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  作者: ひじきとコロッケ
七月五日
152/176

(8)

 考えても仕方ないというか、下手に色々考えていると感づかれるだろう。こう言う事に鋭いからな、この人たちは。うん、二人だけの事じゃないからな。


「落ち着け……落ち着け……」

「司ちゃん、大丈夫?」

「え?ああ、うん。ちょっと緊張してる」

「肩の力抜いてリラックスよ」

「な、何ならマッサー「遠慮します」


 何をする気だ二人とも。


「中はきっともっとすごいんだろうなと思って」

「中?」

「うん。だから浄化を的確なタイミングで使って、とか色々考えちゃってさ」

「そう」

「司ちゃん、いつも言ってるでしょ」

「そうだな。何でもかんでも抱え込みすぎだよな。寿姉の言うとおり。こんなにいるんだ、助け合うべきだよな」


 高校までの間、寿が色々やらかした事の後始末に奔走していたのは俺なんだが、それは言わないでおこう。


「よし、行くぞ!」


 入り口を入るとすぐに先行する隊員たちが銃を構えて周囲を確認。天守閣内部には黒い(もや)はないが、モンスターはきっといる。


「右、よし」

「左、よし」


 天守閣は観光用に整備されており、案内図の他、順路も示されている。


「階段方向へ」

「注意しろ」


 隊員たちが小さく声を掛け合いながら先行し、そのあとを司たちが追う。


「待て……」


 階段まであと少しのところで足を止める。


「では……浄化」


 階段ホールへ向けて浄化。上がどこまで浄化されるかわからないが、二階くらいまでは届くだろう。

 さすがに天守閣内では司の浄化で盛り上がらない程度の常識は持ち合わせており、浄化の間、司が不意の攻撃を受けないように周囲を警戒。浄化の光が収まるとすぐに階段ホールを確認し、ハンドサインで進んでいく。


「ぶー、役に立てない」

「あははは……」


 天守閣に入ると同時に寿の探知にノイズが入るようになり、どこに敵がいるか目視以外の方法が無くなった。それだけでもずいぶん機嫌を悪くしているのだが、


「司ちゃんを抱えて飛べたら階段ホールも一気に登れるのに」


 おい馬鹿やめろ。そんなことをされたら、もう色々と……うん、よくわからなくなってきた。

 それでも私が、と先行して進もうとする寿を引き留める。


「あのボスのあの黒い靄、たくさん出せなくても寿姉を吹き飛ばすくらいの奴がいつでも出せるとかだったらどうなる?」

「う」

「さすがに七階の高さから墜落してきたら受け止められる自信はないぞ?」

「受け止めようとはしてくれるんだ?」

「無理っぽいからやらないぞ」

「ひどいよ!」

「ひどくない」


 緊張感の無い姉弟漫才に、「少しだけ肩の力が抜けたな」と周りが感謝しながら少しずつ進んでいく。


「浄化!」


 一階分進むごとに浄化。上の階くらいまではどうにか届くようだな。外では結構上まで届いていたハズなんだが、ボスエリア補正みたいなもんか?


「二階、クリア!」

「ヨシ、行け」


 妙なポーズを取りながら隊員たちが進んでいき、そのあとを追う。


「次……浄化!」


 一階進むごとに上の階に向けて浄化を行う。足元に気をつけながら。万が一にもひっくり返ったりした日にはそのまま引きこもりになる自信がある。

 どうやら天守閣にいるのはアンデッド系だけらしく、浄化だけでどんどん進める。一応念のために各階ごとに隊員たちが展開して確認しているが、今のところこちら側の被害はゼロ。


