするんだって話だろ
122 名無しさん
>>119
そうだな
しっかり立って揺れない
大事だよな
127 名無しさん
そうだそうだ
いいこと言った
>>119、お前にならつかさちゃんを任せられる
141 名無しさん
ダメだ
それは譲れん
144 名無しさん
むしろ俺の体を任せたいんだが
153 名無しさん
おまわりさんここです
159 名無しさん
医者はどこだ?
169 名無しさん
もうやだここ
理不尽、と言う単語がある。
意味は言うまでも無いだろう。
そして、改めて問いたい。
どうしてこんな理不尽なことになるのかと。
反省文の枚数を増やされた成海はその理不尽に対して、どうやって自分の中でケリをつければいいのかわからないまま、とりあえず反省しているっぽい文章を書いていく。反省文の枚数が増えた理由はとても簡単だった。
「成海さん、コレ、何ですか?」
「へ?」
三十分ほど前に見せられたスマホには、いい感じに盛り上がっている「ふじさきつかさスレ」。盛り上がっている理由は言うまでも無く、本日の戦闘シーンの動画で、司が伝説の魔法ステッキで変身したシーン以降が動画サイトにアップされていたからだ。
首から上が映らないように徹底的にアングル調整とトリミング、不自然にならないような拡大縮小がが行われ、コンテナをよじ登っていくところを下から見上げるアングルでは謎の光が仕事をするという徹底ぶりはどう見てもプロの仕事。
動画なんて撮影したのを適当にアプリで切り貼りするのがせいぜいな上に、実際の戦闘時はマスコットキャラになっていた成海が動画を撮影して編集するなど不可能。しかもその編集テクは野生のプロと言っていいレベルで、濡れ衣もいいところである。
もっとも、アップする前の元ファイルを欲しいと、動画投稿者へメッセージを送っている時点で弁解の余地は無さそうであるが。
さて、そんなふうに理不尽を噛みしめながら書いている反省文は当然ながら内容も適当そのもの。
出だしこそ「私はセクハラかましました。すみません」という内容が綴られているが、二枚目以降の「なぜ止められないのか」に触れたところからは、「かわいいは正義」「愛でないなんてあり得ない」という文章が乱れ飛ぶ。
そしてさらに進むと「本能には従うべき」とか「手を出さない方が失礼」という文面が見え始めている時点で、コレは反省文なのかどうかという感じになってくる。
「うーん、こんな感じかな」
最初こそ文章がうまくまとまらず、何度も書き直したが、興が乗ってくるとすいすいペンが動き、あっという間に原稿用紙二十枚ほどになった。
さすがにその枚数に司がドン引きして「読み上げなくていいから」と言おうとしたが、本人が「いえ、これは私のケジメですから」と自衛隊員たちの前で読み上げた。
結果、ある種感動的なその反省文は拍手喝采を持って受け止められ、それを読み上げる様子が動画配信されると共に、反省文自体が経典と呼ばれるようになるのだが、本筋とは関係の無い話となるため、ここでは割愛する。
「くっついた?」
「うん」
「で、修復率だっけ?どんな感じ?」
「左手が四十%、右手が二十%。足はまだ十%行かない感じ」
「そうか」
「この感じだと朝には全部治っちゃうかも、って感じかな」
「すげえな」
「あははは……」
乾いた笑いの後、寿は動く範囲で手を動かし、コスプレアイテムの石○面を取り出して、顔の前へ。
「私は人間をやめ「やめるな!」
今からやめるんじゃ無くて、とっくにやめてるだろうに。




