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  作者: ひじきとコロッケ
七月四日
135/176

(3)

「じゃあ、二つ目。地下にいるボスモンスターを誰かが倒して、拠点コアを獲得した」

「と言うことは……自分や自分に近しい人以外が拠点を支配している状態になる……敵対関係みたいな感じになったのを感じ取ったってことか?」

「そう……かな?」


 姉弟の見解は「ありそうだな」という以上の内容になる。


「ボスモンスターを倒すとなると、相応の戦闘力を持っていることになるはずだが」

「そうですね」

「つまり……あの三人?」

「否定出来る材料が見当たらないな」

「と言うことは……現在位置はこの辺?」

「おい!駐屯地へ大至急連絡!監視ドローンをこの範囲へ展開させろ!」


 タブレットの地図でざっくり囲んだ範囲は、抉り取られたような感覚の円。


「この範囲だけでも地下への出入り口は十以上か」

「その範囲から出ないでさらに地下鉄を進んで行かれでもしたら、見つけるのは困難です」

「危険を承知で近づくか?」

「少なくとも、相手の支配領域は危険だと思います」

「……最後尾にいるのは八班か」

「はい」

「よし、八班!少し距離を取り、後方を警戒!発砲を許可する!少しでも怪しいと感じたら躊躇(ためら)わず撃て!」


 無線から了解の返事が来るのも待たずに、先行する班へ指示を飛ばす。


「五班!進路を変更、大通りから距離を取る!図書館方向へ!進行速度を上げろ!」

「了解!」


 相手が何者かがわからないが、とても友好的とは思えない。そして、既に三十人が消えているだけでなく、物理的に……建造物すら破壊出来る何かがある。


「たった三人だが……能力が未知すぎる」

「こっちは七十人で動きづらい……機動力も向こうが上ですね」

「監視ドローン、目標地点まで五分」

「そっちはそっちで急がせろ!」


 隊列を組み直し、急ぎ足になりながら、ふと疑問に思ったことを口にする。


「ドームにもしも二つ目の拠点コアが現れて、あの三人が獲得したとしたら俺たち気付くんじゃないか?」

「あ」

「それもそうね」

「可能性一、距離が遠い」

「それはありそうね。ドームからここまでだと三キロ?四キロくらい?」

「可能性二、実はアレだとまともに拠点を獲得したことにならない」

「うん……そう、ね」

「あるかもね」

「よし」


 グッと拳を握り、二人に力強く宣言しておく。


「気にしないことにしよう」

「了解」

「うん……まあ、そう言う流れになるわよね」




  ◇  ◇  ◇




「以上が、今までにわかった内容です」

「想像以上にすごいことになるんだな」

「ええ。ただ、安全性については注意が必要かと」

「それはそうだろうな」


 拠点で農地を作り、種をまいたところすぐに芽が出た。これだけでも十分に異常事態だが、とにかく基本に忠実に水やりをはじめとする世話をしてみようと取り組み、はやくも結果が出始めていた。

 拠点を獲得した者のレベルによって差があるという条件付きであるが……基本的には水やりくらいしかすることが無い。そのくらいの速度で成長しており、早ければ二日後には収穫できるものもあるだろうという話には誰もが驚くしか無かった。

 そして、併せて連れ込んだ家畜に関しても、牧場として設定した所に放牧しておくと異常な速さで成長する。具体的には、朝連れて行ったヒヨコが夕方には卵を産んでいたという。

 だが、そんな勢いで成長した物は安全なのだろうか?

 どう考えても遺伝子操作をしたとか、怪しい薬の効果とかそう言うのがありそうなので、可能な限りの検査をした上で、となる。


「検査といっても現状では出来ることは限られているので、直接的な毒性が無いかどうかと言うくらいしか確認できないと思いますが」

「となると、動物実験?」

「実験に使える動物がいるかというと……」


 当初は出来た野菜を実験も兼ねて牛や豚に食わせるという案も出たが、肝心の牛や豚が牧草だけでぐんぐん成長していくとわかった時点で流れた。

 対照試験というのは、「これなら正常」だと比較する相手がいるから出来るのだ。


「それに、あまり悠長なことも言ってられないので……有志を募るという案も真剣に検討してもよいかと」

「そうだな」


 全国各地に開設した避難所はどうにか運営できているが、そろそろ各地で食料がヤバイ。藤崎姉弟を始め、六月一日に行動を起こし、食糧を確保している者がいることはわかっているが、その量もたかが知れている。おそらく一番多く確保しているだろう藤咲司でさえも、避難所一カ所を一週間も持たせれば空になるだろう。

