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◇ ◇ ◇
「さて、今から移動開始……だけどその前にガチャを」
寿も仕度を終えて移動を開始するところ。雨も上がっており、今のうちに飛べば一時間と少しで司のところに着くだろう。だが、せっかくのガチャだ。確率の一番いいこのタイミングで四回全部回しておこう。
「一回目……★1、ポケットティッシュ」
アイテムボックスに山ほど入ってる気がする。誰が見てもハズレ。
「二回目……★3、高級和牛焼き肉セット」
全く役に立つ気がしない。
「三回目……★5!やったぁ……って、ユニークスキル……アイテム複製?」
説明を読んでみる。
『アイテムを複製出来るようになります。複製する元のアイテムと複製に使う材料が必要になります。作成後、材料は消滅しますが、使われなかった部分は残ります。複数回の複製が可能ですが、材料は複製する回数分必要になります。複製するアイテムの大きさや複雑さなどにより複製にかかる時間が変化します。アイテムボックス内でも複製は可能です』
「便利、なのかな?」
試してみないと詳細がわからないが、実はかなり便利……だと思う。
「最後は……★4!水中呼吸レベル5!……って、何これ?」
まさに何だこれ……だった。
『スキルが統合されました。呼吸可能な限界が「酸素残量」として確認出来るようになります』
今まで船の上でモンスターと戦ったりしたが、水中で戦ったりしたことはない。そして、今後も水中戦をする機会はないと思う。勝手な予想だけど。
そしてそもそも……
「私、呼吸してたっけ?」
機械の体は酸素を必要とするのだろうか?
「スン……スン……」
一応、呼吸というか……口と鼻から空気の出入りはある。試しに息を止めてみよう。
「む……」
十秒経過、特に何もなし。
三十秒経過、特に鍛えているわけでもないなら息苦しさを感じ始める頃だがなんともない。
一分経過、息を止める前に思い切り空気を吸い込んでいないとかなり苦しくなってくるはず。
五分経過。息をしないのが自然に感じるようになってきた。
「ぷは……」
息を止める、というのをやめると同時に少し息を吐いたが、なんというか……気分的なものっぽい。息を吐く必要性があったのかどうかすら疑問に感じる。
うん、今まで意識したことがなかったけど、この体は呼吸しなくても平気なようだ。
「なら、なんでこんなスキルが……」
もったいない。おまけにスキルが体に統合され、酸素残量なんて表示があるということは……ああ、あるなぁ。体の中に酸素ボンベと呼んで差し支えないものが追加されたような感覚がある。そして、酸素残量が0%から1%になっているということは、呼吸によって酸素ボンベに蓄えていくのだろう。
「使い道が思いつかない……」
少しだけ落ち込んで……「まあいいか」と立ち直る。ガチャという何が出るかわからないものをやっている以上、何が出てもおかしくない。それに、もしかしたら何か使い道があるかもしれないし。
「さて、司ちゃん、もうすぐお姉ちゃんが行くからね!」
幸いなことに雨は上がっているので、車を片付けるとペットボトルでガソリンをグイッとあおる。今朝は奮発してハイオクだ。
「行くわよ!」
おそらく一時間ほどでたどり着けるだろうと予想し、とりあえず再会したら何て声をかけようかと考えながら飛び立った。
◇ ◇ ◇
『……と言うように、我が国は人的に、そして物的にも非常な危機的状況に陥っており、その原因となるこの事象を引き起こした……ひっ』
武内大使がひと睨みすると一瞬発言を止める。
『その……えーと……あの……責任を……その……はい……えと……何でも無いです……以上です』
大使がそそくさと壇を下りていく姿を視線で追い続けているが、一歩ごとに顔色が悪くなっていくように見えるのは気のせいだろうか?
「威勢がいいのもこのあたりまでか?」
「そうでしょうね」
開会当初、野次を飛ばしていた連中もだいぶ大人しくなってきた。何か発言をする度に武内大使が睨み付けるからだが、七十近い老人に睨まれて二十代の若者が怯むというのも何とも情けない姿ではある。
『それでは次……』
事務総長が次を指名すると、恐る恐る壇上へ進んでいく。
「ニューヨークのスラム街の一角で若い連中をまとめている人物だそうです」
「ほう……」
「不法移民らしいんですけどね」
よく調べたものだと、休憩の間の武内大使の努力を称賛しておく。短い休憩の間に事務総長に面会を申し入れ、各国が自由に意見を述べる場を設けるべきだと進言し、比較的日本に批判的な意見を述べそうな国を前に持ってきた手腕はさすがという他ない。そして、もう少しマシなのを立たせろと国連には強く抗議したいが、今更か。
「最初の方は勢いよく日本を批判していましたが、そのたびに大使が睨みますからね」
「滅多なことは言えなくなっていくよな」
「そもそも根拠がない、デマもいいところってわかりきっているのに、いちいち口にするとか」
「喧嘩売ってるだけだって、気付くだけマシか」
武内大使は丸腰で総会に臨んでいるのだから、殺されたりはしないだろうに、彼らは発言の終わり頃になると銃を突きつけられて命乞いでもするかのような表情になって口ごもりながら壇を下りていく。この流れなら最後に日本が壇上に上がる頃には落ち着いた空気になっているだろう。
「事務総長も苦労人だな」
「まったくです」
「しかし、ここまでうまくまとめ上げたのはなかなかのモンだ」
就任時の演説で、先代事務総長が先々代に比べて無能すぎる、との批判が集中していたことを受けてか、「最も公平な事務総長として、最も公平な組織でありたい」と述べていたのだから、その面目躍如として最後まで頑張って欲しいところである。
◇ ◇ ◇
「さてと……ガチャをやるか」
「お、斉藤、いよいよやるか?」
「ああ」
トントンと目の前のガチャを操作していく。
「何回出来るんだ?」
「二回だな」
そしてランキング百位には入ってないので、ガチャ以外の選択肢もない。
「一回目……チッ」
「なんだこれ……ワイン?」
「★2の……俺も詳しく知らんが結構高いはずだぞ」
ここにいる四人は酒もタバコもやるが、一本数万のワインには縁がない。
「二回目……★4だ」
斉藤が小さくガッツポーズをしていたのを見た三人は「触れずにおこう」と視線で合図し合う。
「カード?」
「スキルだな」
斉藤が触れると同時に消えてしまったので、書かれていた内容は誰も読めなかった。
「どんなスキル?」
「そうだな……運のいい奴だけが生き残る、そんなスキルだ」
『ファンブル:一定の時間、特定の対象の行動がことごとく、運悪く失敗するようになる。使用スキルレベルと対象の「運」、試みた行動の難易度に応じて成功率が変動する。使用スキルレベルに応じてMP消費が増大する』
使いどころを間違えなければ、強力なスキルだろう。スキルポイントを突っ込む価値もありそうだ。




