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  作者: ひじきとコロッケ
七月四日
142/176

(10)

「鑑定スキル持ちが見たところ、アマルガムでした」

「アマルガム?」

「ご存じない?」

「いや、知ってるが……え?なんで?」

「ちなみに、金のアマルガムだそうです」

「はあ?」


 水銀は一部の金属と結合しやすく、簡単に合金ができるという性質がある。その合金を一般的にアマルガムと呼ぶのだが、金アマルガムと言うことは金と水銀の合金と言うことになる。


「金もそうだが……水銀はどこから来たんだ?」


 水銀は何かと毒性のある金属ではあるが、物理的な破壊力を重視する銃弾に使用する意味は無い。オマケに金を使い捨ての銃弾に使うなど、どこの大富豪だよ、と言う話。言うまでも無く、国民の税金で購入する銃弾に金が使われるなんてことは無いし、水銀をわざわざ銃弾に詰めたりもしない。


「しかも……細かく破裂しているような?」

「そうなんですよね。変形と言うよりも、細かい爆発が無数にあったみたいな感じにも見えます」

「これ、もう少し回収できるか?」

「あの瓦礫の中から探せと」

「これ……あの三人の中の一番でかい奴、あいつのスキルによるものだと俺は思う」

「それは俺もそう思います」

「これが何なのか、知っておくべきだと思わないか?」

「確かに」

「出来るだけ回収して駐屯地へ送る。なんとか調べてもらおう」

「わかりました」


 日が落ちてしまうと瓦礫の中から銃弾の残骸を探すのは難しくなる。隊員達は負傷者の手当と分担して作業に取りかかり始めた。


「奥澤さん、これを」

「おう、今行く」

「その次はコレを」

「いや、俺に全部回すなよ」


 同時進行で今夜過ごす場所の確保も進めよう。何だかワイワイやっているあっちの三人は……ま、いいか。




「で、撃った結果がこれだ」

「へえ」

「ふーん」


 どうにか誤解(?)が解けて司が解放されたところで呼び寄せて銃弾を見せても、だから何だ、と言う反応がかえってくるのも仕方ない。ほとんどの日本人にとって銃というのは身近にある物ではないし、回収された銃弾の実物を見る機会なんてのもほとんど無いから、これの異常性に気づけという方が無理だろう。


「ああ、あまり触らないでくれ。ボロボロと崩れやすいんだ」


 一応、直接触れないようにビニールに入れているが、できる限り形を保持した状態で調査にかけたいと告げて続ける。


「銃弾ってのはな……弾頭、つまり先端の方は鉛で出来ている」

「鉛玉を食らわせてやる、とかそういう」

「そう、その認識でいい」


 このくらいは一般的な知識の範囲か。


「で、問題は……これが鉛じゃないってことだな」

「え?」

「もしかして銀の弾丸とか」

「寿姉、ファンタジーの見過ぎ」

「えー」

「そうですよ。最近は銀よりも聖銀です」

「それはさらに(こじ)らせすぎ」


 普段からどういう物に接しているか、明らかになっていく瞬間である。


「このボロボロに崩れている部分だが……金アマルガムだ」

「金?」

「アマルガム?」

「何それ?」


 聞き慣れない単語に三人が首をかしげると、横からフォローが入った。


「金と水銀の合金です」

「金と水銀?」

「銃弾って結構高いのかなと思ったけど、金を使うって、結構高級品を使った感じ?」

「それより水銀って……絶対殺すぞって意志を感じるわ」


 奥澤はその感想に頷きながら三人に右手に持った物を見せる。


「これが撃つ前の銃弾だけど、金も水銀も入ってないからな」

「え?」

「じゃ、どこから?」

「寿姉、何かばらまいた?」

「え?私?」

「だいたいそう言うのって、寿姉かなと」

「司ちゃんひどい!」


 姉弟のやりとりを見ていて思う。この姉、いつも何かやらかしてんのかと。


「今のところ見つかったのは三発だが、三発とも同じような状態になっている。多分、他の銃弾も同じだろうな」

「へえ」

「で、それが……ん?」

「あ」

「そうか」


 どうやら気づいたか。


「どこから金と水銀を持ってきた?って話ですか」

「そう」


 金も水銀も特段珍しい金属というわけではない。

 電子機器には電気抵抗の少ない金はよく使われているし、水銀も蛍光灯や電池などで使われていることもある。だからこの崩れ落ちた建物のどこかにあってもおかしくない。だが、問題はこの崩れ落ちた建物のどこかに当たったわけでもなさそうな銃弾の先端部分が金と水銀になっているということ。


