(6)
◇ ◇ ◇
心がガリガリと削られていく感覚があるが、斉藤のスキルを無効化できるバリアっぽいものはありがたいと思いつつ、司は数歩後ろへ下がる。
「司くん、一つ言いたいことがあるぴょん」
「あとにして」
「今しか言えないぴょん」
「……」
「仮にも魔法少女なんだから、金属バットで物理攻撃はないぴょん」
「状況わかってる?!」
微妙に無駄なやりとりなんだがと毒づきながらも、この状況まで来たのなら、作戦が実行できると見なして、次の行動へ。
「アイテムボックス……この位置に!」
そして、ガゴンッと中身の詰まった音と共に貨物用コンテナが出現する。
「うまく行ってくれよっ!」
「今度こそこれで決めるぴょん!」
成海が差し出してきたステッキは思い切り遠くへ投げた。
「司くん、ひどいぴょん!」
◇ ◇ ◇
何だあれは……コンテナ?!
真上にいる斉藤の位置からは、それがなんなのか、すぐにはわからなかった。が、鑑定スキルがすぐにその正体を告げてきた。
「鋼鉄のコンテナ……中身は……ネジ?」
ステンレスやら鋼鉄やらで出来たネジやらナットやらといった細かい部品がギッシリ詰まっているのが見えた。
「くっ!」
落下する速度でもアレくらいは分解できるはずだが、落下のダメージを軽減する役には立たないと即座に判断し、いくつか回収していたマットレスを自分の下に出しつつ、下のコンテナとネジの山へスキルを発動させる。
分解してしまえばこちらのものだ。
◇ ◇ ◇
「えーと……藤咲司、なのか?」
「確認する余裕は……あ、コメントが来ました。藤咲司ですね。背格好……体格的にも」
場の空気が凍り付く寸前だったが、斉藤を上に吹き飛ばした事でどうにか……いや、全員がどうコメントしていいのかわからないという表情になっている。
「何でも攻撃を完全に防いで無敵になる、とか何とか」
「無敵って」
「いや、無敵みたいだな。斉藤がスキルを使っているようだがお構いなしに踏み込んでいる」
ちなみに中継されている映像では司の上半身くらいしか映っていないが、カメラを操作している奥澤のせめてもの気遣いである。
「で、横に浮いている謎生物は?」
「赤畑成海が変身に巻き込まれたと」
「それはいいんだが……あれは一体?」
「放送されている最中だった、魔法少女アニメに出てくるマスコットキャラクター、だそうです」
「そうか」
「魔法少女にはマスコットキャラクターがつきものですしねえ」
そういう理解でいいのかという気もするが、考えるだけ無駄なんだろう。
「とりあえず映像は公開しないように厳命を」
「それはもちろん」
「藤咲司のあの格好もアレだが、魔法少女が金属バットで男を吹き飛ばすとか、子供の情操教育によくないからな」
情操教育ってそういうものだっけ?と数名があとで辞書を引こうと心に留めた。
「ま、まあ……何だ。とりあえず……コンテナの中に斉藤が落ちたな」
「ええ……お、コンテナが追加されますね」
追加で落とされたのは床と天井の無いコンテナ。そしてその上にビニールに詰めたネジ類。
「さて、答え合わせの時間かな」
◇ ◇ ◇
「ぐぐ……クソがっ!」
幸いな事に、上から降ってきた追加のネジ類の重さ自体は大したことが無かったので、ひどいダメージは受けていない。だが、体全体がネジの山に埋まったままで動きづらいのは実にマズい。さっさと脱出しないと重さで潰されてしまうのは容易に想像出来る。
「この程度で俺をどうにか出来ると思ったのか?」
鑑定で周囲にある物を確認、鋼鉄製のコンテナに、ステンレスや鋼鉄のネジ、ナット類。とがった木ネジなどが入っていたりしたら刺さったりして危なかったろうが、そういう物は無かったようだ。
