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  作者: ひじきとコロッケ
七月三日
132/176

(8)

「大丈夫ですか?」

「ああ。区長は?」

「大丈夫だ、君のお陰で」

「それはどうも……しかし、まさか拠点コアが二つあるとは」

「ボスも二体……いや、まて!もう一体いる可能性が!」

「総員警戒態勢を解くな!発砲許可は継続だ!」

「区長、コアを」

「わかった」


 慎重に区長が新たに現れた拠点コアに触れた瞬間、唯一生きていた照明が突然消える。そして直後に現れた拠点コアがぼんやりと周囲を照らす。


「やはり三個目!」

「クソッ!ライトを!」


 数名が慌ててライトを取り出すが、そんな一瞬の隙を逃すような相手ではなかった。


「ぐあっ!」

「何が……うわあああっ!」


 観客席から鈍い音と同時に聞こえてくる悲鳴。

 ダダダダダダ……と銃声が響き、マズルフラッシュがその姿を映し出した。


「ヤツだ!」


 僅かに見えた影に数名が一斉射を浴びせるが、暗くなった夜空に舞い上がった黒い体を狙うのは困難。簡単には当たらず、フレンドリーファイヤを恐れるあまり、逆に好き放題されている状況だ。

 暗がりに乗じて徹底したヒットアンドアウェイ。しかも何かの詰め物をした布の玉をぶつけたり、背後から忍び寄ってTシャツをいきなりかぶせたり、抱え上げてゴミ箱に投げ入れたりとやりたい放題である。


「目が!目がっ!」

「うぇぉっ!」


 どうやらスプレーによる目潰しに倒れたところへの金的攻撃も普通にやるらしい。畜生の枕詞がつく二つ名は伊達ではないようだ。


「用意しておいたアレを出せ」

「ここに」


 おそらくここにはヤツがいると予想して用意していた物が役に立ちそうで何よりだと、皿に載せて周囲からライトで照らす。


「貴様の好きなホルモン串焼き!ガーリックペッパー風味にしてやったぞ!」


 ガタン、と動きが止まったような音が聞こえた。


「ついでにビールだ。ジョッキに三杯。おかわりもあるぞ!」


 観客席から黒い影が飛び立ち、地面スレスレを高速で杉崎たちの周囲を旋回飛行し、少しずつその輪を縮めてくる。あの速度に銃は当たらないだろうと、全員がナイフを構え、区長は念のために距離を取って地面に伏せる。


「来た!」


 ある程度の距離で一気に直線で向かってきたところを五人がかりで受け止めにかかる。二人が弾き飛ばされたが、どうにか押さえ込んでいるところに追加で三人が飛びかかる。


「ぐあっ」

「ぐえっ」


 だが、ボスモンスターとしての矜持なのか、元々の性格なのかタダでやられるつもりはないらしく、何故か翼の先にある強靱な指を隊員たちの脇腹に突き立てて引き剥がそうとする。が、その背中に一人が飛び乗り、首をがっちりと締め上げる。


「テメエのでかい頭じゃ、これは抜けねえぜ!」

「よし、そのまま押さえろ!」


 どうにか起き上がった隊員たちが銃を構えて頭に突きつけると、動きがピタリと止まり、ゆっくり体をまさぐると、紙切れを一枚差し出してきた。


「これは……小切手?」


 金額欄に「せんえん(ねんぽうのやくはんぶん)」「や○ると1000を五ほん」と書かれた小切手だった。


「まさかの買収?」

「ふざけんな!」


 追加で突きつけられたものも含めて五つの銃口が一斉に火を噴いた。




  ◇  ◇  ◇




「都合、三体のボスモンスターがいたそうだ」

「うわあ……」


 三体目のボスモンスターの襲撃で数名が重傷だが、幸い死者は出なかったという。おそらく、全員を無力化してからゆっくりと命を奪うつもりだったのではないか、というのが現場の意見だそうだ。


「金で命乞いとか、二つ名通りの畜生っぷり……」

「ペンギンじゃないけどね」


 しかも年俸偽ってると言うあたりがなんとも。


「中の人とかいるのかな?」

「寿姉、中に人なんていないってのが礼儀だぞ」


 そう。アレはもともとそういう生き物だ。




  ◇  ◇  ◇




「クソ、ここもダメか」


 拠点コアがフワフワと漂っているが、周囲にモンスターの姿がなく、触れても獲得出来ないと言うことは誰かが獲得済みと言うこと。


「斉藤、こんな感じに移動してると思うんだが」

「と言うことは……うーむ」


 地図に既に獲得されていた拠点コアをプロットすると、相手の動いたラインが見えてくる。そして、その先どう動いたかを予想出来るが、いつ頃獲得していったかがわからないため、現在位置が掴めない。つまり、先回りも難しい。


