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いつからガチャ回が安全だと錯覚していた?
「これも後回しにして……次どうぞ!」
「よし……ラスト、行くわよ!……★5、スキル進化チケット」
「これはもう……風の魔法と土の魔法を両方進化させるしか!」
そう言いながら司が自分のチケットを成海に差し出す。
「え……えっと……?え?これ?使う……の?」
「きっと役に立つからね」
確認していないが、進化していると言うことは火魔法よりも業火魔法、水魔法よりも氷結魔法の方が強いはず、多分。だから風と土も進化させた方が、これからのためにもいいだろうと言う、特に他意の無い行為だとわかるのだが、
(これ……称号が増えるパターンだわ……)
だが、成海としても、スキルが強くなるのは望むところ。称号なんて自分にしか見えないんだから、黙っていれば問題ない。誰にも言わずにそのまま墓の下まで持って行けばいいと開き直る。女は度胸、黒歴史の一つや二つ、増えたところでどうって事はないのよ!
「よし……じゃあ、スキル進化チケットで……風魔法を進化!」
『風魔法が進化して風雷魔法1になります。最初に風雷魔法の獲得をしました。称号『雷鳴の魔女』を獲得しました』
「っきゃああああああ!!」
「うわっとぉっ!」
またしても成海がゴロゴロと転がり出したが、どうしたというのだ。まさか純粋な魔法スキルは進化すると体に激痛が走るとかそういう何かがあるのだろうか?
「はあっ……はあっ……」
「成海さん、大丈夫?」
「な、何とか……うん」
どうにか気を強く持って、もう一枚のチケットを手に取る。
「スキル進化チケットで……土魔法を進化!」
『土魔法が進化して岩石魔法1になります。最初に岩石魔法の獲得をしました。称号『断崖の魔女』を獲得しました』
「うわああああああっ!」
「うひゃあああっ!」
やはり、スキル進化は体に良くないのだろうか?改めて考えてみると、こんなスキルなんてものは今までの人類が持った事の無い特殊能力のハズ。いくつもの魔法スキルを持ったり強化したりというのが体に悪影響を及ぼす可能性は否定出来ない。
『『紅蓮の魔女』『氷雪の魔女』『雷鳴の魔女』『断崖の魔女』を獲得しました。称号『原初の魔女』を獲得しました』
「はうっ!」
「成海さんっ!」
バタリ、と成海が倒れたので慌てて駆け寄る。うつろな目をして何かを呟いているが、なんと言っているのかわからない。
「成海さんっ!成海さんっ!」
軽く頬をペチペチとやったらようやくこちらを見た。
「うう……だ、大丈夫。ちょっと……その……びっくりしただけだから」
「そ、そう?」
「そうよ。だって、いきなり魔法スキルがどーんと揃ったんだもの……ね?」
「それならいいんだけど」
ペットボトルから一口飲んでどうにか落ち着いたようなので、司が最後のガチャにかかる。
「えいっと……★5……何だ、これ?」
「黒いノート?」
「どこがレアなんだ?」
黒い表紙に白字で何か書いてある。
「あ、もしかして、名前を書いたら書かれた人が死ぬ……とか」
「そんないい物出るかな……えーと……黒歴史ノート」
「え?何それ」
表紙をめくると普通の罫線が引かれたノートだが、表紙の裏側に説明が書かれていた。
「えーと……うわ、なんだこれ」
『黒歴史を見たい相手の顔を思い浮かべながら名前を書くと、その人物の黒歴史が浮かび上がる。
浮かび上がった項目の後ろに「詳細」と書くと、その詳細が追加で浮かび上がる。
さらに黒歴史にしたい事項を書き込むと、その人物の黒歴史に追加される』
「黒歴史を書いたノートじゃなくて、黒歴史を見ることが出来るノートかよ!ってうわっと!」
