(15)
※残念な事に……ステータスまで行けませんでした
内閣対策室からは、「おそらく合流したようです。連絡が入りましたら……」という連絡を受けていたのだ。
「こっちに来るのか?」
「そのつもり」
「そうか、気をつけて来い」
「わかった」
「……と言いたいところだが、メモはあるか?」
「え?あ、うん。あるよ」
「今から言う番号にこのあとすぐにかけてくれ」
「え?誰のとこ?」
もしかして、何かがあって両親が別々の場所にいるとかそういうことになっているのか?
「総理大臣」
「へ?」
「ほぼ直通で総理大臣につながる番号だそうだ」
「ハイ?」
総理大臣って気軽に電話していい人なのか?
「きちんと名前を言うんだぞ」
「それは……まあ、うん……って、何で総理大臣?!」
「いろいろ聞きたいらしいぞ」
いろいろって何だ?
「何、悪いようにはならないさ。それに無理難題を言ってきたら電話を切っていい」
総理大臣相手にそんな失礼をしていいのだろうか?
「それに」
「それに?」
「そんなに無理を言う人ではないからな」
「そう……なのか?」
総理大臣なんて何度かテレビのニュースで見た程度だが、確かに強引に意見を押し通すような人には見えなかったが……
「わかった。かけてみるよ」
「おう。番号は……」
電話を切ると、二人の表情はなかなか面白いことになっていた。
「つ……司ちゃん!総理大臣って、あの総理大臣だよね!」
「寿姉の言ってるあのってのがどれかよくわからんけど、多分あってる」
「すごい!ホットラインって言う奴?」
「多分違う」
それは、確かホワイトハウス直通電話とかそう言うのだったと思う。
「司くんが総理大臣とお話し……すごい!すごいわ!」
こっちはこっちで理解が追いついておらず、感想の語彙も乏しくなっている。
「まあ、かけてみるか」
メモした番号を押して、通話ボタンをタップ。
◇ ◇ ◇
「……総理、電話が鳴っているようですが」
「え?誰だこの番号?」
ボスモンスター討伐後のあれこれをしているところに唐突にかかってきた正体不明の番号にやや戸惑うが……
「もしかして……そうか」
この番号にこのタイミングでかけてくる心当たりは限られている。
「はい、小倉です」
◇ ◇ ◇
意味も無くビシッと姿勢を正す。
聞こえてきた声は電話特有の歪みがあるものの、ニュースで聞き覚えのある声だった。
「その……俺っ、じゃない私は……えと……」
「司ちゃん、落ち着いて」
「えっと……藤咲、藤咲司と申しましゅ」
噛んだ。
「そうか、君があの藤咲司くんか。初めまして。内閣総理大臣、小倉健次です」
「よ、よろしくお願いします」
何をどうよろしくお願いするのかしらと成海は思ったが口には出さなかった。多分、自分も同じ立場だったら同じことを口走っただろうから。
「ははは、あまり固くならなくてもいいよ」
「は、はひっ……えっと、そのっ……」
総理大臣に固くなるなと言われてハイそうですかと楽に出来るほど神経は図太くなかった。
「まずは、連絡をありがとう」
「あ、いえっ!そんなっ!それで……あの、ご……ご用件は一体?」
やっと本題に入れる、というか、今すぐ電話を切りたい。
「少し、話が聞きたいんだが、大丈夫かね?」
「えと……大丈夫というのは?」
「その、周囲の安全とかそういうところだが」
「えっと……」
ここにいるのは寿と成海。どちらも戦力としては頼もしいどころか、多分世界一の戦力が集まってる気がする。
「大丈夫です」
「そうか、ありがとう」
一体何を聞かれるのだろうか?