「それがあいつのスキルによるものだという可能性が極めて高い、と」

「そうなんだが……何だろうな」


 考え込み始めたところで、寿が「そう言えば」と声を上げた。


「どうした?」

「名前!名前よ!」

「へ?」

「あの三人の名前、わかったのよ!」

「探知スキル!」

「そう!」

「名前が確認できていたか」

「はい」

「探知で捉えつつ、目視もすれば探知スキルは名前までわかるって、便利すぎるスキルだな」

「えっへん!」

「いや、寿姉がすごいんじゃなくて、探知スキルがすごいだけなんだけど」

「う……それでも探知スキルをゲットしていた私、すごい!」

「はいはい」


 ちなみに成海も追跡者スキルで確認できていたのだが、直後の瞬間移動による不調ですっかりそのことを忘れていたのだが、あえて何も言わないことにした。また変な方向に話がそれていきそうだったので。


「名前がわかれば、素性がわかる。多分」

「え?でも同姓同名なんていくらでも」

「確かによくある名前だな。だが……三人の組み合わせだ」


 見た限り、三人は互いに協力し合っていたようだ。つまり、六月より前からの付き合いの可能性も高い。生まれ育ったところが近いとか、住んでいるところが近いとか、学校職場が同じとか、そうした接点も含めて調べ上げれば、個人の特定をするなど容易(たやす)い。


「個人情報保護法って」

「今は機能してないな」

「ですよね……」


 このご時世、情報漏洩で騒がれたから何だというのだ、というのが政府のスタンスらしいぞ、と奥澤が付け加えた。


「見た感じ、荒事に慣れてるような感じだったからな。それこそ逮捕歴とかあるかも知れん」

「だとしたら?」

「こっちも躊躇(ためら)う必要がなくなる」

「うわ」


 発砲許可が出ていると言っても、本来なら守るべき国民に銃を向けるのは抵抗がある。だが、それが犯罪者相手なら少しは、というやや後ろ向きな感情ではある。


「そもそもさっき、躊躇わずに撃ってましたよね?」

「俺は最初からそのつもり(・・・・・)でいたからな」


 頼もしい限りだな。

 目的地である城が近いため、これ以上の移動はしないこととし、隊員達が手分けしてキャンプの準備を始める。

 一応、周囲にいるボスを寿と数名の隊員で狩りに行って安全確保。そしてあの三人やモンスターが近づいたときにすぐにわかるように赤外線センサーや、ワイヤートラップを張り巡らせていく。

 ワイヤーも見えにくい色の釣り糸を交ぜたり、いろいろな高さにしたりして、気付かれにくく、避けにくいようにして簡単に突破できないようにしておけば、気配を消して探知スキルからも隠れられるようなスキルであっても、きっと引っかかるだろう。


「で、君たちのためのテントは一つしか用意できないのだが……いい、よな?」

「ええ、構いませ「問題ありすぎだわ!」


 司の返答に寿が思い切りかぶせた。


「司ちゃんと成海が一つ屋根の下なんて!」

「いや、俺は自衛隊員さん達の方へ行こうかと」

「それはダメ!」

「何でだよ」

「色々よ!色々!」


 意味がわからん。


「ま、こうすれば解決だろ」


 キャンピングカーを出せるほどの広さはないが、ホームセンターで回収してきたワンタッチで広がるテントを出して並べる。


「これにそれぞれ入れば万事解決」

「ダメよ!」

「何でだよ」

「絶対に成海が夜這いをかけるわ」

「かけませんってば!」

「ほら、そう言ってるし」

「司ちゃん、甘いわ」


 寿がガシッと司の肩をつかんで言う。


「アレは既成事実を作ろうとしてる目よ」

既成事実とは……

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっと、斉藤の最強スキルのタネがちょっと割れてしまったか!? 成海ちゃん、原初の魔女なんだからグイグイいっちゃえ!!
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