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  作者: ひじきとコロッケ
七月六日
167/176

(10)

「おい!ヤバい!下がれ!下がれ!」


 相談しようとしたらコンテナにはしごをかけて登っていた隊員たちが騒ぎながら降りてきた。


「藤咲くんたちもできる限り離れて!」

「へ?」

「毒性のあるガスだ!」

「「「は?」」」


 慌てて成海が手足を拾い、司が本体(?)を抱えて距離を取る。


「何があった?」

「はい……はあっ、はあっ……例の……報告にもあったので、検知器を持ち込んでいたのですが、毒性のあるガス……フッ素系のガスです」

「は?」

「例の斉藤ですが……「そうだ!あいつはどうなったんだ?」


 思わず司が口を挟んでしまったところに寿が一言付け加える。


「私の探知で引っかからないよ?」

「え?」

「あのコンテナの中に、生きてる人間はいない」

「……えーと、続けます。その……真っ赤というか……何というか、全身がただれて崩れかかったような死体があるだけです」

「まさか……」

「おそらく、奴のスキルと推測されている核融合か核分裂か……そのどちらかを自分も範囲内に含めたままで発動させてしまい、自分自身を……ではないかと」

「その結果、炭素、窒素、酸素あたりの原子がフッ素になって……か」


 一方的に敵視され、攻撃されたので何となく対応しただけだが、なかなか壮絶な最期だったようだ。


「うん、スキル削除とか全く意味なかったな」

「アイテムの無駄遣いというか何というか」

「ま、この場では全員無事だったから良しとしようか」




 とりあえずコンテナは崩れないように固定され、そのままここに置いていくこととした。運ぶにしても危険すぎるし、だからと言ってアイテムボックスの中に入れるのもいかがなものかと言うことになって。もちろん、科学処理班を手配しているので明日にでも何らかの処置がされるだろう。


「で、治療というか修理、か」

「はい」


 千切れた腕の断面を見ながら奥澤が(うな)る。


「どう見ても地球の科学でどうこうできる次元に見えないんだが」

「そうなんですよね」

「まあ、ある程度の器材は持ってきているが……駐屯地に戻ってからの方がいいな。あそこなら普通に自動車の修理も出来る程度の設備があるし」

「はい」

「お手数かけます」

「何、君たちがいなかったらどうにもならなかったからな。このくらい安いモンさ」


 とりあえず抱えて歩くのは絵的にキツいので、トラックを一台出して負傷した隊員たち――幸い軽傷だが――と一緒に運ばれることになった。

 なお、肝心の寿本人が「司ちゃんによるおんぶまたはお姫様抱っこによる運搬を要求する!」と主張し続けたが、秒で却下された。


「よし、そろそろ出発……誰だ?」


 本来平和なこの国で、誰かが近づいたから即座に安全装置(セーフティ)を解除した銃口を向ける動きが自然に出来るようになってしまった自分を少し嫌いになりながら、奥澤含めた数名が油断なく構える。


「あの……すみません……俺たち」

「えっと、そこの斉藤の」

「仲間か」

「仲間というか、一緒にいたというか」

「確か、中井正行と」

「落合恵実です」


 いきなり攻撃されなかったと言うことで少しだけ警戒は緩めるが、事ここに至って何をしに来たのかがわからないため、銃口は向けたまま。そして二人はと言うと、両手を挙げながら何も持っていないことをアピールしつつ、その場で一回転。後ろにも何も隠していないことを必死にアピールしているが、アイテムボックスのような能力や魔法攻撃があり得る状況下ではイマイチ説得力に欠ける。


「何の用だ?」

「その……今更ですけど、投降します」

「は?」


 とりあえずトラックをもう一台出してそちらに乗せ、事情を聞きながら移動することとなった。




 周囲を警戒する隊員たちが歩きながら進む関係上、トラックの進みはそれほど速くなく、駐屯地までは約二時間。斉藤たちという脅威がなくなったと言え、モンスターはチラホラ見かけるし、ボスモンスターもいるので適度に排除しながら進んでいく。


「なるほどね」


 移動しながら奥澤が二人からこれまでの話を聞かせてもらった感触で言うと、普通の状況下ではコイツらは社会のクズだが、六月になってからのこのとんでもない環境下ではそれなりに頑張っていて、斉藤に関わらない部分に関して言えば、比較的善人と言って良さそうだ。

 確かにどこぞのサービスエリアでは色々やっていた、と言う話を司たちから聞いていたが、この二人は他の人たちへの暴力行為だとかえこひいきだとか言った事はしていないとの事。

 もちろん、鵜呑みにするつもりはないのだが、話してみた感触で言うと、斉藤一人に引っ張られていただけの集団だったようにも聞こえる。


「単純に判断は出来ないが……うーむ」

「あの!俺に出来る事なら何でもします!」

「あ、あたしも!」


 ま、得てしてそういうふうに言うよな。こういう状況だったら。

 そう言う色眼鏡で見てはいけないが、だからと言って……なあ?


「ふーん、それで?」


 曲がりなりにも相手は魔法やら何やら出来る二人。その気になったら自衛隊員の十人くらいは軽く吹き飛ばすという事で、用心のために一緒に聞いていた成海が軽蔑したように吐き捨てる。


「仲間だって言うなら、止めるものじゃないの?」

「それを言われるとキツい」

「うん……」


 あのとき、ドローンで見ていた映像ではこの二人が他の人たちを殴ったりしていたかどうか、はっきり見えなかったから、信用できない。それだけである。


「だが、少なくとも俺たちを攻撃したのは確かだよな」

「はい」

「それについては、言い訳しません」

「そうか」


「脅されただけです」なんて言い訳が通るなら、警察も裁判も必要ない。


「ま、最終判断は上に任せるが……俺としてはお前たち二人を罰するとかそういうつもりはない」

「え?」

「いいの?奥澤さん」

「勝手な判断だけどな。今は人手があればあるほど助かる」


 中井のアイテムボックスレベル十なんて、活用しないという手は無い。


「それなりに監視やら何やらつけさせてもらうだろけど、な」


 甘いと言われるだろうが、奥澤としては前途ある若者がやり直そうとしているなら、それを止めるつもりはない。こんな状況ならなおさら、と考えていた。

 それに、この二人が自分たちをどうにかしようと考えているならとっくにやっているだろうし、仮に駐屯地に着いてから何かをしようというなら、力ずくで止めればいいだけの話だ。

 魔法という攻撃力の塊は脅威と言えば脅威だが、実際には消費MPが大きすぎて、殺傷力の強い魔法を連打できるのは成海くらいのもの。二人が魔法を使うとわかっているんだからそれなりの対応をすればいいだけで、MPを使い果たしてしまえばレベル差による身体能力の差と訓練で鍛えた技術力があれば負ける事など無い。




  ◇  ◇  ◇




「そうか……わかった」


 最終的にどうなったかの報告を聞き、全員がホッと息をつく。


「まともな方向に使えば、色々と有効利用出来るスキルだろうに……全く、ガチャの結果とは言え、不公平なものですね」

「色々と有効利用?」

「現状、色々な工業施設が稼働出来ませんからね。多少、同位体の比率がおかしくても色々な物を生み出せる力というのは使い道のある能力でしょう?」


 荒川が心底残念だといいながら「それでは、まだ色々と山積みなので」と部屋を出て行く。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん死んだ姿を確認できてないから気になる感じの最期だけど無事解決した?と思っていいのかな?
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