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本日二回更新です。
◇ ◇ ◇
「疲れた……」
ホームセンター、ショッピングモール、ディスカウントショップとスーパーにコンビニ。帰りに遠回りにならない範囲で行けるだけ行って店にある物は全部回収してきた。ゴブリンが囓ったりしていた物は避けたのだが、それでも収納量は一%のまま。どれだけ入るんだよこれは。
と、気軽に言っているが実際にはかなり凄惨な感じだった。何しろどこへ行ってもゴブリンだらけ。そして、どれだけの死体を見たのかなんて考えたくもない。勝手な想像だが全人類の半数以上が、いきなり目の前に現れたゴブリンに殺されてしまったのではないだろうか。
時刻は既に九時を回っている。アパートの三階まで上がり、部屋に入ると鍵をかけてチェーンもかける。そして、懐中電灯を出して灯す。部屋の電気はまだ点けない。冷蔵庫を一つ取り出して玄関に置く。いきなり誰かが来てドアをこじ開けた場合への対処だ。ドアは外開きだが、これがあれば少しは時間稼ぎが出来るだろう。
「さて、まずは……これだな」
アイテムボックスから遮光カーテンと粘着テープを出すと、カーテンを付け替え、粘着テープで隙間を埋める。
消防士である父から「窓に明かりがあるというのは人がいる可能性が高いという事なんだ」と教わっていた。つまり、そこに要救助者がいる可能性がある、と。だが、今は逆だ。窓からの明かりで余計なトラブルがこちらに寄ってくる可能性がある。何しろ、このアパートの他の部屋は明かりが付いておらず、人がいる気配が無かった。そんなところで明かりを点けていたら目立ってしょうが無いだろう。
◇ ◇ ◇
「第四十二班、帰着しました!」
「状況を」
「全部で七十二名を誘導。内、四十二名が軽傷、十七名が重傷。人数の内訳はこちらに」
「了解。二時間の休憩の後、次の地域の指示を受けるように」
この異常事態に、当初自衛隊もかなり混乱させられた。様々な状況に対応できるように日々訓練を重ねていたが、何も無いところにいきなり見たことも無いモンスターが現れていきなり戦闘になるなど、想定していなかったためである。まあ、そう言う想定をしていたらそれはそれで問題だが。
幸い、夜勤だった者以外はほぼ全員が訓練用の装備を身につけていたために即座に対応でき、全国で集計しても死傷者は非常に少なかった。そして、その死傷者も大半が、夜勤明けで眠っていた者か、もとより事務方で働いていたために荒事が苦手な者ばかりで、災害救助のための活動にはほとんど支障はなかった。
そして、各地の駐屯地でこの異常事態に対して独自の判断を下し、およそ十キロ圏内を目安に周囲の状況確認、救助活動を開始していた。が、言うまでも無く住人全ての目の前にゴブリンが現れて攻撃をしてくるという状況であったため、死者はもちろん負傷者も多く、治療に当たる人員はもとより、物資も数日間で底をつくのは明らかで、対応に苦慮していた。
「仕方ない、この非常時だ。あとから何と言われようともこの状況を乗り切る」
幸いなことに自衛隊全体で無線による情報共有が出来ており、防衛省も大臣以下、食堂のオバチャンまで無事だったために独自の判断で動き出した。
「可能な限り全ての国民を守るために」
この言葉のもと、いくつかの小隊を編成して駐屯地付近のスーパー、コンビニなどを回り、食料品に医薬品、生活用品をかき集めていった。もちろん、その際には物資を回収した旨と、遠慮なく防衛省へ請求するように書き記した紙を残している。この状況下で金額を算出して請求する者がどれだけいるだろうか、という意見もあるが、筋は通しておくべきと言う判断だった。
だが、一部の駐屯地では思うように物資の回収が進んでいなかった。
「店の中が空っぽ?」
「はい、棚すらありません」
「どういうことだ……」
「棚を引きずったようなあともありませんので、手がかりが全く」
「わかった。引き続き頼む」
「了解しました」
誰が何をやったのか。真相はやった者だけが知っている。