「そろそろ日も落ちるし、この近くで」

「そうだな」


 なんとか電気は生きているが、街灯などに回されていないために夜になると真っ暗になる。暗闇でモンスターと戦うのはさすがに避けたいと言うことを考えると、誰が確保しているかわからないが、拠点の近くの頑丈そうな建物の中というのは安全地帯だ。


「これさ、俺たちの居場所が相手にバレるとか、ないのかな?」

「どうだろうな」


 簒奪スキルによって、自分の拠点範囲内にいる人間、モンスターはわかる。だが、他の領主系スキルで同様のことが出来るのかはわからない。


「もしもわかるとしたらこちらの動きは筒抜けか」

「そうなると……」

「あたしらの動きを先回りして拠点を抑えていく?マジ酷くね?」


 酷いのはお互い様だが、と思いながらこの先の動きをどうするかと天を見上げ……ん?


「中井、カメラ出せ」

「え?」

「この間拾ったろ?あれだ」

「あ、ああ」


 斉藤に渡すとレンズを上に向けつつ、画面を見ながら少し録画すると、すぐに近くのビルへ入り、映像を確認する。


「ほぼ真上……ここに、なんだかチカチカしているのがあるだろ?」

「ああ……あるな……ん?」

「拡大していくと……ドローンだ!」

「げ!」

「クソッ!」


 偶然夜空を見上げたから、ちょうど真上にいたドローンの動作ランプが見えただけ。だが、それで十分だ。


「おそらくずっと……あんな遠距離からこっちを監視してたんだ」

「マジか?!」

「え?あんな遠くからこっち見えんの?」

「見えるぞ。望遠レンズにデジタルズームでな。こんな家庭用ビデオでも結構見えてるし」


 そして距離が離れれば離れるほど、ドローンの駆動音は聞こえなくなる。


「どうする?」

「地図を」

「ホイ、現在地はここだな」

「……だいぶ暗くなってきたが、さてどうするか……」




  ◇  ◇  ◇




「一箇所に三体もボスが出現しただと?」

「マスコットキャラクター的な物が複数あるとそう言うことも起きると言うことか」

「首都圏でそういう可能性のある場所のピックアップを急げ!」


 数名が別室へ駆けていく一方で、誰かがぼそりと呟いた。


「日本全国、マスコットキャラクターだらけですからね」

「マスコットとか大好きな国民だしなぁ」


 全く以て否定出来ない意見である。


「ふう……とりあえず、現時点でわかったことは?」

「はい……」




  ◇  ◇  ◇




「拠点を獲得した者自身のレベルと領主系スキルの種類、スキルレベルによって出来ることが異なる?」

「地主より村長、村長より町長と言った具合に建物、農地の種類や規模が変わるらしい」

「確かに一部の土地を所有しているだけの地主より、町長の方が出来ることが多いだろうな」


 駐屯地経由で伝えられた内容は「詳細は省くが」とされていても結構な量があった。


「そして、畑にしたり建物にしたりするともともとあったインフラが消える」

「消える?」

「舗装した道路に沿って道を作ったら、土を固めただけの道になったらしい」

「アスファルトはどこへ行った?!」


 水道管や電線なども消えてしまうため、地下の構造図面とにらめっこしながらの都市計画になるらしい。通常の工事なら「穴掘ってみたら何か見つかった」で微調整も出来るが、やり直しがきかないとなると、センチメートル単位で事前調査が必要だろう。


「ま、スタッフにそう言うのが得意(・・・・・・・・)なのが大勢いるらしいから、細かいとこは全部上に任せとけば良いさ」

「都市開発型シミュレーションかな」

「凝り性な人がいそうですねぇ」


 そしてそういうのを考えるのは他人任せにしてしまうというのも国民性だろう。

どこまで畜生に出来たかというのが少し不安です

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― 新着の感想 ―
[一言] ちくしょう……畜ペンまで出てきやがった(肩プルプル)
[一言] シ〇シティかな?
[一言] やはりどこかのツバメさんがでてきたか このままだと他のマスコットもでてきそうですね
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