(6)
◇ ◇ ◇
『同行者、萩原一彦が即死性スキルの対象となりました。抵抗に成功しました』
「は?」
まだ日が沈むまでに少し時間があるが、目的の城に近く、これだけの人数がまとまって夜を明かせそうな場所として図書館を利用する予定なので、そろそろ移動しようかと言うタイミングで、アナウンスがあった。
『同行者、菊地泰弘が即死性スキルの対象となりました。抵抗に成功しました』
「え?何これ?え?」
「どうしたの?」
「何かあった?」
「いや……その、えっと……」
もしかして、俺にだけ聞こえている?慌ててステータスを開き、同行者を確認。アナウンスは続いており、同行者の一覧の中の名前が次々読み上げられる。
「奥澤さん!」
「どうした?」
「えっと、萩原一彦さんって、今どこに?」
「へ?」
「七班です。今は残党狩りであっちの方へ」
「菊地泰弘さんは?」
「六班。七班と一緒に残党狩りに」
「じゃあ……」
アナウンスで読み上げられる名前は全て六班か七班のみ。
「マズいぞ……六班と七班が……攻撃されている!」
「え?」
「同行者、誰某が即死性スキルの対象となりました。抵抗に成功しました……というアナウンスが延々と」
「俺たちには聞こえないな」
「私たちも」
「聞こえているのは多分俺だけ?多分、俺が全員を引率している立場だからでしょう。もしかしたら本人にも聞こえているかも知れないけど」
「即死性スキル……まさか?」
「可能性はありますね」
「クソッ、この周囲はドローンで監視出来ていない!」
判断の速い数名の隊員が手持ちのドローンを出し、周囲の警戒のために飛ばし始めている。前と同じように撃ち落とされる可能性も高いだろうが、飛ばさないよりもマシだ。撃ち落とされたなら、いると言うことなのだから。
「司ちゃん、周りには私たち以外の人はいないよ?」
「隠れている可能性がある」
「ん?私の探知、隠れていても見つけると思うんだけど」
「えーと……物陰に隠れていても見つけるだろうけど、そういう探知から隠れるスキルがあるかも知れない」
「あ、そうか」
ネット掲示板ではそういうスキルについて情報があったような?今は調べてる余裕はない。今のところモンスターが使ってくるケースがないのが救いだろうか?
「となると、今までも近くにいたかも知れないと?」
「多分……確証はありませんけどね」
「だが、なぜ今になってそんな……即死性スキルとか言うのを使ってきたんだ?」
「スキルの使用に何か前提があったのかも知れませんね」
「……とにかく六班七班のところに行ってみよう」
「はい!」
とは言え、全員が動く必要は無い。五班だけを動かし、残りはこのまま待機。また、寿と司は動くか、成海は残す。物理攻撃はともかく魔法攻撃、すなわち遠距離攻撃としては他の追随を許さないレベルだから固定砲台として残ってもらうことにした。
「全員周囲の警戒を厳に!」
「我らの魔女様に敬礼!」
「ドローン、四方に飛ばせ!」
「へへっ、俺たちの魔女様には指一本触れさせないぜ!」
「銃器使用許可!発砲許可だ!」
「目となり、盾となるぞ!」
「駐屯地へ連絡入れろ!」
うん、数名おかしい声が聞こえるが……聞こえなかったことにしよう。そして、司が黒歴史ノートを確認しないことを成海は祈ることにした。
◇ ◇ ◇
「ここを離れるぞ」
「え?」
「何で?」
拠点を確保したばかりですぐに移動というのはちょっと、と二人が抗議するが、斉藤は既に誤魔化す口実を用意している。
「雨、振りそうだろ?」
「あ」
「マジ?」
「あと、少しヤバいことになった」
「ヤバい?」
「詳しくはあとだ」
少しリスクがあるが「距離を取る方が大事だ」と、あえて大通りを渡り、裁判所裏手にある建物へ入る。
「ここ何?」
「弁護士会館って書いてあったな」
「何それ?」
「知らん」
普通の人にとってはもちろん、少々素行に問題があるものの、警察の世話になるようなことまではしてこなかった彼らにとってあまり縁の無い場所である。
「ここらでいいか」
会議室っぽい部屋に入り、内側からバリケードを組む。あとは……
「出来るか?」
「任せて……迷彩!」
落合が壁に両手を突いてスキルを使うと、ドアの廊下側が何もない壁に変化する。周りの風景をコピーし、再現してかぶせてみせるだけ、司の偽装スキルの風景版のようなスキル。会議室しかないようなフロアの廊下なんていう、これと言った特徴の無い壁をコピーされたら、この建物の構造を知らない者にドアが気付かれることはまずないだろう。
「で、何があった?」
「俺がわかったことだけしか言えないんだが……多分気付かれた」
「え?」
「向こうが俺たちのことに気付いたって言ったんだ」
「俺の隠蔽スキル、見破られたってことか?」
「わからん。だが、あの拠点から見えるマップで、こちらに向かってくるのが確認出来た」
「単純にあたしらを保護しようとか、そう言うんじゃ無いの?」
「それは俺も思ったんだが……敵意を感じた」
「敵意?」
「ああ、マップ表示上、敵対していると表示されていた」
もちろん嘘であるが、マップが二人に見えないからなんとでも言える。
「でも、一体何でそんなことに……ドローンで見張られてた?」
「それは無いだろ。近くを飛んでた様子は無いし」
「じゃあ何で?」
「わからん」
「ねえ、もしかして」
「ん?」
「あたしらをモンスターと勘違いしたとか?」
この流れ、いただいておこう。
「それだ!中井!お前の隠蔽スキル、もしかしたら周りからはモンスターがいるぞって見えるのかも!」
「え?マジ?」
誰も確認していないからなんとでも言える。
「だとしたら、ここに隠れてるしかないね」
「そうだなあ……モンスターじゃありません!って出て行っても、人間に化けたモンスターだ!って撃たれちゃたまらんよな」
「誤解を解くってのはむずかしいからな」
誤解も何もないのだが、乗るしかない、この流れに。
◇ ◇ ◇
「全員無事か?!」
「はい」
無線で確認はしておいたが、それでも直接確認せずにはいられない。
「それにしても、何があったんですか?」
「モンスターなら大したことなく倒せましたよ?」
「残りがいないか、捜索中ですが」
六班七班の彼らにしてみれば、いきなり「全員無事か?今すぐそちらへ行くから待機しろ!」と無線で怒鳴られ、奥澤を始めとする全員が心配そうにやって来たという状況は意味がわからない。
「寿姉、どう?」
「近くにモンスターはいないね。あっちにボスっぽいのがいるけど……」
「そうか」
百五十メートルほど離れているらしいからいきなり襲われることはないだろう。
「うーん……司ちゃん」
「ん?」
「一応念のため確認だけど、本当にそんなアナウンスがあったのね?」
「ああ」
「ちょと上から見てくる」
「え?」
「大丈夫よ。真上に行くだけだから」
「あ、ああ。頼む」
「……下から見ちゃダメよ?」
「見ないってば」
見て何の得があるんだよ、と返すと長くなるのでやめておく。
「六班七班、全員無事だ。モンスターとの戦闘で怪我をしている者はいるが、軽傷」
「そうですか。怪我の具合は?一応回復薬がありますが……」
「あんなの唾付けときゃ治るって」
「そうそう!」
「で、誰の唾を?」
「俺は出来れば……」
あーあー、聞こえなーい。
「司ちゃん!」
「え?」
「どうしてこっち見てないの?」
「見るなって言っただろ」
「そう言われたら見るのが日本人!」
それは一部の芸人で十分です。




