(9)
◇ ◇ ◇
(いきなり撃ってきやがった!)
そういうパターンも予想はしていたが、まさか自衛隊員が国民に向けて躊躇せずに銃をぶっぱなすかね。
「ったく、教育がなってねえ……ぜっ!」
だが、予想していたと言うことは対処の準備も出来ていたと言うこと。中井に抱えられて飛び出していく中、こちらに向けて放たれた銃弾は……
「失せろ」
速度が速すぎて全て消すのは無理だったが、弾道を逸らすことには成功。何が来るかわかっていればなんとでもなる。精密で強力なスキルだと改めて評価を上げつつ、地上への着地の衝撃に備える。
「アイテムボックス!」
中井が少し下に車を出し、ダンッとその上に飛び乗る。そしてすぐにまた跳んで、車を出して足場に。四階の高さからの落下も、こうして速度を殺していけば安全に下りられるし、何より空から降ってくる瓦礫に車も加えれば、自衛隊員たちがこちらに対応するのも難しくなるだろう。
「ラスト!地面!」
「おう!」
距離も稼ぎながらの跳躍を繰り返すこと数回。
「っくああああっ!」
「ふぐぅ……」
「んぐ!」
舌を噛まないようにと口を閉じていたが、結構な衝撃に思わず声が漏れる。
「うおおおおっ!」
なんとか衝撃に耐えきった中井が一気に走り出す。ビルが崩壊するという状況が目の前にあるために自衛隊員たちの対応も一瞬遅れ、逃走を止めることは出来ず。
「逃げきってやらああああ!」
「いいぞ!行け!行け!」
「ひゃっほう!」
◇ ◇ ◇
「っと、危ないっ!」
寿はというと、落ちてくる天井から周囲の自衛隊員達を守るべく動き出していた。本当なら司だけ連れて逃げようと思っていたのだけれど、成海に先を越されたので、せめて皆を守って司に自慢しつつ褒めさせようという下心が本能的に働いて。
奥澤は自分が撃った弾丸がどうなったかを詳細に確認するだけの余裕はなかったが、当たらなかったことだけははっきりとわかった。あれだけ撃って、一発も当たらないとは。
だが、悔しがるとかそういう余裕はない。ビル全体が崩壊し始めたのだ。あの銃弾を回収出来れば謎が解けるかも知れない。そのためには何とかしてここを生き延びてやる。
◇ ◇ ◇
「はあっ、はあっ……はあっ」
「だらしねえぞ、中井」
どうにか逃げ切った、と言えそうな距離を駆け抜けたところで中井が力尽きて倒れた。
「人間二人抱えて四階から飛び降りて全力疾走してみてから言ってくれ」
「んー、今んとこそういう予定はないな」
会話を成立させてくれと、心の中で毒づきながら周囲を確認しようとしたらズカズカと斉藤が近づいてきた。
「もう少しあのビルから離れるぞ」
「ああ……って、うわっ!」
ノロノロと立ち上がろうとしたのを斉藤がひょいと担ぎ上げる。
「さっさと行くぞ」
「お、おう」
こう言うときの面倒見の良さがあるから、長い付き合いをしているんだよな、と思う。
◇ ◇ ◇
「くっそ、やられたな」
「司くん……どうする?追いかける?」
「いや、やめておこう」
成海の瞬間移動で安全に脱出できたが、後ろではビルが崩壊している真っ最中だし、成海は成海で顔色が悪い。MPの使いすぎと言うより、瞬間移動で誰かと一緒に移動するというのがダメなようで、フラフラと座り込んでしまった。
この状態で追いかけられるのか?聞くまでも無いだろう。
「とりあえず、皆の様子を」
「うん……うえっ」
「……そこで休んでて……ってわけには行かないか」
逃げていった三人がいきなり戻ってきたりしたらマズいので、置いていくわけには行かないから、どうにか連れて行く。ビルの所まで戻ってみると、ほぼ完全に崩れてしまった中に隊員達がいるのは明らかで、外を囲んでいた者たちが瓦礫をどうにかしようと動き始めていた。