「ふう……落ち着け、大丈夫だ。俺のスキルでどうにか出来ない物など無い……まあ、例外があったが、イレギュラー中のイレギュラーだ」
バリアとかいう謎物質?謎現象?はとりあえず捨て置く。長時間維持できるものでは無かったようなので、ここを出ればすぐに殺せるだろう。バットも気にするのはやめる。本人を叩けばそれで終わりだから。
「スキル発動……え?」
なぜか、何も起きない。イヤ、スキル自体はきちんと発動している感じなのだが、結果をもたらさない。
「何だ……これは……」
◇ ◇ ◇
「斉藤の能力?スキル、か……正式な名前などわからんし、知っても意味は無さそうだからどうでもいいが、その効果は実に単純。核分裂と核融合だ」
「単純なんですか?」
「まあ、事象自体はとんでもない事ですがね」
どちらも常温常圧でお手軽に出来るものでは無いのだから、そう言う意味ではスキルというのはとんでもないものだと思う。
「鉛の銃弾を弾いたカラクリは至ってシンプル。鉛を核分裂させ、水銀に。さらに金に」
これだけでも弾丸の形状は大きく変わる。軌道がそれるには充分だ。
「そして、核分裂の過程で生じた水素が、弾丸の熱により酸素と反応。小さいながらも弾丸の重量からすれば無視できない程度の爆発を起こして水を生成しながら弾け飛ぶ」
荒川はパン、と手を打ち合わせる。
「鉛から金をつくり出す。文字通りの錬金術!ヨーロッパの錬金術師たちの夢がこんな形で実現したというわけだ」
「しかし、本当に?」
「ええ。回収した物体は先端部分が水銀と金の合金、アマルガムになっていた。そして水が付着していたことも確認。そしてアマルガムと水に共通していたのが、同位体の比率が自然界のそれとは違うという事」
自然界に存在するあらゆる元素は、中性子の数の違う同位体を持つが、大抵は安定同位体と呼ばれる特定の中性子数のものが大多数になり、それ以外の中性子数のものは比率がぐっと下がる。
例外は原子炉などのように核反応が起きた付近で、中性子の数が多かったり少なかったりというものが通常とは違う比率で見つかる。それと同じ事が銃弾の残骸で起きていたというのが、彼らの推論の根拠だ。
「斉藤によって倒されたとみられるモンスターの場合、体内から通常ならあり得ない量のフッ素が検出された」
「フッ素?」
「ええ。おそらくは……」
荒川が推測を続けて述べていく。
生体内に比較的豊富にある酸素原子と水素原子を核融合させて原子番号を一つ進めたフッ素原子にしたのだろうと。
「フッ素は周囲に水があれば比較的簡単にフッ化水素になる」
「猛毒のアレですか」
「ええ。そしてそれほど強くは無いが酸性を示す。トロールの再生能力を上回る程度にはなったんでしょうね」
そしてもちろん、そのフッ素も通常とは違う比率で同位体が存在した事を付け加える。
「恐らく、藤咲司が大量の水を浴びせたのに消えたというのは……水素原子を二つ核融合させてヘリウムにしたんでしょう」
ヘリウムの濃度が上がれば、音はやや高く響くようになるでしょうし、と付け加える。
「核融合、核分裂……どちらも物体を構成する原子を変えてしまうということか」
「ええ。そして、原子が変わってしまえば……元の形は維持できなくなるし、性質も変わる。スキル自体を手に入れただけでは使いこなすのは難しかったでしょうが、試行錯誤を繰り返しながらここまでやって来たんだろう」
スキルをどのようにして使うのかはわからないが、「○を核分裂させる」と言った程度なら、比較的簡単にできるのかも知れない。
「だが、そうだとすると、今の状態も危険では?」
「そ、そうだ。どんなものでも核分裂やら核融合やら出来るんなら、閉じ込めておく手段が無い!」




