表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: ひじきとコロッケ
七月六日
160/176

(3)



「トラックは諦める!全員前へ!」


 隊員たちが走り出すあとに続いて行きかけて足を止める。さすがにMPを使いすぎたのか、成海が真っ青な顔になっている。


「うええ……」

「はいはい、運びますよ」


 このくらいしか出来ることはないなと思いながらも、成海を肩に担いで走り出す。他の自衛隊員たちはと言うと、成海の担当は司だと言わんばかりに生暖かい眼差し。一部にカメラ。少しは国民を守って欲しいところだが、彼らよりも司や成海の方が強いという残念な事実ゆえに、あまり強く言えない。いや、言うべきなのか?


「お姫様抱っこを要求し「却下」


 適当に魔法で作っただけのトンネルは強度不十分ですぐに崩れ始めるが、そのすぐ上で寿がコンクリートの塊を弾き飛ばしているので、駆け抜ける程度ならどうにか持ちこたえそうだ。そして全員が安全そうな場所へたどり着き、土埃まみれの寿と合流したところに、攻撃第二波がやってきた。




  ◇  ◇  ◇




「うわあ……アレ、反則じゃない?」


 何らかの方法でビルの倒壊から逃げる事は予想していたが、スコープ越しに落合が見たものはまさかの力押しだった。


「藤咲司って、空飛べるんだ」


 オマケにあんな何十トンもありそうなコンクリートの塊を殴り飛ばす事も出来るんだ、と感心。


「アレ、本当に人間なの?信じらんない」


 だが、それでも次の一手を打つ。

 ビルの倒壊から逃れて、ホンの少し気の緩んだところを狙わせてもらう。


「狙いよし……っと!」


 スコープで埃まみれの顔を捉え、その額に向けて引き金を引いた。




  ◇  ◇  ◇




 ターン……

 銃声が届くのと、寿が「ふぎゃっ」とのけぞり倒れるのがほぼ同時。

 そして瞬時に全員が瓦礫の影に身を潜める。


「クソッ……次は遠距離から狙撃か」

「狙撃ポイント、特定できません」


 もうもうと上がる土埃では方角は何となく特定できても、正確な位置の把握は難しい。


「寿姉、大丈夫?」

「痛い……うう」


 銃弾の当たったおでこをさすりながら起き上がってくる時点で、絵的に色々おかしいが、気にしてはいけないと自分に言い聞かせながら続ける。


「探知スキルに反応は?」

「んー、ないね。やっぱり、スキルから隠れるスキル使ってるんだと思う」


 角度的に多分あの辺、というビルまでは五百メートル程だろうか。寿の探知スキルの範囲内だが、誰もいないというのなら、やはり隠れるスキルを使っているのだろう。


「乗り込んでいって少し暴れれば、見つかるかな?」

「闇雲に行くのはやめような」


 探して暴れ回る間に逃げられるオチしか見えない。


「うう……しょうがないなあ……ん?」




  ◇  ◇  ◇




 ビルを壊して生き埋め作戦。確かにいい方法だが、奴らは生き延びた。

 直後に藤咲司を狙撃。悪くないが、斉藤の鑑定スキルによるとアレは藤咲司ではない。

 とは言え、撃たれた女が生きているどころか、ほぼノーダメージというのは正直理解しがたい事実。そしてどういうわけか、その近くにいる男が藤咲司らしい。


「よくわからんが……狙うなら今」


 狙撃を恐れて瓦礫の影に隠れているので、自衛隊員たちと藤咲司たちランキング上位三人の位置は離れている。

 人間を殺すのになんのためらいもない。ただ単に誰から()るかという順番だけ悩めばいい。そして、それも実に単純な基準で決める。一番近い奴から。そう決めて隠れていたところから飛び出す。

 中井の隠蔽スキルの範囲から出ればこちらの存在には気づかれるが、いきなり一人殺せばどうなるか?恐らく、俺のスキルがなんなのか理解できず、驚きと恐怖で動きが止まるだろう。

 そして、ホンの数秒でも動きが止まれば、その隙に近づいてまた一人、また一人と殺っていけばいい。モンスターの群れを倒すのとそれほど差は無い。

 銃で撃たれても平気だった女――鑑定スキルによると藤咲寿だったか――がこちらの接近に気づいたが、既にこちらの射程距離までわずか。いつでも殺せるようにスキルを発動させた。




