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◇ ◇ ◇
「総理、そろそろ時間です」
「わかった」
昨日のように、今日も作戦に参加する自衛隊員へ一言、となっているので、中継設備のある部屋へ向かう。その途中で、
「総理!朗報「聞こう」
朗報なら聞くべきだ。
「例のミッドDドラゴンですが……討伐されました!」
「何?!」
「範囲内にいる者全員に声が聞こえたとのことです。ほぼ間違いないでしょう」
「なるほど……藤咲司、だな?」
「おそらく。藤咲司と赤畑成海のレベルアップを確認しています。それと」
「それと?」
「藤咲寿のレベルアップも」
「つまり、それは」
「合流した可能性が高いと思われます」
その場にいた者達が、良し!とガッツポーズになる。
「こちらに連絡が来るのも時間の問題だな」
「ええ」
「連絡があったらすぐに回せ。最優先だ」
「はい!」
少しだけ足取り軽く、昨日中継で演説を行った部屋に入ると、既にそちらでも情報が共有されており、全員が少しだけ明るい表情で機器の操作をしていた。
「こちら原稿です」
「ありがとう」
既に一度目を通しているが、念のためパラパラとめくり、記憶と相違ないことを確認する。
「時間まであと三十秒」
「マイク良し」
「カメラ入りました」
「各所との通信状況良好」
ふう、と大きく息をしてカメラに向かうと、タイムキーパー係が残り時間を指で示している。あと十秒……五秒……
「各地で待機している自衛隊員の皆さん。おはようございます。内閣総理大臣小倉健次です」
目の前の数人が指で通信OKを示す丸を作っているのを確認し、続ける。
「皆さんには、今までに無かった作戦を遂行していただく事になります。かつて人類が挑んだ事のなかった困難に立ち向かう作戦……でした」
壇上から中継している先の映像が見えるのだが、少し動揺しているように見える。それはそうだろう。「でした」と過去形なのだから。
「作戦準備にかかりきりであった皆さんの支障にならないよう、お知らせしていませんでしたが、この場で改めて朗報を二つ、お伝えします」
「まず、今から三十分ほど前、ニューヨークのハドソン川河口に立つ像が動き出し、国連本部に向けて歩き出した事が確認されました。これをアメリカ第二艦隊のミサイル攻撃により撃破。さらにそのすぐあと、ニューヨークのシンボルたるタワーに居座るモンスターも同様にミサイル攻撃により撃破されました」
中継先の音声は聞こえないが、互いに顔を見合わせながらうなずき合っている様子が見えた。
「本作戦の成功を確信するに足る成果です。本作戦に問題は無い。有るとすればそれは慢心。どうか、最後まで、入念に確認に確認を重ね、細心の注意を払い、作戦を成功させるよう、力を合わせていただきたい」
中継先の者達の表情は、一点の曇りもなく、成功を確信したものになっていた。
「そしてもう一つ、ご存じの通り、愛知県を中心とした一帯で発生していた謎の『ミッドDドラゴン討伐』なるミッションですが、先ほど討伐完了の報が入りました」
中継先では隊員たちが再び歓喜の声を上げているようだ。
「皆さん……我々はモンスターに決して怯む事なく、戦い、勝利出来る」
ここで一呼吸ためて、続ける。
「国民を守るため、日頃の訓練の成果を発揮し、作戦を成功させましょう!」
最後は小倉も思わずガッツポーズを見せたが、中継先の映像でも見える限りの隊員たちがガッツポーズを見せており、士気が高まった様子がうかがえる。
「よし、やるぞ」
中継を切ると、すぐに作戦司令室へ向かうべく外に出ると、廊下で二人の男性が待ち構えていた。今すぐ何か、という事案のない、法務大臣と環境大臣だ。
「総理、我々はそろそろ向かいます」
「わかった。頼む」
リアルタイムで状況を把握出来る場所で様々な指揮を執らねばならぬ者や、各地からの連絡対応に追われる者を除き、ある程度動きやすいものを二名選出。モンスター討伐後の拠点獲得要員だ。責任ある立場の者が拠点を獲得出来るというのなら、行政の一翼を担う大臣は適任だろうと見送った。
作戦司令室へ入ると、全員が起立し、緊張の面持ちを見せた。
「ここにいる人間が緊張してどうする。現場に緊張が伝わったら元も子もないぞ」
「そう……ですな!」
「だが、適度な緊張は良いパフォーマンスを引き出すとも言う」
全員がその言葉にうなずき合う。
「さあ、やるぞ!」
「おう!」
あちこちからの情報が集約され、報告される。
「護衛艦あきづき、攻撃準備良し」
「陸自各班、予定地点にて待機中」
「空自、支援攻撃準備良し。まもなく離陸します」
◇ ◇ ◇
「おお!性別転換が使えるようになってる!」
相変わらず『一日一回』の条件がよくわからないが、すぐに転換。サイズが小さくなった靴を脱ぎ捨て、服は袖や裾を引き裂いてごまかす。
とりあえずこれで成海のことさえ何とか言いくるめれば今日はしのげる。明日は……時間をかけてじっくり説明すればいいか。
「司ちゃん!」
「司くん!」
「お、おう……って!うわっぷ!」
ステレオで聞こえてきた方を振り返ると同時に、寿の全力ダイブに吹っ飛ばされた。少しは手加減しろ。
「大丈夫だった?ご飯ちゃんと食べてた?怪我とかしてない?宿題やった?歯は磨いてる?」
「……」
矢継ぎ早にアレコレ聞かれるのだけれど……く……苦しい……し……死ぬ……
「アレ?司ちゃん?司ちゃん?」
「あ、あの……えっと……それ……首が絞まってません?」
「誰?って……あ」
「……寿姉は……元……気……そうだな……」
どうにか体を起こしたその横で、ゆっくりとドラゴンの死体が消えていく。そして、
「うん!……え……うあ……いいいいいっ!」
「な……に……こ……れっ!」
「っきゃああああ!目が!目が!」
「鼻!鼻が……何これ!鼻が辛いっ!」
「あー、うん。ここ、結構ひどいから離れようか……あとついでに顔洗って……って、シャワーで全身流した方がいいかな」
空中に漂い始めたカプサイシンで目が開けられなくなった二人の手を引き、ダッグアウトを抜けて、洗面台で顔を洗わせる。ゴーグルと防塵マスク付けっぱなしで良かった。
「うう……手に付いたのが痛い……」
「あっち、シャワールームだってさ」
「行ってくりゅ……」
「おう」
フラフラと歩いて行く成海を見送り、
「司ちゃんはお姉ちゃんと一緒に」
「行かないからな」
「ぶう」
寿の方も、全身に赤い粉が降りかかっているのでこちらも流した方がいいだろうとシャワーに行かせる。司は幸いな事に降り注ぐカプサイシンはすべて回避したが、着ている物を破いてしまっているので、適当に着替えよう。
次回、自衛隊vsボスモンスター




