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  作者: ひじきとコロッケ
七月二日
122/176

(17)

  ◇  ◇  ◇




 陸自の駐屯地からは奥澤正行が率いる総勢百名程が準備を整えて出発していた。

 十名を一班として十班がある程度の戦闘も可能な装備を調えて進み、その後方から二台のトラックが武器弾薬に食料などを運ぶ、普段ならともかく今の状況下ではなかなかの大所帯だ。

 一応隊員の中にアイテムボックス持ちがいるが、人数も少なく、スキルレベルも低いのであまりあてにはしていない。せいぜい、嵩張る物を少し入れている程度だ。

 これから合流する三人は高レベルのアイテムボックス持ちだと判明しているが、非常時とはいえ、民間人に武器弾薬を運ばせるのはやはり抵抗がある。それに「アイテムボックス」という個人に依存しすぎる体制は何かあったときに問題が多いため、比較的誰でも運用出来るトラック輸送を選択したのである。


「まもなく先頭の一班、橋を渡り終えます」

「了解。周囲の警戒を引き続き頼む」


 各班にはドローンも配備しており、必要に応じて飛ばすように指示を出しており、周囲の警戒を怠る事無く進んでいる。

 今のところ、急にモンスターが出現するという事態には遭遇していないが、ボスモンスターが取り巻きのモンスターを召喚することは確認されているし、召喚された取り巻きモンスターは比較的自由に移動しているらしい。警戒をしすぎると言うことはないのだ。


「それにしてもこの三人、すごいですね」

「そうだな」


 姿こそ確認できていないが、ファンタジーでは強敵として有名なドラゴン討伐。銃火器もなしにそれをなしえた者となると果たしてどんな人物だろうか。

 一応、政府対策本部からの連絡では三人ともこの事態が始まる前までは、それこそどこにでもいる普通の大学生。藤崎寿と司は双子の姉弟で赤坂成美は二つ年上。それ以上は、取り立てて何かあるという人物でもないそうだ。そして先月からの詳しい経緯は聞いていないが、どんな修羅場をくぐってランキングのトップにいるのか、興味は尽きない。


「ドラゴンかぁ……俺も見たかったな」

「俺もだ」

「いや、戦うのはちょっとゴメンだけどな」

「ハハハ」


 一応は作戦行動中という扱いだが、何しろもうかれこれ一ヶ月の間、作戦行動中である。そして、敵がどこかの国や組織ではなく、モンスター。これまでの各地からの報告を総合すると、レーダーだの赤外線探知だのといったものを一切使った痕跡無く、数キロ先からでもこちらを見つけて攻撃してきたケースもあると言うから、今更話し声が聞こえたところでどうと言うこともない。それに、広い道路で身を隠すこともなく堂々と進んでいるのだ。ある程度の緊張感を維持してさえすれば、と言うことで大声にならないようにと注意事項を伝えているが、こうして私語も許可されている。

 ちなみにこの百人、指名されて出動しているわけではない。これからこういう作戦が実行される、我こそはと思う者は是非にという話を受けて志願し、結構な倍率から選ばれている百人だ。全員が避難所での生活の限界を感じ、東京で始まった拠点奪還作戦の状況を聞き、ランキング上位の三人が近くにいると聞き、常に後手に回っている状況からの逆転と、大勢が助かると願いながら、志願してきたのである。


「そうそう、そう言えば……「報告!一班との連絡が途絶えました!」

「何?!」

「同じく二班も連絡が取れません!」

「全隊止まれ!何がどうなってる?!」


 異常事態と言えば異常事態だが、この一ヶ月、異常事態のなかった日はないと言っても過言ではなく、この状況にも比較的冷静に各自が動いていた。


「こちら三班、状況を報告」

「よし」

「橋を渡りきって百メートルもしない位置で、一班の十名が急に姿を消しました」

「急に……姿を消した?」

「はい。そして続いて二班も。まるでかき消すかのように消えました」

「映像は?」

「今送ります」


 携行しているカメラの映像が送られてきたのだが、なるほど確かに突然姿が消えている。録画を一時停止して人を移動させて、という古典的な手法でもやったかと錯覚するほどに。


「これは……どういうことだ?」

「レーダーの反応ありません」

「超音波センサーにも反応無し」

「三班、周囲を警戒しながら進みます」


 つまり、レーダーや超音波を吸収したり拡散させたりしてごまかしているのでもないし、光学的に姿を消す何かが起きたのでもなく、本当にいなくなったと言うことになる。


「GPSは?」

「反応は……これは……」

「何だと?」


 全員が服にGPS装置を着けており、現在位置がわかるようになっているのだがその反応がなく、荷物の中に入れてあった予備のGPS装置の反応だけが返ってきているという。ただし、その位置は姿の消えた地点から数百メートル離れているというからまたわからなくなってきた。


「姿が消えて一瞬でこの距離を移動した?」

「しかも隊員は行方不明。荷物だけが移動?」

「クソッ、何が起きているんだ」


 モンスターが突然現れることは想定していたし、警戒もしていた。しかし、いきなり消えることは想定していない。いや、想像すら出来なかった。このまま進むのは非常に危険度が高い。だが、戻るという選択?いや、それよりもその先にいる三人は安全なのだろうか?奥澤がいろいろな思考にふけりそうなところに新たな連絡が入った。


「さ……三班消えました!」

「何だと?!」

「何が起きているんだ?!」


 僅か数分で、完全とは行かないまでも武装した三十名が消えるという事態に、さすがに動揺が隠せなくなる。


「戻れ!橋の手前まで戻るんだ!」


 一体何が起きているのかさっぱりわからないまま、橋の手前まで後退。場合によっては駐屯地まで撤退……いや、それすらも安全なのだろうか?




  ◇  ◇  ◇




「斉藤、何かあったのか?」

「ん?ああ、この先。この先に……自衛隊の装備が落ちている」

「は?」

「何それ」

「意味わかんないんだけど」

「そう言われてもな。俺も意味がわからん」


 簒奪スキルで排除すると、本人と衣服などは排除されるが、ある程度以上の大きさの荷物は任意の場所に移動させられる、というのがレベル5から使えるようになったのだが、これがなかなか便利だ。


「アレだな」

「山積みだな、どうなってんだ?」

「わからん」

「わからんって、この辺、斉藤の拠点範囲だろ?」

「そうだが、隅々までいつも見ているわけじゃないからな」

「そりゃそうか。でもさ、荷物はいいとして、肝心の持ち主は?」

「知らん。気づいたら荷物だけがあった」

「近くにいる様子は?」

「無いな。俺のスキルの範囲外にいるかも知れんが」


 スキルの範囲外……つまりこの世ではないという意味だが、と心の中でつぶやく。


「食糧と、武器だな……弾薬もある」

「持って行くか?」

「食いもんはいいけど、銃は使い方がわかんねえよ」

「だな」

「火薬は何かに使えるんじゃない?」

「それもそうか」


 三人が荷物をあさっているのを眺めながら、改めて自身のステータスを確認する。

 今の(・・)で、アイテムボックススキルを獲得できた(・・・・・)。レベル2が二人にレベル1が一人。合計でレベル5に出来た。溜め込んでいるスキルポイントを使えばすぐにでも時間停止のつくレベル6には出来る。

 そうなればコイツらは……

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[一言] 幻の藤咲司ちゃんと斉藤の決戦が近い!ワクワク!
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