(4)
色々台無しだよ、と全員が突っ込みたいのを我慢している中、寿がフフン、と腰に手を当てて胸を張りながら告げた。
「魔法のステッキよ!」
「魔法のステッキ?」
「そうよ!」
そんなモンどこから持ってきた?ということは聞かない。
非常識が服着て空を飛んでいるような寿でも魔法のステッキを手に入れる機会などあるはずがない。そう、どう見てもアレはプラスチック製のおもちゃ。どこかのショッピングモールを丸ごと回収したときに紛れ込んでいた物だろう。ちょうど今放送されている――実際には六月以降の放送はないのだが――魔法少女ものアニメの主人公が、謎の生物から手に入れて使っているアレ。各部がパステルカラーで塗り分けられ、手元のスイッチでカラフルに光って、変身シーンの音楽が流れるおもちゃ。と言っても、泉の精が引っ張り上げたのは金になっているので、造形しかわからないが。
「ええっと……コホン。あなたが落としたのはこの金の魔法のステッキですか?それともこの……よいしょ、銀の魔法のステッキですか?それともこの……っと、鉄の魔法のステッキですか?」
演出効果なのだろう、空から柔らかな光が降り注ぐ中、実に残念な三つの品が提示された。
金属バットなら、金銀鉄になっても見た目はそれなりだが、おもちゃの魔法のステッキだと、ゴテゴテとした不思議物体にしか見えない。
「えーと……どれでもないんだが」
ピク、と泉の精が肩をふるわせる。そりゃそうだ。前回と同じ流れになっているんだから。
「し、正直者のあなたには三つとも全部差し上げます」
押しつけられたが、ここで引いたら負けだ。
「だから、どれも違うんだってば」
「うう……またですかぁ」
「そう言われてもな」
せめてスイッチを押したら光るギミックだけでも生きていればなんとか、とは思うが、ただのモックアップになっているために、スイッチは押せない。
「あうう……仕方ないです。はいこれ」
「どうも」
見た目だけは元通り(?)のステッキを受け取る。
「あの?」
「え?あ……うん。えっと……わーい、うれしいなあ」
「よかったです」
司の返事は完全な棒読みだが、それでも泉の精にしてみれば確認出来たと言うことになるのだろう、ほっとした表情を見せた。
「それではこれで失礼します……その、出来ればもう呼ばないで欲しいんですが」
「それはちょっと約束出来ないな」
「そんなあ……」
チケットが出たら呼ぶし、と心の中で付け加えておく。声に出したら色々面倒くさそうなので言わないけど。
やがて泉が光り始め、泉の精がゆっくりと泉の中へ消えていく。そして泉が消えたら尋問、いや質問タイムだ。
「さて寿姉、これはどういうことなのか説明してくれるか?」
「いいわよ」
ごねるかと思ったら案外あっさりと。
「どうせ金や銀になっても、ついでに鉄になっても使えそうなものがないなら、伝説のアイテムになればいいじゃない?」
「かなり無茶苦茶な理屈だが、まあいいや。「伝説の」ってついたらきっとすごいだろうからな」
そう考える時点でずいぶん毒されている?大丈夫、生まれたときからの付き合いだから毒されているとか言う以前の話だ。
「で、私は世界一強い」
「そうだな」
物理的には。ぶっちゃけ、ここに来るまでの間でも寿の限界は全く見えていない。物理が通らない相手が出てこない限り、寿は無敵だろう、多分。
「それで、司ちゃんは伝説のバットがある」
「うん」
よくわからないが、すごいバットだよ。
「じゃあ成海は?」
「え?私?」
いきなり話を振られた成海はもちろんうろたえる。
「そう。何も無いでしょう?」
「いや、その……私は……魔法が色々使えるし」
人に言えない称号が色々あるけどねえと思いつつ、ポリポリ頬をかきながら答える。
「それよ!」
「はい?」
「魔法が使えるのに!」
「使えるのに?」
「華がないの!」
「華って……え?まさか」
「そうよ!成海魔法少女計画!私がプロデュースするわ!」
パキ……と、音がしそうなくらいに成海が固まり、その固まったままの手に伝説の魔法のステッキが握らされる。
「これがあれば!きっと!」
寿がグッと拳を握り、力説する。
「すっごいことが起きる気がするの!」
そうだよな……多分、魔法の威力が上がるとか、MP消費が抑えられるとかありそうだよな。それ以上のことも起きそうだよな。ま、処分先じゃない、使う人が決まったのはいいことだよな。
「じゃ、これは成海さんが持つと言うことで」
「ええ……」
私、魔法少女じゃなくて魔女なんだけど、とは言えない。言えば言ったでまた……うん。そうね、泉に放り込まれたのがホウキじゃなかったのは不幸中の幸いかしら?
まあ、振り回すだけなら……あ、ダメだ。ちょうど持ち手のあたりにスイッチがある。振り回したら、うっかり押しそう。で、押したら光るし音が出るし……さすがにそういう年齢じゃないし。使うのは抵抗があるなあ、と思っていたら双子がゴソゴソと内緒話をしている。
「いい?」
「いや、それ……」
「大丈夫だって」
「うーん」
「一回だけ、一回だけだから」
「……わかった。一回だけ……だぞ」
クルリと二人がこちらを振り向き、揃って目の前までやって来ると、スイッと同時に上目遣い。
「「成海はこれ、使ってくれないの?」」
秒で陥落した。
なお、司の自尊心はズタボロで、ガクリと膝をついて虚ろな目をしている。
「司ちゃん」
「何だよ……」
「今からそんなんじゃ、先が思いやられるわよ!」
その原因は誰なんですかねえ?
「えーと、少し……その、何だ、ちょっとあったが、まあそれはそれとしておこう。それでは今日の予定を改めて確認する」
全員が支度を調え、整列したところで奥澤が今日の予定を簡単に確認する。
このまますぐ側にある城へ向かう。城のボスモンスター攻略は可能なら、と言う程度で今日は下見、偵察と言った位置づけ。どんなモンスターがいるかを確認し、現状の装備で足りないようなら、駐屯地へ追加武装について連絡出来る程度の情報を集める。
そしてあの黒い靄について調査。恐らくボスモンスターが使う攻撃手段と思われるため、靄が出てくるかどうかはわからないが、もしも使われた場合には鑑定スキルのある隊員による確認を実施。どういった攻撃手段なのかを確認出来れば良し。そして、その靄に対して聖女降臨スキルで呼び出した聖女の浄化がどの程度効くのか確認。また、効果の有無にかかわらず、浄化が城にいるモンスターにも効くか、確認出来ればなお良い。
とは言え、優先すべきは全員の安全。何らかの事態により危険性が高いと判断した場合には速やかに撤退する。撤退の折には互いに協力し合うことも大事だが、まずは自分自身を優先。
バラバラになってしまった場合の第一集合先はここ。何らかの理由によりここに来られないという場合は、各自の判断で安全を確保しつつ、駐屯地へ帰還。安全側に振っていくという行動方針で締めくくると、全員が了解したと応える。
「では……出発だ」
と言うことで前回の答え
「オモチャの魔法のステッキ」
それはそれとして、作者としては司の将来が色々心配になってきました。




