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  作者: ひじきとコロッケ
七月五日
156/176

(12)

 三人はこんなやりとりをしているが、周囲にいる自衛隊員は警戒を怠っていない。何しろ今までになかった拠点コアの挙動だ。新たなボスが現れてもおかしくない。

 そして、そのまま最上階で三時間ほど待ったが何も起こらない。天守閣周辺、城のあちこちを見て回った自衛隊員たちからも異常の報告はなく、偵察に飛ばしているドローンからもモンスターの姿は確認出来ていない。

 念のための再確認後、奥澤が各所へ連絡を取り、結論を告げた。


「ここの拠点は確保完了と見なし、移動する」

「「「「はい!」」」」


 万一にも銃を置き忘れたなんて事のないように、周囲の確認を済ませながら階段を降りていく。


「奥澤さん、この先は?」

「下に降りて全員そろってから改めて言うが、一旦昨日の野営地へ戻る。そして明朝、移動を開始して駐屯地へ向かう」

「俺たちも?」

「色々と情報が集まってきているらしいが、それはあとで詳しく。とにかく移動しよう」

「わかりました」




  ◇  ◇  ◇




 都内某所。


「今のとこ、もう一回戻して」

「はい」


 男ばかり六人が見ている画面には、モンスターに善戦むなしく倒れた自衛隊員たちと、車から引きずり下ろされてひどい状態になった一般人。普通の神経なら目を背けてしまうような光景だが、この数時間、このシーンばかり何度も何度も見返した彼らはそのままじっと見つめる。

 そこに二台の車が走り込んでくると、モンスターがバタバタと倒れていく。四分割された映像のあちこちに車が映し出されながらモンスターが倒れ、全てのモンスターが倒されると車が止まり、乗っていた者たちが下りてきて辺りを物色する様子が映る。


「コイツが……ねえ」

「しかし、何度見ても何をやったのかわかりませんね」

「回収されたモンスターの死体から、どうして死んだのかは何とか推測できるが」

「推測の域を出ないどころか、本当にそんなのが死因なのか、疑うレベルです」

「だよな」

「自然界には存在しない……いや、元素レベルでは珍しくもない物質だが、この形で見つかるのはと言う意味では珍しい物質。うーむ」


 そして「もう一度見ようか」と誰かが言いかけたところで、廊下を走ってくる音が聞こえ、やや乱暴にドアが開かれた。


「解析結果、出ました!」

「お、出たか」


 手にしていた紙が机の上に置かれると、全員が一斉にのぞき込む。情勢的に仕方ないのだが、ロクに風呂にも入っていないオッサンどもの集団に、遅れて入ってきた女性二人が顔をしかめるが、オッサンたちは気にもとめない。


