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◇ ◇ ◇
「ん?着信だ」
「さっきの番号だね」
「到着したのか?」
「でも見えないよ?」
さて、何だろうかと電話に出てみる。
「藤崎司くんか?」
「はい」
「君たち三人は無事なんだな?」
「え、ええ……特になんともなく」
待ってるだけで暇です、とは言えない雰囲気だな。
「少し、いや……かなりマズい事態になった」
「え?」
聞かされた内容は……いきなり三十人が消えた。そして、荷物に入れてあったGPS装置が離れた位置にいることを示しているという二点のみ。だが、どちらも……三人がこれまでに経験したことのない内容だった。
「そうか、君たちもこんなことは今までに無かったか」
「はい」
「わかった。だが、君たちのいる場所から……その、荷物の場所はかなり近い。正体不明の何かがいる可能性が高い」
「そうですね」
「すぐに離れた方がいいだろう」
「わかりました」
「荷物の確認はどうするの?」
「それは……」
寿の声が聞こえたのだろう、奥澤が答えた。
「ドローンを飛ばして確認するところだ。確認でき次第改めて連絡をする」
「わかりました」
「私、見に行こうか?」
「ダメだ」
寿の提案を司が即座に却下する。
「え?何で?私なら……」
「空から行けば、ってのはわかるけど……見ろ、雨」
「あ……」
この時期は仕方が無いが、パラつき始めていた。
「うう……そうだね、うん」
「奥澤さん、俺たちもすぐに移動します」
「わかった。新しい合流地点については改めて連絡する。とにかくそこから離れることを優先してくれ」
「わかりました」
電話を切り、椅子代わりにしていた車をしまう。
「さて、出発……寿姉、どうした?」
「んー、おかしいんだよ」
「何が?」
「自衛隊の荷物のある場所って、この辺だよね?」
「そうだな」
これ、と示されたスマホの地図は確かに言われた辺りだ。
「そこ……人が四人いる」
「人?」
「うん」
「モンスターは?」
「いない」
探知スキルは優秀だな。
「人……その四人が何かのスキルで荷物だけ移動させた、とか?」
「でもそれなら自衛隊員さんは?」
「わからんな」
寿が探知した位置までは直線で五百メートルほどだが、間にビルやドームがあるのでお互いを視認出来ない。確認に行きたいのはやまやまだが、正体不明すぎる今はこの場を離れて逃げよう。
「少し遠いけど、俺たちが最初に拠点コアを獲得したタワーの辺りまで行こう」
「そうね。そこまでなら安全なルートもわかるし」
空を移動していて道を気にしていなかった寿を連れて移動開始。道沿いに進めば約五キロ。ボスモンスターとの戦闘がないなら一時間ほどで着く距離。
そして、移動を開始して五分もしないうちに、スマホにメッセージが送られてきた。
「ドローンの映像だって」
「ドローン?」
「え、司ちゃん、ドローン知らないの?」
「そのくらい知ってるよ!」
◇ ◇ ◇
「ドローン、まもなくGPSの反応のあった地点に到達します」
「映像、撮れているな?」
「万が一に備え、リアルタイムに保存しています」
奥澤たちがモニターを凝視する中、小さな公園に散乱した荷物の様子が映し出されてきた。そして、その周囲にいる四人の男女も。
「荷物をあさっているのか?」
「そのようですね」
通常なら犯罪行為でも、このひと月ほどの間はあちらこちらで見られた光景だし、それを咎める事はしない……だが、今の状況では……
「この四人、怪しいな」
「ええ」
「もう少し寄ってくれ、鮮明な画像が欲しい」
「わかりまし……ん?!」
「どうし……あっ!」
ドローンを操作する装置のレバーを必死に動かしていたのだが、
「ドローン……撃墜されました」
「何?」
最後に撮られていた映像は、ある程度顔かたちが見える状態ではあったが、明らかに何らかの攻撃を受けてカメラレンズが割れ、プツリと消えていた。
◇ ◇ ◇
「なんか、ドローンが来たぞ」
「自衛隊の荷物あさってるのがバレた?」
「いや、これからバレるんだろ」
「えーと、どうする?」
さすがに、撮影してますという意思表示をされている状況下で火事場泥棒は抵抗があるのだが、
「破壊しろ」
「了解」
風の魔法レベル一、風刃が撃たれ、ドローンは真っ二つになって落ちていった。壊れたかどうかなどわざわざ見に行くまでもない。
「なあ、どうする?」
「そうだな。面倒事がこっちに来る前に逃げるぞ」
「了解!」
◇ ◇ ◇
「これは……」
送られてきた映像は、積み上げられた荷物を開けて取りだしたものを空中でかき消す作業をしている四人の男女。空中でかき消すのは、アイテムボックスを使用しているからというのは明らかで、それだけでもこの四人がこの一ヶ月の間、生き延びるために何をしてきたかがよくわかる。自分たちもやってきたことだからそれ以上は触れない事にする。仮に彼らの目の前にいきなり自衛隊員たちの荷物がドンと現れたというのなら、回収したくなる気持ちもわかる。
だが……
「コイツ、あの場所にいた……」
「え?誰?」
「えーと、成海さん、別行動取って逃げたときのこと、話しましたよね?」
「え?ああ、うん。司くんが猫になったときのことね」
「猫?」
「話がややこしくなるからそれは忘れて欲しいんだけど?!」
「ゴメン」
「司ちゃん、あとで詳しく教えてね?」
「う……」
誤魔化しようがない感じだな。
「んで、そのときに追い回されたって話したでしょう?」
「ええ」
動画を止め、一人の男を拡大する。
「コイツです。コイツが俺を追いかけてきた奴」
「んー、人を見た目で判断するのはどうかと思うけど……色々ありそうな感じの男ね」
「司ちゃん!」
「はいっ!」
「どういうことか説明して!」
「あ、うん。隠すつもりはなかったんだけど」
さっきまで寿と別れてからのことを順に話していたが、サービスエリアにいた連中に追い回される話をし始めるまでにも至らなかったからと前置きし、ショッピングモールでの出来事を話す。
「床が消えた?」
「見た目ではそうとしか」
「で、それをやってたのがコイツ?」
「もしかしたら一緒にいた仲間かも知れないけど、状況的にはコイツしか考えられない」
あのときバイクで追ってきていたのはこの男だけだったはずだから、確定でいいだろうと付け加えておく。
「ふむ……ねえ、それって自衛隊の人に伝えた方が良くない?」
「そうだよな」
あの床を消した能力の正体は不明。つまり、床以外にも……例えば人間も消せる能力だとしたら?
「でも、司くんの推測だけど……あまり遠くのものは消せないっぽかったんだよね?」
「うん」
二階の高さを考慮してもせいぜい五、六メートルがいいところだろうか。
「五、六メートルなら自衛隊の人たちが気づくよね?」
「多分な」
「姿を消すスキルとか?」
「あるかもな。あとはスキルレベルが上がって遠くまで消せるようになったとか」
「でも、自衛隊員は消せるとしても、荷物はどうなるの?」
「そこなんだよな」
モンスターを瞬時に倒す能力、床を消す能力、自衛隊員を消した能力、荷物を移動させた能力……別々の能力なのか、それとも関連性がないように見えて一つの能力なのか。出来れば確認しておきたいのだが、いきなりこちらを追い回してくるような連中だ。様子を見に行くのも危険だろう。