「順調だな」

「このまま七階にいるらしいボスまで行きましょう」

「ああ。まだ行けるか?」

「MPなら問題はありません」


 心は大分削られてますが。


「六階、クリア!」

「では七階に向けて……浄化!」


 光がおさまるとすぐに隊員が階段を登ってい「うわああああ!」

 ダダダダダ……と銃声が響く。どうやら浄化で倒せなかったモンスターがいたようだ。


「クソッ!このっ!このっ!」

「急げ!」

「何よ?どうなってんの?」


 寿もすぐにジェットを吹かして上に向かう。


「司ちゃん、浄化!」

「お……おう!浄化!」


 言われるままに使ってみたが、


「ダメ、イマイチ効いてない!」

「マジか?!」


 と言うことは範囲浄化では無く、単体浄化が必要かと、階段を駆け上がる。


「あっ」

「ん?」

「ななななな……何でも無いよっ!」


 後ろからついてくる成海が妙なリアクションだが、とにかく今は急いで登ろう。

 そして、七階に上がり見たものは、立派な動く甲冑。どう見てもアンデッド系なのだが、その(たたず)まい、(まと)うオーラは明らかに今までに見てきたスケルトンだのゾンビだのとは格が違う。そんな甲冑が椅子に腰掛けたまま、采配と呼ばれる房のようなモノがついた棒を一振りすると、周囲に粗末な甲冑を着込んだスケルトンが現れ、すぐに向かってくる。配下のモンスター召喚はボスの定番だろうが、召喚の間隔が短い上に数が多すぎる。


「撃て!撃て!」

「司ちゃん!浄化!」

「了解!浄化!」


 範囲浄化をかけると、周りに湧いていたスケルトンは一瞬で崩れ去るが、ボスは僅かに身じろぎし、ホコリのようなものが舞い上がる程度。そしてすぐに召喚されるスケルトンたち。


「クソッ!撃て撃て!撃ちまくれ!」」

「ア○ム!ア○ム!弾持ってこい!早く!」


あまり緊張感のなさそうなやりとりが聞こえるが、撃っても撃ってもキリがない。


「司ちゃん!どうしよう?」

「せ、聖女ぱわーで何とかして!」


 寿に言われるまでも無い。聖女ぱわーとか意味わからんけど。範囲浄化で効果が薄いなら単体浄化をするしかないか。だが、単体と言うことはその間はスケルトンの攻撃を(しの)いでもらわなければならない。


「ちょっと持ちこたえて!」

「クソッ!このっ!このっ!」

「おりゃああああ!」


 ちょっとダメかも……仕方ない、やるか。


「みんな、がんばって♪」

「「「「おう!」」」」

「「「「やるぞ!」」」」

「「「「任せろ!」」」」


 目に見えて命中精度が上がった件。これ、どうしよう……これ以上、考えないことにしよう。


「浄化……単体浄化……目標を選べ、と」


 視界に現れたレティクルをボスにあわせ、セット。


「浄……うわっとぉ……」


 スキルを発動させようとした途端、片足でクルリと一回転。左手は肘を曲げて耳の後ろへ。右手は人差し指と親指をくっつけてボスモンスターを指す。そして、シャランという音と共に指をパチンと鳴らし、そのまま人差し指でボスモンスターを指すと、口が勝手に動いた。


「滅びなさい!」


 何か強い衝撃を受けたかのようにボスモンスターが僅かに仰け反るが、どうにか耐えた。


「司ちゃん、もう一回!」

「い……言われずとも」


 寿が隊員たちと共に空の薬莢をばら撒きながら連続攻撃を指示する。


「成海は撮影しながら魔法を!」

「任せて!」


 こちらもこちらでズドンズドンと爆音をさせながらモンスターを吹き飛ばしているが、右手に魔法のステッキ、左手にスマホ。あとでスマホは破壊しよう。


「浄化!」


 さっきとは左右の手が入れ替わった動作と共に。


「滅びよ!」

「司ちゃん、効いてる!追撃よ!」

「わかった……浄化!」


 今度は両手を大きく広げ、パチンと胸の前でたたき合わせる。


「塵は塵に、灰は灰に!」

「司ちゃん!」

「最っ高!」




 単体浄化十回ほどでボスモンスターは崩れ落ち、灰のようになって消えていった。


「か、勝った……」

「やったね、司ちゃん!」


 寿が飛びついてくるのを受け止める。まあ、言いたいことは色々あるが、今はボスを倒せたのを素直に喜ぼう。


「つーかーさ!つーかーさ!ハイ!」

「「「「つーかーさ!つーかーさ!」」」」


 またコールが始まった。


「司ちゃん!」

「ん?」

「胴上げしてあげよっか!」

「え?うわっと、いいってば!」

「遠慮しなくてもいいって!」

「いや、ホント、いいから!うん」

「そう?」


 胴上げダメ、絶対。

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