(14)
七月一日、やっと終わります。
◇ ◇ ◇
「うわあ……」
「あれ、どうやったら中に入れるのかしら?」
ドーム球場近くまで来て道路を挟んだショッピングモールの駐車場から入り口付近を眺めてみると、道路を渡る二本の歩道橋の袂にワイバーンがそれぞれ待ち構えている。距離的にもワイバーンのサイズ的にも、どちらかに誰かが現れたらもう一方もやって来て二頭同時に襲われるのだろう。
「ドラゴンと戦う前にワイバーンと二連戦とか無理ゲーだろ、常識的に考えて……とならない予感がする」
「あはははは……」
見つからないようにそっと離れる。
「さて、とりあえず……モールの中でメシにして寝るか」
「そうね」
明日の朝八時を過ぎたらガチャ実行。それでどうなるか。状況によっては諦めるが……という行き当たりばったりだが、まあ仕方ない。
「そうだ、一つ……その、なんだ。勝手な憶測でいいんだけど」
「何?」
「ミッドDドラゴンってボスモンスターについて」
「うん」
「今まで見てきたボスモンスターって、アンデッド系とかゴーレムみたいのを除けば、何て言うか……生き物だったよね?」
「んー、そうね。地球で普通に見かける生き物ではないけれど、生き物ね」
「と言うことは、腹が減れば食うし眠くなれば寝る」
「生き物の三大欲求ね」
「うん」
「私はいつでも準備できてるわ!」
「何の準備かは聞かないでおきます」
ガクリと項垂れる成海を余所に続ける。
「なら、ミッドDドラゴンって、名前はともかく……ファンタジー的な意味では普通のドラゴンだよな」
「多分ね……ボスモンスターだから何か特殊能力とかもってそうだけど」
「と言うことは」
「あ、何かまた悪いことを思いついた顔」
「今まで悪いことを思いついた事はないと思うんだけど……まあ、作戦を一つ。うまく行く保証はないけど、準備だけしておこうかなと」
「何か手伝う?」
「いや、一人で大丈夫、というか一人でやらないと危ないかも」
「え?……って何を始める気?」
司がアイテムボックスから防護服に防塵マスクにゴーグル、分厚いゴム手袋を出しているのを見て成海がやや、いやかなり引く。
「大して手間はかからないけど……危険物?」
「なんだかわからないけど……大丈夫?」
「毒とか火薬を使うわけじゃないよ」
「任せるわ。気をつけて」
一通り身につけるとスタスタと出ていき、向かいのテナントの奥へ座り込み何かを始めたのをあきれた感じで見つめる。
「はあ……寝よっと」
明日は朝からガチャをやって、ワイバーンを倒して……結構盛りだくさんだ。
◇ ◇ ◇
「疲れたぁ……」
寝るためにミニバンを出し、ゴロンと横になる。
歩くと言うだけでも疲れるのだが、それ以上に元人間を避けようとした結果、天下分け目の合戦場跡地を通るルートになってしまい、アンデッドモンスターの群れを率いた二体の巨大なアンデッドモンスターと戦う羽目になってしまった。しかもどういうわけか……一方のボスを倒したらもう一方のボスとその配下が歓声を上げて飛びついてきた。攻撃的に襲うのでは無く、英雄を讃えるかのように。とは言え、見た目が見た目なのですぐに攻撃し、全滅させた。途中から数えるのをやめてしまったが……
「経験値の上がり具合から言って……千はいたかな……うん」
特にダメージは負っていないが、着ている物はズタボロ。そのまま寝るのは少し抵抗があるので着替えてから寝る。
藤咲寿 レベル21 (6202/21000)
HP 24052/24052
MP 1/1
力:7000
魔力: 6
素早さ:1500
頑丈:7000
運: 7
スキルポイント:22
スキル
アイテムボックス レベル10
機械化体・改
飛行 レベル1
身体武装化 レベル5
探知 レベル10
なお、通りがかりに見つけた拠点を奪回しても、触れずにそのままアイテムボックスに回収しているため、領主スキルの獲得には至っておらず、スキル構成にも変化が無いのだが……本人は別に困っていない。
司までの距離は五十キロを切っているが、雨が降っているので空をいけず、暗くなった中を歩いて行くほど急いでもいないので、このまま休むことにする。このまま進んでいって、そのまま添い寝コースもいいのだが、そこは明日の夜の楽しみにしておこう。
「明日は晴れるといいな」
雨さえ上がれば、飛んですぐの距離。六月一日以降、一度も天気予報が報じられなくなっているので、明日の天気がわからないのは意外に不便だなと、いつもは「天気予報なんて当たらない」と文句を言っていたのを棚に上げて少しだけ愚痴ってから眠る。
区切りよく切った結果、微妙な文字数になってしまったので……本日は2話更新します!
次話……「チベットスナギツネで書き始める章があってもいいと思う」