  ◇  ◇  ◇




「来た!」


 寿が叫ぶと同時に斉藤の方角へ飛び出す。

 探知スキルによる発見の速さと、単純な脚力と飛行スキルによる移動速度の速さから、向こうから襲ってきた時は寿が最初に対応する事になるだろうと話し合っていたが、まさにその通りになった。


「とりゃあああ!」

「うおりゃあああ!」


 寿が右腕から刃を出して切りつけるのと、斉藤が何かのスキルを発動させるのはほぼ同時。


「ふえっ?!」

「む?!」


 その結果はどちらにとっても想定外のものだったようだ。

 寿はなぜか手足がちぎれ飛びながらあらぬ方向へ。斉藤はスキルで殺せないという想定外の事態に。


「コイツ……ロボットか?」

「ロボちがーう!……きゃっ……ぐげっ……痛っ」


 抗議する声を残して勢いそのままに寿はゴロゴロと転がっていく。

 ちぎれた手足には何かのケーブルとか歯車とかが見えていて、どう見ても人間のそれではないのだが、とりあえず斉藤は無力化したと判断して、先へ進もうとして……さすがに足を止めざるを得なかった。


「撃て!」


 号令と共に横一列に並んだ五名が一斉に自動小銃の引き金を引く。前回、銃弾は効かなかった。だが、足止めくらいにはなるだろうと考えての事だったが、どうやら予想は当たったようだ。

 何かのスキルで銃弾を弾いているといっても、弾かれた銃弾は直撃しなくなるだけでそこらを跳ね回る。斉藤は火薬でいい感じに熱せられたそれらが飛び回るところに飛び込むのは危険と判断。ゆっくりと進んでいく。

 どうせ彼らの後ろは瓦礫の山。焦ることはない。このまま近づいていけば、いずれはスキルの射程範囲から逃れられなくなる。彼らとの距離はせいぜい三十メートルほどで、後退できる距離は十メートルもないだろう。あそこにいる藤咲司を始めとする七十余名の命もあと僅か。


「わかっていても、ここまで効かないとは驚きだな」

「だが、いきなりこちらに走ってくるのは出来ないみたいだな」

「スキルの予想は当たっていたと見ていいか?」

「おそらくは。しかし、このまま近づかれるのはマズいです」


 後ろに下がれるとしても数メートル。瓦礫をよじ登りながら後退なんて攻撃してくれと言っているようなもの。つまり攻撃の手を緩めずに反撃しなければならないのだが、銃弾の雨の中で動き回っても平気そうな寿はいきなり戦線離脱してしまった。

 こちらの攻撃手段としては昨夜用意したアレくらいだが、正確に斉藤に当てるには十メートル以内に近づかなければならない。


「司くん、行ける?」

「無理」

「だよねえ」


 司がレベルアップにより非常識なほどの身体能力を得ているといっても、銃で撃たれて平気とはならないだろう。もしかしたら数発は耐えられるかも知れないが、試す気にはならない。

 それに、司が近づくために何人かの銃を止めたら、斉藤はそこから突っ込んでくるのは間違いない。

 攻撃が最大の防御になっている一方で、こちらの攻撃のせいで決定打を出せない。ある意味詰んでいる状態になってしまった。


「仕方ない。これを使うしかないかな」

「え?」


 そう言って差し出してきたのは……伝説の魔法のステッキ?


「これを使うとね」

「使うと?」

「すごいのよ」

「うん、全然わからん」


 わかるように説明してください。


「昨夜、試しにこのボタンを押してみたのよ」

「これを?」

「そしたら」

「そしたら?」

「ある意味無敵になったわ」

「無敵?」


 なんだそりゃ?

 成海が昨日試したところ、あり得ないレベルで防御力が上がるという説明が出てきたという。


「説明だけだから、絶対ってわけじゃないけど……銃弾くらいは平気なレベルになるわ……多分」


 多分かよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 素敵なステッキ⁉ by豊川七段
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 姉ちゃん、本当に人間辞めてたのかよ! いやまあ、そりゃそうなんだろうけどさ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