「俺も手伝いま……ああ、要らないかな?」
「え?」
「でも、離れた方がいいかも」
「は?」
「こっちへ」
瓦礫の山に近づこうとしていた隊員を呼んで距離を取るのと、瓦礫の一部が吹き飛ばされるのはほぼ同時だった。
「破片が降ってくる!逃げて!」
「うわっと!」
「おっと!」
「こっち来んな!」
周囲が大騒ぎになる中、その原因が瓦礫の山から顔を出した。
「ふう……脱出成功。司ちゃんは無事ね?」
「おう……お疲れ」
あの短い時間の間にどうにか集まったところを寿が守った……と言うか、落ちてきた天井を支え、落ち着いたところで支えていた物を放り投げた。それだけ。
雑と言えばこれ以上無いくらいに雑な対応ではあるが、同時にこれ以上無いくらいの力業のおかげで負傷者こそいるものの死者はゼロ。結果としては十分すぎるだろう。
「さすが寿姉!」
「ふふん!もーっと褒めてもいいのよ!」
負傷者の手当が始まったが、寿の関心はそこには無い。それどころか不機嫌を絵に描いたような表情、いや般若か?
「やあ……すごいです……ホント……うぇっぷ」
「司ちゃん」
「ん?」
「なんで……なんでお姫様抱っこ!」
「いや、その……」
肩を貸そうとしたら、「抱っこ」を要求され、仕方なく……なのだが……正直に言って色々とけむに巻くしかないか。
「見ての通り、脱出で使ったスキルの影響が」
「スキル?」
「いきなり消えたろ?瞬間移動って奴」
「……それ、私たちも連れて行って欲しかったんだけど?」
「一人連れて移動するだけでこれだからな。それ以上は結構キツいと思う」
「へ?」
地面に下ろした成海の顔色の悪さにさすがに寿も少し慌てる。
「だ、大丈夫?」
「うん……ただの悪阻だから」
「「え?」」
ちょっと待て!
「その……出来ちゃったみたい」
「司ちゃん!」
「何もしてねえよ!」
いかに自分が手を出していないかという、他人が聞いていたら「ヘタレ」と言われてもおかしくないことを力説して説得にかかる……おい、頼むからそこで座り込んでないでしっかり説明……説明させたらそれはそれでまたこじれそうだな!どうすんだよこれ!
「奥澤さん、これを……ってどうしたんですか?」
「ん?ああ……その……アイツら何やってんだ?ってな」
奥澤が指した先では、司が正座をし、その正面で寿が何かまくし立て、その横で成海が両手を頬にそえてニヤニヤしている。
「あの正座、慣れてる感じですね」
「ああ言うのには慣れたくないものだな」
「同感です」
「で、何だ?」
周りで数名が、羨ましそうにしているのは見なかったことにして、先を促す。
「はい。コレが見つかりました」
「コレ……え?何コレ?」
「あのとき引き金を引けていたのは奥澤さんだけですから、この銃弾は奥澤さんが撃った物ですよね?」
「俺が撃ったのは確かだよ?それは認める。だが、コレはなんだ?」
奥澤が使用した銃は、ごく普通の鉛の銃弾。標的に命中すると、鉛特有の柔らかさで変形し、貫通する際に与えるダメージを増やすという特性がある。だからこうして撃った銃弾を回収したときに原形をとどめていないのは不思議でも何でもない。
「何だ……これ」
通常、こうして回収された銃弾は潰れているのが普通なのだが、ビニールに入ったそれは先端がボロボロに崩れたようになっている。思わず確認しようと袋を開けようとしたら止められた。
「触らない方がいいです」
「え?」
次回、どんなスキルかほんのちょっぴりわかる……かな




