(10)
七月一日はまだ終わらない……
◇ ◇ ◇
「おりゃあっ!」
「ていっ!」
小雨の降り出した中、二本の金属バットが振るわれ、ガシャン!とそれを砕き割った。
『ボスモンスターの討伐を確認しました。拠点を奪回しました』
ガラス屋根の屋根で有名な公園のボスは……水晶で出来たスケルトンだったが、頭の前後からタイミングを合わせて金属バットを叩き付けたら粉々になった。
「透明だけど、雨降ってると見つけやすいな、コイツ」
「雨が降ってて良かったわ」
雨が降っていなかったらプ○デター並みに見つけづらかったろうが、小雨の水滴のお陰でその姿ははっきりと見えて戦いやすかった。
「ちなみに名前は……クリスタル○ングスケルトンだそうです」
「世紀末なアニメの主題歌がうまそうだな」
そして、その近くにはあまり触れたくない物があるのだが……
「どうする?」
「どうせなら、また同時に触ってみる……?」
「じゃ、一、二の三、で」
「ええ」
「一、二の「三!」
『拠点を獲&%#$¥*+獲(*|~<した』
こうして、また二つに分かれて不思議な回転を始めたそれは、アイテムボックスに回収された。
「なんかもう……全部アイテムボックスに回収でいいような気がしてきた」
「あははは……ついでに全部同時に触っていくとか?」
「いいねぇ……さ、次行くぞ!あっち、なんかいい感じの名前の広場になってるみたいだから、きっとなんかいる!」
「おかしいわね……ボスモンスターって、気軽に狩れるものなのかしら」
「成海さん、気にしたら負け!」
成海が気にしているのはボスモンスターのことよりも……恐ろしい勢いで上がっていくレベルの方なのだが。
「いた!」
「何あれ?!」
直径二十メートルの噴水の上に女性の像が仁王立ちで構えており、サッと腕を振り上げると、周囲にいたコウモリの羽根のついたモンスターが一斉に襲いかかっている。
「えーと、ガーゴイル」
「大丈夫!バットで叩いたら壊れたから!」
「金属バット無双ね!」
お互いのバットが当たらない距離を保ちながら振り回すだけで気持ちいいくらいに砕けていく。だが、簡単なようで手を止めるわけに行かないという、実に大変な戦い方でもある。何しろボスモンスターが次々召喚しているので、
「キリがないな……レベルが上がるからいいけどっ!」
「あれは……ブロンズゴーレム……ゴーレムって作った人の命令を聞くだけのモンスターだと思ってたんだけどっ!」
「ここにファンタジーの常識は通用しない……ってねっ!」
「五秒頑張って。瞬間移動でたたき壊すわ!」
「了解!」
数秒後、金属バットにクリティカルを乗せるとブロンズ像も一撃でたたき壊せることが証明されたが、比較的どうでもいい情報でもある。
◇ ◇ ◇
「うう……雨のバカバカバカッ!」
結局雨雲の上までは飛べず、地上移動に切り替えたのだが、予想通り酷い状態でなかなか進めない。アイテムボックスに回収して……というのも考えたが、死体やらなんやらが入っているのはさすがに躊躇われ、ごちゃごちゃに車が積み上がっている間を抜けていくより他にない。
だが、雨雲にしてみれば、寿にバカと言われる筋合いはない。
商店街のアーケードに入るとスマホを取り出して、現在位置を確認。そして、
「これ……司ちゃんの書き込みかな?」
珍しく、ニュースサイトが更新されており、『政府からのお知らせ』というのが載っていた。そこには、ネットの掲示板に書き込まれたガチャの裏仕様について説明されていた。内容は、以前司が言っていた、最初のガチャの確率変動とほぼ同じ内容で、実際に寿のガチャ説明画面でも確認出来た。
「んー、どうしようかな」
寿のガチャ回数は五回。さて、どうしたものかと首を捻る。レアリティの高いもの=役に立つ、とは限らないが、レアリティの低いものはだいたいが日用品やちょっとした食料で、アイテムボックスの中に大量に確保してある。つまり、★1や★2などもらっても困る物ばかりだろう。
こう言うとき、司と連絡が取れれば、良い相談相手になるのだが。
「ん?ここにも……?」
方角と距離を地図に照らし合わせて、司の現在位置をほぼ特定したので探知は通常モード。そして、近くの建物内に元人間の反応がある。
ここまでの間でも数回、民家から元人間が飛び出してきたのを撃退しているのだが、明らかにモンスターとは違う動きをしてくるし、元は人間、ということもあって正直なところあまり戦いたくはない。
――来る!
