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  作者: ひじきとコロッケ
七月五日
150/176

(6)

  ◇  ◇  ◇




 全員で隊列を組んで――と言っても、司たちは隊列の組み方もよくわからないので適当に歩いているだけだが――正門から堂々と入っていく。どうせこの人数、隠れるだけ無駄だし、そもそもモンスター相手に隠れて進む戦法が通用するとは思えない。何しろ、正門をくぐった先にはモンスターの群れが待ち構えているわけだし。


「全員、構えろ!」


 号令と共に先頭を進んでいた一班、二班が横二列に並び、銃を構える。司と成海はその後方へ下がり、寿はすぐに空へ。


「撃て!」


 一斉に始まる銃撃の轟音に司と成海は耳を塞ぎながらうずくまる。至近距離で自動小銃が斉射されるなど、普通の国民は経験しないことだから仕方ない。

 一方で、寿は上空から色々やっている。そう、色々(・・)だ。


「撃ち方やめ!」


 モンスターの死体が山になって射線が通らなくなると、攻撃を一旦止める。しかし、銃声が止まっても、寿はその先にいるモンスターへの攻撃をやめない。彼女にとって、地面にある障害物は射線を妨げる要因にはならないからだ。


「寿姉……手榴弾とか持ってたのか」

「うん、何かね、駐屯地で「良かったらどうぞ」ってもらってきたって」

「お中元か!」


 その他にも使えそうにないほど大破した自動車とか、そこから漏れ出ているガソリンに火が点くことを期待した火炎瓶とかが投下されている。


「アレ、某技術班長の「こんなこともあろうかと」に憧れて作っておいたんだって」

「本編では一度も言ってないらしいですけど」

「「「え?!」」」


 自衛隊の皆さんも驚いていた。え?常識じゃなかったのか?

 そうこうしているうちに見える範囲のモンスターが片付いたようで、向こうでブンブン手を振っているので急いで進む。急がないと「遅い!」とか言って司に飛びつきそうなので。


「モンスターはアンデッド系が大半みたいですね」

「スケルトン系が多いみたいだな」

「鎧着て、槍とか刀持ってて……和風ゲームっぽいね」

「だな」


 アンデッド系モンスターを倒した後に残っているのは死体なんだろうか?というくだらないことを話しながら次の門まであと半分くらいのところまで進む頃、新たなモンスターたちが出てきた。


「魔法、試してみる」

「おう」

「火球!」


 一応は使っておこうとステッキをそれっぽく振りながら放ってみた結果は、


「うっきゃあああ!」

「え?」


 寿が慌てて逃げてくるほどの大爆発を起こした。そしてその威力に撃った本人もドン引きしている。


「成海さん、今の……」

「うん、よくわからないけど、絶対コレ(・・)のせいだと思う」


 通常なら火球のMP消費は25。人に言えない色々(・・)が付いたお陰で実際の消費量は5になっていたのだが、今のMP消費は1。そして、想定の倍以上の威力。撃った本人がドン引きして涙目になってるレベルである。

 この魔法のステッキを手にする前でも称号(・・)の効果なのか威力が上がっていたのに、それがさらに上乗せされるとは。伝説の(・・・)魔法のステッキ、おそるべし。



「ま、まあ……アレだ。橋とか門が無事で良かったな」

「で、ですよね」

「渡れなくなったら困るもんな」

「門だけに」


 乾いた笑いとフォローが心に刺さる。

 その一方で一部の隊員からは小さなガッツポーズとひそひそ声が。


「ヨシ!」

「やっぱり俺たちの!」

「成美ちゃん、最高!」


 もうやめてあげて、成海(わたし)のライフはゼロよ、と心の中で呟きながら成海は思う。コレ、絶対にこのスイッチを押したらダメな奴だわ、と。


「持ってるだけでコレってことは……もしかして」

「対象に向けると威力が上がったりして」

「それは無い……」


 と願いたい、と心の中で続けながら、一応撃ってみた。

 後悔した。


「威力の調整が厳しいかも」

「MP消費が少なくなってるだけでもいいと思いましょう!」


 普通なら連射しづらい魔法がポンポン撃てるだけでも儲けものというのはわかるが、撃つ度に心が削られていくのは連射出来ると言えるのだろうか?