 全国の備蓄が尽きるまであと数日。よく持たせたものだが、そろそろ厳しい。つまり、拠点で収穫した農作物に畜産物を使う以外の道が無いとも言える。


「とりあえず、コントロールしやすい都内の避難所から手をつけていくか」

「それでは、こことここ、この地域あたりですかね」

「いや、ここも追加しよう」

「そうだな。あとここも」


 それぞれの地域にある避難所からある程度の人数を集めて、生活基盤を支配領域内へ移す。


「モンスターに(おび)える上に食べるものは非常食中心という日々から、農作業こそあるものの、新鮮な野菜に肉が食える生活。安全性に多少の懸念があったとしても、それなりに希望者は出るんじゃ無いか?」

「希望的観測だがな」

「ま、一人が手を挙げればつられて十人はついてくるだろう」

「サクラも仕込んでおきますか」

「やり過ぎない程度にな」

「医療従事者など、避難所の運営に必要な人員は残します」

「そうだな。全員を受け入れられるまではそうしよう」


 だが、具体的な話を進めていくところに、厄介事が入ってきた。


「説明をしろ?」

「ええ……先のモンスター討伐作戦について、と」

「どういう連中だ?」

「二つのグループです。一つは……その……自衛隊に反対の論調の連中で」

「軍靴の音がとか言い出したのか?」

「まあ、そんなところです」


 護衛艦からのミサイル発射に抗議してた連中か。


「もう一つは?」

「動物愛護団体」

「は?」

「モンスターにも生きる権利があるとか」

「両方とも追い返せ」

「門前払いはしたそうですが、横断幕とプラカードを持って、門の前に並んでいるそうです」

「ちなみにどこに来たんだ?」

「自衛隊反対派は首相官邸前に」

「今、最低限の警備以外は無人だよな?」

「ええ。そう説明したのですが、総理は説明責任を果たせ、と叫んでいるそうで」


 迷惑な連中、というか手段が目的と化していると言ったほうがいいのだろうか。


「動物愛護団体は?」

「避難所にもなっている陸自の駐屯地ですね」

「今後の作戦に支障が出そうだな」


 戦車やら装甲車を出す機会はそうそう無いだろうが、それでもトラックなどで資材を運ぶことは多い。道が塞がれていると面倒である。


「それが……連中、その駐屯地の避難所に避難しているそうで」

「どんだけ面の皮が厚いんだよ」

「追い出せ……とは言えないんだよな……」


 これが海外なら即射殺、という解決もあったのだろうが、平和の国ニッポンではそうも行かない。


「それと、一部の避難所で起きているのですが」

「何だ?」

「その……いい加減、動物性の食材を出すなと騒いでいる者達が」

「避難所に入るときの確認事項復唱!」


 総理の一言に一人が慌てて立ち上がり該当箇所を読み上げる。


「当避難所で提供する食材はアレルギー等へ最大限配慮しますが、その他の宗教上の理由などによる食材の選別は出来かねます」

「それに了承したんだよな?」

「ええ」


 一応、一部の肉を食えない系の宗教には可能な限り配慮しているが、逆に彼らは「これも神の思し召しです」とこちらが恐縮するほどの感謝の意を述べながら受け入れているらしいのだから皮肉な物である。


「少し余裕が出てくるとこれだからな」

「こっちはこのひと月、休み無しだというのに」

「小人閑居して不善を為すとはよく言ったものです」


 総理がうんざりしながらもまとめに入る。


「自衛隊反対派は避難所に入れるな。動物愛護団体には、それならお前たちがボスモンスターの面倒を見ろと言え。あと菜食主義者連中は……」


 ここで一つ大きく息をついた。


「大豆ミートですと言っておけば納得するだろ」

作者は「出された物は遺さず食べなさい」と躾けられた結果、身近に嫌いで食べられない物はありません。苦手な物はありますけど。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 動物愛護団体はどうやってモンスターにならずに生き残ったんだ……
[一言] 『声』さん!絶妙に不親切な説明いつもありがとうございます!不親切なおかげで世界の皆さんに色々思考する力がついてきてます!次に『声』さんが出るのは何時になるんだろうなぁ…… プラカード団体は…
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