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  作者: ひじきとコロッケ
七月六日
162/176

(5)

君も契約して魔法しょ

「いい?まずはステッキを縦にして顔の前に」

「こう?」


 まるで映画やアニメで騎士が儀礼的に剣を掲げるようにして持つ。


「そうそう。そうしたらそのまま手を前に突き出して、ステッキもそのまま前に突き出して水平に」

「こう、か」

「そしたら、スイッチを押しながらそのまま真上に振り上げる!」


 言われるままにしたら……ステッキの先端が回転しだし、軽やかな音楽も流れ始めた。


「そして変身の呪


 成海の台詞が終わるより早く、実にカラフルな光の奔流が司を包み込んだ。


「ぬわっ!」


 昨日もこんなことがあったような気がするが、とデジャヴを感じながら何がどうなるのか身構えるが、やはりそんなのはお構いなしに手足が勝手に動いていく。

 なぜか全身が宙に浮いてくるりと一回転。周囲はパステルカラーを基調とした光の奔流で、首から下が何だかキラキラと輝くシルエットに変化し、そのまま着ている服の形が消える。うん、脱げた感じがする。

 そして、どこから現れたのか、白く輝く光の帯があちこちに巻き付いていき、それに合わせて手足も動く。そして光の帯が両手に巻き付くと、軽く交差させた腕を上に。足に巻き付くと、クイッと足の角度を変えてまっすぐに。やがて光の帯は頭にもシュルシュルと巻き付いていく。

 そして、キュピーンともシャキーンとも表現しがたい軽やかな音と共に光の粒が弾け、白く輝くだけだった帯が、実は衣装の各部パーツだった事を主張していく。

 もうすでにイヤな予感は確信に変わっているのだが、ふと横に視線をやると、成海がいたはずの場所にも何だかキラキラときらめく光が見えるが、どう見てもそのサイズは全長三十センチほどで、人間のサイズでは無いし、形も全然違う。

 だが、疑問を口にするよりも早く、変身シーンが終わったらしく、周囲の光の奔流が速度を増しながら薄くなっていき、周囲の様子が見えるようになっていくと同時に、宙に浮いていた両足が地面につく。

 そして、両手が流れるようにポーズを決めながらウィンクした目の前で横ピースになり、口が勝手に動いて、決め台詞を述べ始める。


「愛と夢を守る魔……って、やってられるか!」


 ギリギリのところで呪縛(・・)が解け、手にしていたステッキを地面に叩きつけた。


「なんだよこれは!なんでこんなんばっかなんだよ!」

「司くん、緊急時に姿なんて些細(ささい)な事は気にしちゃいけないぴょん」

「は?!」


 妙な語尾に思わずそちらを振り向くと、ふわふわと宙に浮いた……猫?