 こうして少々想定外のことはあったものの、特に問題は無いと判断して進んでいく。

 門をくぐるときに、モンスターが狭間から攻撃してくるかと思ったがそこまでの知性は無いらしく、普通に進んでいけるだけでなく、隠れて不意討ちと言うこともなく正々堂々と出てくるので戦いやすいと言えば戦いやすい。

 そこに上空からの寿のフォローが入ればなおさらだ。


「出てくるのはアンデッドばっかだな」

「大半がスケルトン、ゾンビっぽいのが少々ね」

「スケルトンの背骨を的確に撃ち抜いているとか、すごい精度だな」


 適当に撃っていたら骨に当たること無く、隙間を抜けていきそうなのだが、ほとんど外すこと無く背骨、それも腰からみぞおちの間の背骨を撃ち抜いていく。そしてそんな部分を撃ち抜かれてしまうと、いくら命無きアンデッドと言えど、まともに動くことは出来なくなり、追加で撃たれた弾丸が頭蓋骨と骨盤を真っ二つに割ると何も出来なくなる。


「無駄弾は一発でも少なく!」

「国民の血税は一円たりとも無駄にするな!」

「一発外すごとに晩飯のおかずが一品減ると思え!」


 妙なかけ声が飛び交っている件。


「自衛隊、すげえな」

「うん」


 適当に「最後に当たって倒せればいいのよ」という方針で上から攻撃をしている寿とは真逆の精神に、司と成海はちょっと引きながらあとをついて行く。


「ん?」

「あれは」

「来たか」


 寿がブンブンと手を振ってこちらに合図しながら戻ってきたので、一旦攻撃を中止する。その後方に見えていた天守閣は既に見えなくなっている。


「黒い(もや)が来たな」


 天守閣全体が黒い靄に覆われ始め、さらにその靄がこちらへ向かって伸びてきている。まるで生き物のように。


「明らかにこっちが風上なのにな」

「それがわかっただけでも、収穫だ」


 そして、その靄に対抗できるかどうかを確認するために来たのだからと、司が前に出る。

 そして浄化を試す前に成海も前に出て靄に向けて魔法を放ってみた。


「火球!」


 着弾(?)と同時に派手な爆発。


「爆風で少し晴れたかな?」

「あくまでも少し、だな」


 火で靄が消えているのではなく、爆風で吹き飛ばしているだけのようで、効果ゼロでは無いが、連発して進むにはキツそうだ。


「「さ、司ちゃん!」」


 二人揃って何を期待してるんだよと言いたいくらい、キラキラとした目……いや、これはギラギラした目と言った方がいいな。


「じゃ、とりあえず試すだけ試す。ダメそうなら撤退」

「ああ。当初の予定通り……うまく行くことを祈ってる」

「「司ちゃん、早く!早く!」」


 コイツら、絶対目的が変わってるだろと、わかりきってたことを思いながら、それでも素直にスキルを使う。


「聖女降臨」


 すると司にしか見えない確認メッセージが目の前に表示された。


「えーと……は?何だこれ?」


 内容を理解しようとするより先に、「どうやら目の前にメッセージが出ていてそれを読んでいるっぽい」と予想した寿が司の手を掴んでブンッと振った。


「司ちゃん、早く!」

「あ」


 書かれている内容を理解するより早く、手が「OK」に触れ、確認メッセージが消えた。


「げ」




 そばにいた自衛官の一人、松浦良夫はその時の様子をこう語る。


「光ったんです。信じられないと思うでしょうが、まぶしいくらいに」

「ええ、一瞬の出来事でした」

「誰に話したって信じてもらえないと思いますよ。その場にいた全員があっけにとられてましたからね」

バ○の通行人インタビュー風の引きをやってみたかっただけ

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