「これは……」

「ふむ……むむむ」


 数人がそのまま椅子に座って考え込み始めたところで、一応はここのリーダーである荒川がパンパンと手を叩いて全員をそれぞれ座らせる。


「よし、では状況を整理しよう」


 手元でマウスを操作すると、プロジェクターに色々と表示されていく。


「まず、届いた物について」

「はい。事前に鑑定スキルというもので調査されたとおり、金アマルガム、すなわち水銀が金に触れた時に反応して出来る合金で間違いありませんでした」

「我々が各種機器を駆使して調査しなければわからないものを一目見るだけでわかるとは恐れ入るね」

「全くだ。スキルとか言うんだっけ?科学者の天敵だな」

「自分が鑑定スキルを手に入れていないのが心底残念だよ」


 ハハハ、と苦笑するのを横目にマウスが操作され、画面が切り替わる。


「そして、金と水銀の他は……こんなところか」

「水?」

「雨が降っていたらしいから、それだろう?」

「ところがそうでも無いらしい」


 画面が切り替わり、地面に落ちた銃弾の映像が表示される。


「瓦礫の隙間に入り込んだおかげで、濡れていない弾もあったらしい。だが、そんな弾からも水が見つかった」

「おかしいですね」

「そうだな。火薬で発射されて、高温になった弾に水……仮に水滴がついていても蒸発するだろう?」


 なるほど確かにと全員が頷くのを見て画面が切り替わる。


「ま、ある程度残っているのもあり得ないわけではないが……その水も……コレだ」

「自然界では考えられない比率だな」


 銃弾から見つかった水銀、金、そして水……もう少し言うと水素。それらは全て、自然界同様にいくつかの同位体を含んでいるのだが、その比率が明らかにおかしい。


「何らかのスキルによって、つくり出された、と言う事か?」

「だとしたら、それはそれで危険だな」


 同位体自体はほとんどの元素に見られるが、中には危険な放射線を威勢よく放つ放射性同位体なんてものもある。スキルという不思議な力により無から生み出されたり、無理矢理つくり出されたりしたものが、そうした危険なものを含んでしまうとしたら、マズい。


「食ったらちょっと体調を崩す程度で済めばいいけどな」

「即死するならまだいいが、死ぬまで何ヶ月もかかったりするとキツいな」

「本人にとってもそうだが、いまの医療リソースの限られた中では……見捨てるしかないだろうな」


 パンパンと場を荒川が手を叩く。ここの施設のトップではないが、生き残っている中では一番役職が高く、研究に没頭しがちな者の割には人当たりも悪くないので生き残っている全員一致でリーダーとなった。ちなみに選んだ全員の本音は「神輿(みこし)は軽い方がいい」である。


「話がそれているな。戻すぞ」


 全員が頷くのを確認して続ける。


「では、コレをどう判断しようか」

「一つ確認を」


 一人が手を挙げる。


「鉛の弾丸が金アマルガムに変化した。それはまあ驚くべき事実ですが……重量はどうなってます?」

「えーと、これだな」


 画面が切り替わり、通常の弾丸との比較が表示された。


「若干軽くなっているのは、はじけ飛んだせいか、地面に落ちた時に欠けたといったところか?」

「推測だが、ほとんど変わっていないと言っていいんじゃないか?」

「俺もそう思う」

「私も」


 さらに画面が切り替わる。


「そしてコレだ。金アマルガムと言っても、全てがそうなったわけではなく、弾のお尻の方は鉛のまま」

「つまり先頭の方が……どういうことだ?」


 ざわつく中、荒川がマウスを操作し、いくつかの動画を同時に再生する。


「コレを見てくれ。自衛隊がモンスターと戦っているところを撮影したものと、あの斉藤とか言う奴が瞬時にモンスターを倒した映像だ」

「と言っても、斉藤とか言う奴の方は車載カメラに僅かに写ってる程度ですけどねえ」

「それでも見てくれ」


 四つの動画のうち三つは自衛隊員たちがトロールやオーガと戦っている様子が映し出されている。残りの一つはカメラの画角には既に写っていないが、開始数秒でモンスターが倒れた様子が映っていた。

 自衛隊員たちがモンスターを倒し終えたところで映像が止まる。


「一般論だが、自衛隊、特に陸自は銃火器による戦闘という面だけで見れば日本有数の集団だ」

「そうですね」

「まあ、訓練と実戦は違うと言いますけど、一般人よりははるかに戦えるでしょうね」

「全くの素人があんな銃をいきなりぶっ放せるかって……無理だよな」


 荒川は満足げに頷いて続ける。


「戦い方が確立されつつあるとは言え、自衛隊でさえも一分前後はかかる相手をあの斉藤とか言う奴は……数秒だ」

「ランキング一位の藤咲司は?」

「映像はないが、バットで一撃らしい。と言っても、相手の動きに合わせて回り込んだりしながら近づくと言うから、数秒とはならないな。あと、トロール相手だと燃料まいて火を点けてと言う流れになるからもっとかかるらしい」

「ある程度離れた位置から数秒。それも、実際に攻撃……攻撃と呼べるかどうかよくわからんが、なにかをしている(・・・・・・・・)のは一秒?」

「ほぼ一瞬と言っていいでしょうね」


 何らかのスキル使用。対象を選んでいるのか、範囲を選んでいるのか、いずれにしても瞬時に攻撃対象を選択し、それほど経たずにモンスターが倒れているのは確かだ。

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