(4)
このドームにはアイツがいないと……ね?
「これで三箇所目。順調だな」
「ええ」
「そして、これが異常な速さのレベルアップか」
「あはははは……」
ボスモンスターのいる拠点は寺や神社に公園、変わった形の建物や特徴のありすぎる看板などで、この付近にも結構な数がある。そして寿の探知を使えばすぐに場所は特定出来るため、近いところから順に潰していくという、比較的雑、かつ贅沢なかたちで進んでいた。ボスモンスターと言えど、ドーム球場にいたドラゴンや城にいた巨大骸骨のような巨大怪獣クラスのものはほとんどおらず、自衛隊でも銃器による一斉射などで仕留めることは可能なのだが、銃弾の補給を考えると少し躊躇してしまう。
しかし、それを三人が覆していく。
「素手で殴り飛ばしたな」
「壁ごと吹き飛んでいったぞ」
寿は基本的に素手ゴロ。遠距離であったとしても銃は使わないが、これは彼女に銃弾を渡しているという情報が共有されていないらしいと言うことに配慮したもの。まあ、一言「銃弾もらってます」と言えば済む話だが、それはそれで色々と話が発展しそうなので保留にしている。難しい話は後回しでいいだろう。
「うわ、魔法えげつないな」
「現代の魔女だな」
一部の自衛隊員が魔法スキルを獲得しているが、MP消費が多すぎて使い物にならない、と思っていたら成海が結構ポンポン撃っているのは衝撃をもって受け入れられた。なお、自衛隊員たちの「炎の魔女」「氷の魔女」といった声が聞こえる度に顔がヒクついている理由については司たちもよくわからない。
「なあ、金属バットってあんなに頑丈だっけ?」
「金属バットに見える何か……つまり金属バットのようなもの、じゃないか?」
トロールやオーガといった巨体モンスターを吹き飛ばしてもゆがみ一つも出ない金属バットは彼らの理解の範疇を超えており、「スポーツ用品メーカーが極秘裏に開発した」「どこかに刺さっていたのを抜いてきた」などと言う声がチラホラ聞こえる。まさか、泉に落としたら交換してもらえましたとは言えない。
「ボスモンスターって、あんなにあっさり倒せるんだな」
「うん……そうだな」
「さて、俺たちも負けてられないな」
「ああ!」
「ところで……お前は誰派?」
「赤畑成海派」
「素人はこれだから、藤咲寿一択だろう」
「あえての藤咲司で」
おかしな声が聞こえるが、そこはスルーしておこう。つか、俺の派も出来てんのかよ。
ボスモンスターの経験値は確かに多い。だが、その取り巻きも経験値はそこそこあるし、数も多いのでガンガン経験値が稼げる。こうして予定通り……城には行かず、テレビ塔のある公園通りまでやって来た。ちなみに市役所と県庁もボスモンスターを倒している。見た目が城っぽいと言うだけのクセにゴブリンジェネラルが大軍を率いていてなかなか面倒だったが、その頃になると自衛隊員たちもかなりレベルが上がっており、取り巻きを任せても全く不安のないレベルで安心して戦えた。
なお、どちらも寿が蹴り飛ばしたら体の上下が今生の別れとなるというスプラッタがあったのだが、細かい描写は割愛しておこう。
◇ ◇ ◇
「これでほぼドーム球場は囲んだな」
「で?このあとは?」
「ドームを確認してみるか」
一応、ここまで獲得した拠点エリアの一部がドームにもかかっており、中の様子が少しだけわかるのだが、誰かがいるという様子が無い。
「よし、入るぞ」
「おう」
全員が周囲を警戒しながらエントランスを抜け、観客席へ。
「うぐっ」
「なんだこれっ」
慌てて通路へ戻り、各自ウェットティッシュで目のあたりを拭う。
「いきなり目に来たぞ」
「鼻もヒリヒリする」
「これさ……辛い奴の臭いじゃね?」
「まさかとは思うが……ドラゴンを倒すのに唐辛子でも使ったというのか?」
「まさか……さすがに、なあ?」
事実は小説より奇なり、であるが、ドラゴンを倒す瞬間を見ていなかった彼らは知る由も無い。
とりあえずゴーグルとマスクを着けてもう一度観客席へ。
「気休め程度のシートをかぶせてあるが、赤いのがはみ出してるな」
「マジで唐辛子とかばらまいたの?」
「まあ、なりふり構わずって意味ではアリか?」
そして、マウンドのすぐ脇に視線が集まる。
「拠点コア、放置していったのかよ」
「齊藤、取りに行くか?」
「イマイチ気が乗らないが、強力な拠点だからな……行くか」
そのまま下へ降りようとしたところで齊藤の動きが止まった。
「齊藤……なんだ……これ」
齊藤以外の三人も同じ事を感じ取ったようだ。異様に重いプレッシャーを。
◇ ◇ ◇
本来この場のボスはそれだった。そしてそれはボスとしての役目を全うしようとしたのだが、一定時間、ドラゴンと交代を命じられ、仕方なくお気に入りの場所で不貞腐れていた。
しかし、蓋を開けてみれば、ドラゴンがたかが人間にあっさりと敗れる始末。だが、拠点コアはそのまま残されている。アレがあれば人間はまたやってくる。
これはチャンスだと待ち構えた結果、予想より早く人間が現れた。
ガタリ、と椅子を鳴らして立ち上がる。あれは俺の獲物だ。
ゆっくりと楽しむとしようと、ゆっくり通路を降りていった。
◇ ◇ ◇
「齊藤、何か来る!」
「わかってる!だが何が来るんだ?」
「わからん」
そうこうしているうちにそいつが三階席の入り口から姿を見せた。
身長「アジアの頂点」センチ、体重「圧倒的な存在感」キロのスポーツユニフォームを着たそれは、感情の読み取れない目で四人を見ると、ゆっくりと歩みを進めてきた。
「クソッ!このっ!」
さっきまではこの暑い季節にもかかわらず、底冷えするような空気を感じていたが、今は全身を締め付けるようなプレッシャーに変わっている。
見た目では全くわからないが、アレもボスか。しかも……強い!
「……」
そいつは無言のまま歩を進め、齊藤たちまであと三十メートルほどの位置で足を止めた。
そして、右腕をすっと自身の前面で折り、深々と礼をした。まるでそれは武道の試合の開始前に相手に向ける礼のように折り目正しく、惚れ惚れするような所作で。
だが、それは「これから殺すお前たちにせめてもの敬意を」と宣言しているかのよう。
そして、礼から直ったとき、突き刺すような冷たい殺意が四人に襲いかかった。
「?!」
瞬時に視界から消えたのが、ただ単にジャンプして飛び越え、背後に回っただけと気付くまでの間にドム!という音をさせ、村上が吹き飛ばされる。そのままバキボキグシャリと、人間から鳴ってはいけない音をさせながら観客席の椅子を破壊しながら数メートルバウンドして止まり、その下に赤いものが流れ始める。
「村上っ!」
「行くなっ!」
中井と落合がそちらへ行こうとするのを斉藤が制する。
「コイツ……ヤバいぞ」
「ぐ……」
斉藤の能力は強力だが、目に見えてわかりやすい弱点としては効果を及ぼすまでに時間がかかるという点だろう。動かない建造物ならいざ知らず、素早く動く者を相手にするのが苦手と言えば苦手。だからこそ、誰かが押さえつけているか、自らが組み付いて仕掛けるかというやり方をしてきたのだが、
「動きが速すぎてつかめねえっ!」
ちなみに作者は特定の球団のファンとかではありません。
アンチでもありません。




