(10)
「で、これか……まったく……面倒だな」
最悪な空気を作りつつ、コアに触れるが……何も起こらない。
「あ?どうなってるんだこれは?!」
「え?あの……」
「なんだか声が聞こえたぞ!どういう意味だ!」
「「「へ?」」」
「聞こえなかったのか貴様ら!」
こいつらには聞こえていなかったのかと知事は憤慨する。コアに触れるたびにはっきりと「コアを獲得することができません」と聞こえるというのに。
「ええい!クソ!コアが獲得できん!」
司たちとこの場にいる二十名あまりの隊員たちは心の中でいい気味だと拍手喝采。もちろん表情には出さないが。
「どういうことだ、これは!」
その疑問に答えられる奴がここにいるわけないだろ、というのが全員の胸中だがそれを言ったらまた激昂しそうなので押し黙る。
「まったく……面倒……な……ご……ぐぁ……あ゛……」
「「「え?」」」
突如、知事の全身が黒い靄に覆われ、慌てて数歩進んで靄から出てきたときには全身が真っ黒に染まっていた。そして、ズルリズルリと顔の肉が崩れ落ち、下からのぞくのは白い骨ではなく、これもまた真っ黒に染まった骨。全身の肉という肉がズルズルと崩れ落ち、床に落ちる頃にはなぜかシュウシュウと蒸気になって消えていく。そして喉の辺りの肉が全て落ちてしまうと声も出なくなり、やがて着ていた服もボロボロになって崩れ落ちる。
そうしてそこにいたのは、先ほどまでいたボスより一回り小さく、身につけている物もないが、禍々しさでは引けを取らない真っ黒なスケルトンだった。
そしてそいつは、しばらくカタカタと震え――まるで歓喜に震えるようにも見えた――ゆっくりとその顔を上げると周囲を取り囲んでいる者へぐるりと視線を送る。骸骨の虚ろな眼窩にほんのり見える青白い光がなんともそれっぽいと思うが、どう見てもあれは敵。まさかのボスモンスター降臨という流れだろうか。
「クソ!全員構え!」
呆気にとられていた隊員たちが銃口を向けると、まるでそれを待っていたかのように一歩ずつ歩み出した。
「撃て!」
後ろにいる隊員たちが物陰に待避したのを見届けるや否や、進行方向側の隊員たちの十が一斉に火を吹く。絶え間ない銃声と硝煙に、薬莢の落ちる音が響き、弾丸が正確にその頭蓋、背骨、大腿に当たるのだが、全く効いていない。
「クソ!ダメか!」
おそらく、さっきのボスと同系統で聖女の浄化が特効なんだろうなあと司は漠然と考えたが、聖女降臨は明日にならないと使えない。だが、このままここで明日まで戦い続けるなんてのは無理な相談だろう。
「寿姉、行ける?」
「司ちゃんとならどこにだって行くわよ!」
はいはい、どこへ行くつもりなんでしょうね?