 だが、少なくとも司はピンクの毛並みで目をぱちくりさせながら、背中にファンシーなデザインの白い羽を生やして目線の高さに浮いている猫というのを見た事は無い。


「どうしたぴょん?」

「その声……成海さん?」

「そうだぴょん」

「えーと……どうしてそんな姿に?」

「よくわからないけど巻き込まれたみたいぴょん」

「巻き込まれ……って」

「思ったよりも変身の光が広かったぴょん」

「その姿……えっと」

「知らないぴょん?これ、司くんの変身している魔法少女「だあああ!どうでもいい!」


 どうやら魔法少女モノ定番のマスコットキャラクターらしいが、契約して魔法少女になるとか、承諾したつもりはない。クーリングオフを要求したい。


「つか、その語尾!」

「勝手についちゃうぴょん。キャラ作りしてるわけじゃないぴょん」

「見た目、猫なのになんでウサギっぽい感じなの?!」


 どうしても言わずにいられなかった突っ込みをすると、成海(?)が真顔になった。


「司くん」

「な、なんでしょうか」

「それ以上はダメぴょん。組織(・・)が黙ってないぴょん」

「どう言うコンセプトのアニメ?!」

「他にもスポンサーの意向とかそう言うのが色々あるぴょん」

「聞きたくなかったよ!」


 くっそ、予想を超えた結果になってる。

 そして、改めて見たくはない現実を見る。自分の今の姿を。


「鏡、見るぴょん?」

「見ない!」


 見える範囲で言うと、両手は肘の辺りまでの白を基調とした長手袋。手首の辺りと手の甲にピンクと黄色のリボンが飾られている。

 そして、両足も同じデザインモチーフの膝あたりまでの長いブーツ。

 そして着ているのはノースリーブだけど肩の辺りに色々と飾りがついていて、胸の辺りにも大きなリボン、多分腰にも大きなリボンがついた白とピンクと黄色の服。

 当然だが……下はふわりと広がる膝の辺りまでのスカートである。

 鏡を見る勇気が無いから確認はしないが、どうも額の辺りにも何かの飾りがついていて、髪にも何かの髪留めがついているようだ。


「司くん!その変身、時間制限があるから気をつけてぴょん!」

「え、時間制限?!」


 視界の隅にカウントダウンをしている数字が見える。


「五分間だけか」

「アニメ本編でもその制限が厳しくて、ファンの間でも意見が真っ二つって聞いたぴょん」

「妙に詳しいね?」

「そ、そんなことないぴょん。常識ぴょん」


 残り時間は四分ほどか。ガチのファンじゃねえかと突っ込みを入れてる余裕は無い。見た目はともかく、性能は確かなんだろう。


「……行きます」

「頑張るんだぴょん!」


 ダダッと走り、銃撃している自衛隊員の後ろでジャンプして飛び越える。思った以上に高く飛べたのに驚くが、一応はそうなるだろうとも思っていたので慌てる事無く着地。後ろからの銃撃が背中に当たる感触はあるが、そのまま銃弾が地面に落ちている音も聞こえるので、とりあえず問題ないと判断して斉藤の方へ走り出す。




  ◇  ◇  ◇




「なんだそりゃあああ!」


 何だかよくわからない光が収まり、藤咲司が飛び出してきたのが見えたが、どこからどう突っ込みを入れていいのかよくわからない姿にさすがに少し後ずさる。

 こういう状況でなかったら、悪くて通報、良くて近所の小学校で不審者情報発信という姿は、まともに相手をしない方がいいと直感が告げる。

 だが、あちらから向かってくるなら好都合。見たところ銃弾が全く効かない状態らしいが、それはそれ。こちらのスキルは効くはずだ。

 ホンの少しだけ司の方へ意識を向け、スキルの密度を上げてやるだけで……


「何っ?!突破してきた?!」


 確かにスキルが発動した手応えはあるのだが、どうも何か……魔法的なもの?で防がれたような感触。じっくり見たい姿では無いが、鑑定で見ると「バリア」と出た。マジか。


「食らえ!」


 いつ手にしたのか、その手に金属バットが握られており、頭上から振り下ろしてきた。


「クソッ!」


 慌てて飛び退きながらバットにスキルを……効かない?!鑑定は……不明(アンノウン)?!


「何だ!それはっ!」

「知るか!」


 こっちが聞きたいと言わんばかりにさらに踏み込んできた司がバットを振り上げる。「それ(・・)ってどれのことだよ?!」と言いながら。

 斉藤の身体能力もそれなりに上がっていて、普通なら避けられるはずのタイミングなのだが、司のその姿とスキルが効かなかった事で動揺したために避けきれず、ボグッという鈍い音と共に宙高く放り上げられた。


「ぐはっ!」


 体を突き抜ける激痛に一瞬意識が飛びかけたがどうにか耐えた。高さは十メートル程か。レベルがそこそこ上がった現在なら何とか耐えられる高さだろうが、スキルが効かない司相手にどうすればいいか。


「鑑定っ……なるほど……時間制限ありの変身か」


 ふざけた姿のくせにほぼ無敵というのは称賛に値するが、時間制限があるなら逃げ切ればいい。何をどうして変身したのかはわからないが、連続して変身なんてのは出来ないだろう。

 変身のためのスキルやアイテムの制約もありそうだが、司の精神力的な意味でも連続はきついだろう。

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― 新着の感想 ―
ふざけすぎててつまらない。 とても残念。
[一言] 緊迫感が台無し おふざけが過ぎるし面白くないどころかムカつく 真面目な流れは面白いのになぁ
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