(10)
管制室からの指示が止まった。つまりそのままで行けると言うことなのだろうけど、何だろう、この胸騒ぎは。
「機首上げ……少し引いて」
「え?」
横目で機長を見ると、僅かに開いた目で真正面を見ている。
慌てて操縦桿を引く。慌ててるけどゆっくりと。
「もう少し……よし……戻して……森山、どうだ?」
「佐久間……お前……」
少し機首を上げすぎているが、このまま突っ込むより遥かにマシだ。
「そのまま……そのまま……」
やがて後ろのタイヤが接地する。森山がすぐに指示を出すと、ゆっくりと機首が下がり、全てのタイヤが接地。即座にブレーキ操作を指示。
静かに安全に停止など言っていられない。とにかくフルブレーキをかける。
タイヤから白煙を上げ、僅かに左にブレながら……止まった。
「と……止まった」
ふう、と息をついて左の機長を見る。
「……」
小倉さんが首を横に振る。
ゆっくりと立ち上がり、機長の横に立つ。
「ありがとうございました」
敬礼の仕方なんて詳しく知らないので、深々とお辞儀をする。最後に機長がくれたアドバイスのおかげで無事だったのだとわかるから。小倉さんも何とか体を起こし、同じくお辞儀をする。いや、足が折れてるんだから無理しないで欲しい。
やがて、待機していた消防車が周囲を囲み、緊急脱出スライドから地上へ降りると、そのまま救急車に乗せられてターミナルビルへ運ばれた。
念のためにと医務室に運ばれたが、どこも怪我をしていないことを伝え、自分の荷物を受け取るとシャワーを借りる。
「ううっ……」
ガチャで与えられた能力はとても強かった。この先、どんなことが待ち受けているのかわからないけれど、簡単に死んだりしないくらいには強くなっていると確信出来るほどに。だけど……
「みんな……死んじゃったよぉ……」
目の前でドンドン人が死んでいった。もっと早く状況を把握して動いていれば死なずに済んだ人がたくさんいたはずだ。
ぺち、ぺち、とシャワールームの壁に手をつき、泣きじゃくる。こんなに泣いたのはいつ以来だろうかと言うくらいに。
本当は、博美を始めとする、同行していた大学の皆が死んでしまったとき、自暴自棄になって自分一人で脱出してもいいと思っていたが、これ以上目の前の人を死なせたくないという一心で、気丈に振る舞っていたが、限界だった。
十分も泣き続けると、どこかすっきりしてきた。気持ちの整理はまだつかないが、それでも生きている私に出来ることは多分たくさんある。例えば……家族が皆生きているはず。会いに行こう。「よしっ」と気持ちを切り替え、明るく振る舞うようにして、シャワーを出る。血まみれの服は……さすがに捨てよう。
さっぱりしたところで管制官たちと挨拶。互いに無事を喜びあいながらも亡くなった人数を考えるとやるせない。誰言うともなく、全員で黙祷を捧げた。
だが、それでも。
十二名の命は助かった。
「さてと……」
これからどうするのかと聞かれたが、どうするも何も北海道に来るつもりが無かった上に、本来の目的地に飛行機で行くのは不可能。だが、だからと言って空港に居続けても仕方が無いので、外に出ることにした。
せめてこのくらいはさせてくれと、食べるものを色々くれたのはありがたい。
「では皆さん、お元気で」
手を振り、空港をあとにする。
そこら中で車が事故ってる。みんなあの化け物のせいか。
「苦労して北海道まで来ちゃったけど、実家に帰ろう」
関西方面だけど。
多分、ガチャで手に入れたものは役に立つはずだからね。
本日更新分はここまで。頑張って今週中に六月一日が終われるように進めます。
次回、視点が切り替わります。コロコロ変わって済みません……