「成海さんは?」
「なんでも言って!」
うーん、この二人、聖女の姿を見てから明らかにおかしいというか……今はやめよう。
「作戦らしい作戦はない。至ってシンプルに」
「「うんうん」」
「俺と寿姉でぶん殴って外に放り投げて、成海さんの魔法で吹き飛ばす」
「いいわ」
「やってやる」
そのやりとりを見ていた奥澤が、すぐに指示を出す。
「五秒後……やってくれ」
「「「はい」」」
近くの隊員たちも頷いているが、この銃声の響く中で良く聞こえるもんだ。
「撃ち方やめ!」
「司ちゃん、いくよ!」
「おう!って……うわああああっ!」
もう少し詳細を詰めるべきだったと司は後悔した。まさか寿が司をつかんでモンスターの方に投げるなんて思ってもいなかったから……いや、そう言うこともあるかも、と思っていたけどまさか本当にやるとは。
寿は言うまでもなく、成海も魔法で何か出来そうだが、司は――いや、普通の人間は――放り投げられたら為す術は無い。ただそのまま飛んでいくだけ。
「ええい!……どりゃあああ!」
だが、いきなり人間が放り投げられてくると言うのはモンスター側も想定していなかったのか、顎が落ちるのではと言うくらいに口をポカンと開けて立ち止まってしまった。これはこれである意味チャンスと、金属バットを振りかぶり、投げられた勢いそのままに突っ込みながら振り抜いた。
バキッと背骨をたたき折られ、上下に分かれたモンスターが慌てたように手をジタバタさせるが時既に遅し。すぐあとを着いてきた寿がその頭をつかんだ。
「えいっと」
「じゃ、コイツも!」
寿が上半身をポイッと外へ投げるのに続いて、司も足をつかんで下半身を外へ放り投げる。ここまでお膳立てしたらあとは、
「成海!」
「出番です!」
「任せて!」
狙いは天守閣横、空中に放り投げられたボスモンスター。放つ魔法は、
「業火魔法レベル1、隕石投下!」
瞬時に空から燃える岩が降ってきて上半身を粉砕しながら地面にクレーターを作る。
「追加!氷雪魔法レベル1、氷塊!」
続けざまに放たれた魔法で生み出されたのは直径三メートルはありそうな氷の塊で、そのまま下半身側に激突、粉砕しながら地面に落下し、二つ目のクレーターを作った。
「やった!」
「倒したぞ!」
「すげえ!すげえぞ!」
隊員たちが大喜びする中、司はすぐに成海の元へ駆け寄って支える。
「うえええ……気持ち悪い」
「大丈夫ですか?」
「うう……」
どうにかぶっ倒れるのは回避したが、やはり一度に大量のMPを使うというのはキツいようだ。
「このステッキがあっても、MP五十くらい使うんだね、あれ」
「上位スキルでしたっけ?一番低い魔法でも気軽には使えないって事ですね」
色々とブーストされている成海ですらこの状態。普通の人が使うのはほぼ不可能だろうから、本当に魔法スキルは不遇スキルだろう。
「成海は大丈夫なの?」
「ええ……うん。ちょっと悪阻が」
寿が心配して声をかけたのに、場が凍り付いちゃったよ。
「成海さん、それやめてっていったよね?!二度目だからね!」
「てへ」
「てへじゃなくて!」
「司ちゃん……どういうこと?」
「何もしてないって!」
「それはこの前聞いたけど……やっぱり……」
「うぷ……お、男の子かな……うふふ」
「ちょっとおおおおお!」
結局、また、なぜか、司は正座させられ、一部の自衛隊員たちを仁王立ちで後ろに控えさせた寿に問い詰められたが、身に覚えのないことなど説明出来るはずもない。仕方がないのではっきりと言うしかないか……
「俺はまだ、そういうの……経験ないし」
それはそれで一部の隊員が快哉を叫んだ結果となった。どう言う意味で受け取っているんだそれは。
「で、終わったか?」
「なんとか」
「そうか。コアの方は……俺たちで誰か獲得出来ないか確認してくれと言うことになった」
「なるほど」
当初予定していた県知事が獲得出来ない。そこまではまだよかったが、なぜかモンスターに変貌し、襲いかかってきたというのは他の拠点では見られなかった現象で、市役所を確保している市長をこちらに向かわせるというは却下された。市長に同じ事が起きた場合、市役所がどうなるかわからないからだ。
「だが、これはこれでどうするか、悩ましいな」
ここにいる者は全員がそれなり以上の戦闘力を有しているものばかりになっているため、さっきのようなことが起きたとき、モンスターの強さが跳ね上がる可能性がある。自衛隊員なら銃器を取り上げれば良いかもしれないが、仮に司がモンスターになったら手がつけられないのではないか、と。
「でも、なるようにしかならないのでは?」
「そうなんだよな……うーん」
「なら、みんなで一斉に触ればいいんじゃない?」
「そうなるか」
「そうよねえ」
「「「え?」」」
「そう言えば、今までの拠点コアの件、ちゃんと話してなかったな」