何かを感じ取って思わず後ろに飛び退くと、ノートを奪い損ねた姿勢で完全に目の据わった成海が「チッ」と舌打ちしていた。
「成海……さん?」
「司ちゃん……そのノートをこっちに渡して」
「どうしてですか?」
「危険だからよ」
「え?なんで?」
司は……中二病に罹患しそうだった頃、寿が色々とやらかしていた反動で、意外にも平凡に過ごしていたので、黒歴史と言えそうなのは先ほど追加された『幻の藤咲司』と言う称号くらい。そして、幸いなことに寿のお陰で中二病の免疫は持っているのでどうにか耐えている……そうか。
「成海さん……ひょっとして何か過去に……?」
「無いわ。だけど、そういうものを未成年が持っちゃいけないと思うのよ」
「どうして?」
「ほら、個人情報、プライバシー……ね?」
「あ、うん……まあ、それはそうだけど」
「わかったならほら、こっちに渡して、ね?」
おかしいな。何もないならそんなに必死になる必要は無いと思うんだが。
◇ ◇ ◇
「護衛艦あきづき、作戦予定地点で投錨、攻撃準備中」
「陸自各部隊、予定地点への展開完了」
「避難所からの移動は完了しています」
「周囲に住民が残っていないかの確認中ですが、こちらは強制できませんので、あと三十分ほどで完了とし、引き上げさせます」
「空自、支援攻撃の出撃準備中。各機体へのミサイル搭載及び機体最終チェック完了まで三十分。完了次第滑走路にて待機します」
国連緊急総会は一度休憩に入ったので再開を待つ間、自衛隊による二つのタワーに陣取ったモンスター討伐作戦の進行確認に入る。なお、総会が再開したときには参加出来ている各国の代表――まともな大使や外交官は三割程度しかいない――がそれぞれの意見を述べるという地獄の時間が待っているので、永遠に休憩時間のままでもいいのにと、誰もが思っている。
「あきづきのミサイルへのデータセットは?」
「順調です。一番から六番をこちらの巨大ゴリラへ、七番から十番を巨大な繭へ。予定時刻通りに発射可能となります」
頼もしい返事だが、事が事なだけに不安が拭いきれない。
「巨大ゴリラへの攻撃詳細を再確認しようか」
「はい。六発のミサイルは三発ずつ、左右から攻撃にかかります。六発全てが同時に目標に到達予定。上下左右六発ですから、あの化け物が音速で腕を振り回すでもない限り、四発以上は命中すると思われます」
なんだかフラグがいっぱい立ったような気がするが、それを口にしたらフラグが確定するので黙っておく。
「また、命中直前のタイミングで陸自の一〇式戦車による一斉砲撃も行います。爆煙による目くらましにはなるかと」
「倒し切れていなかったと判明した場合、空自の戦闘機からミサイルによる追加攻撃を行います」
「よし。次はあの繭の方だが……ミサイルであの硬そうな繭は破れるのか?」
「事前に陸自の部隊が接近し、自動小銃による攻撃を試みたところ、銃弾の貫通を確認しております」
「それなら大丈夫だな」
実際には貫通した弾丸がタワーの鉄骨にあたって不規則に跳ね返り、現場が慌てたらしいが、それはまあいいだろう。
「こちらは五発のミサイルを同じ場所に、二秒間隔で狙い、繭の貫通と中のサナギの破壊を試みます」
「こちらも上空でミサイル追撃のため戦闘機を旋回させておきます」
最初のミサイルは繭を破ればそれでいい。その後のミサイルで中身を破壊。それでも足りなければ、という作戦だ。
「攻撃予定まであと一時間半と少しか……細心の注意を払って進めてくれ」
「はっ」
日本の歴史上、いや、世界の歴史でも初めての、クジラよりも巨大で、野生のライオンやシャチなどよりも遥かに獰猛で攻撃的な相手に対する軍事力による攻撃が、まもなく始まる。
一応、いつも通り、土曜と祝日更新出来そうです。