「そうか。それが君の急激なレベルアップの理由か」
「はい」
話せる範囲でいいから、すごい勢いのレベルアップの理由を教えてくれと言われ、特に隠すこともないのでわかる限りで話した。そもそものレベルアップに必要な経験値が少ないこと、獲得する経験値が増えていること。そして、同行者になると、その恩恵を一部受けること。
「ただ、同行者がどこまでなのかはよくわかりませんが」
現時点でわかっていることは、自分同様のレベルアップ経験値の減少と獲得経験値の向上にステータス補助。同行者には勝手に設定されるらしく、外す方法もよくわからないとも伝えた。
「だが、試す価値はあるな」
「試す?」
「そうだ」
そして、小倉は現在の東京での状況を告げた。
二つのタワーのボスモンスターを倒したこと。それぞれの拠点を大臣が獲得したこと。そして、何が出来るかを検証中だと言うこと。
聞きながら三人は、この総理大臣だけでなくその周囲のスタッフが結構優秀なんだろうと感心した。
どうしても行き当たりばったりで、その場その場の対応が多い彼らに比べ、様々な情報を集め、分析し、次にどうするか意見を出し合いながらこの状況下を生き延びる方法を模索している。
そして、
「拠点コアの獲得、すなわち拠点を獲得し、運用し、安全な場所を広げていく。現状ではこれが最善策と見ている」
あの声の説明からすると誰でもその結論に達するが、その裏付けもきちんとしていた。
「食料生産、つまり農作物や畜産がどの程度になるかはすぐにはわからないが、モンスターの出現抑制やきれいな水の確保などが可能と判明している。そして、それは拠点の広さと領主スキルの種類、レベルによって大きく変化する」
東京ではタワーのボスモンスター撃破後、周囲のボスモンスター討伐にかかっており、既に二十以上の拠点を確保しており、それぞれが細かな確認を始めている。
「そして、ある程度東京が落ち着いたところで、全国各地で拠点獲得に乗り出す予定だ」「おお!」
「だが、そのためには戦力が必要になる」
「確かにそうですね」
「自衛隊の装備による攻撃は一定の効果が見られているが……数に限りがあり、すべてに投入するのは非常に厳しい状況だ」
武器弾薬の製造工場はなんとか動かせるらしいが、材料が乏しいという、資源を輸入に頼らざるを得ない日本のもろさが露呈していた。
「だが、レベルが上がれば、ドラゴンすら倒せる。ならば、そのために出来ることをしたい。どうか、協力して欲しい」
日本政府として出せるのは、可能な限り三人の自由意志を尊重しつつ、この状況下でやらかしたことは全て不問にする。さらに、この事態が収束したあとのことも最大限の便宜を図るという、なかなか異例の内容だった。
「具体性がないのは目をつむってくれ。この先どうなるかが見えないのでね」
「それは……わかります」
元の生活に戻れるのか、戻れないならどうなるのか。先の事は全くわからないのに「毎年一億円支給します」なんて言われても微妙だなと思う。だが、何らかの便宜を図ってくれるなら……口約束と言ってしまえばそれまでだが、まあいいか。
そして、とりあえず細かいところの詰めは必要だが、当面の課題を解決したい、と言うことになった。
「やっぱりあの城、ですか」
「うむ。ドローンによる偵察では……これ以上近づいたらヤバイと感じたので引き返した、との報告を受けている」
ドローン越しに感じるって、どんだけヤバいんだよ。
「そこで周囲を固めつつ、拠点としての開拓とでも言えばいいのか、そう言うのを進めながらしっかりと攻略しようと考えている」
「周りが安全になれば、戦いやすくなるってコトでしょうか?」
「そう。周囲からモンスターがなだれ込んでくるのは絶対に防ぎたい」
「そういうことなら……」
とりあえずこちらはドームその他の拠点コアが何だか少し怪しいので保留にしていることを伝えると、
「出来るかどうかはわからないが、こちらで回収しても良いだろうか?」
「構いませんよ」
三つに分かれてるのがどうなるのかが一番心配。おかしな事にならないといいが。