右側からは塀を乗り越えて、左側からはトラックの下から這い出して、ほぼ同時に頭と足を鋭い爪で攻撃してくる。
が、そもそもそんな爪程度ではまともな傷など付くはずもなく、あっさりと撃退してしまう。それでも一応攻撃を避けるのはいちいち着ているものが切り裂かれるのを防ぐためである。あまり人の目のない状況とは言え、サービスをするつもりはない。
「はあ……まだこんなのが続くのかな……」
何よりも皮肉なことは、この元人間も倒すと経験値が入ると言うこと。しかも結構大量に。モンスターを倒すよりも多いというのは何という皮肉だろうか。
そして、
「ランキングの二位……司ちゃんのレベルが上がるのについてくみたいなペースで上がってる……このあかはたなるみって人……何かあるわね……」
げに恐ろしきは女の勘。
「でも……司ちゃんがお姉ちゃん以外を見るなんて、ないよね!」
だいぶ拗らせているという自覚は、もちろんない。
◇ ◇ ◇
「ハクション!」
「司ちゃん、風邪?」
「いや、いきなり風邪は引かないと思うけど……」
でもなぜか寒気を感じる。本能が恐怖を訴えているような寒気だが。
二人がいるのは大通り公園の端の近くのビルの一室。ここまでの間に倒したボスモンスターの数は十。手に入れた拠点コアは十個……いや全部二個に分かれていたから二十個か?そして十個目の拠点獲得により……
『最初に拠点を十@*?+;得しま&%~<(”!』
と言うことで、開拓者スキルがなぜか十に上がった。そして同時に、
『最初に開拓者*`?{」なりま@@?>#”)』
ということで開拓者スキルが消え、『村長』に進化していた。文字化けしすぎてよくわからんが。
スキルの説明文にあまり変化が見られないので、多分広さが変わって、誰か他の人が住めるようになるとか、生産量が増えるとかだろうが、何しろ拠点コアを全部アイテムボックスに入れてしまっているから変化があったとしてもわからないだろう。それに、取り出すとなんか起こりそうで怖いので放置している。
「このペースで行けばミッドDドラゴンのクエスト?ミッション?行けるかな……」
「そうねえ……」
「案一:そのまま放置。ミッションは失敗となる」
「却下ね。アイテムボックスに入ってる拠点コアが問題を引き起こしそう」
「だよなあ」
「アイテムボックスの中にボスモンスターが現れるとかしたらどうなるのかしら?」
「いきなり外に飛び出すか」
「中で死ぬ?あ、それだと倒す手間が省けていいかも」
「ボスモンスターの一生ってそれでいいのか?……案二:ミッドDドラゴンは放置するが、時間ギリギリで拠点コアを外に出す」
「それも却下。案一と同じく、何が起こるかわかったモンじゃないし」
「だよな。コアを出した瞬間に何か起きそう」
「十個がきれいに整列して、何かの形になるとかだったらカッコいいかも」
「それ、多分ボス召喚陣とかになりそうだぞ。で……案三:ミッドDドラゴンと戦う」
「まだ無理じゃない?私が少し魔法を使える程度で基本的には接近戦主体でしょう?」
「そうなんだよな」
今のところ金属バットが無敵なのだが、ドラゴンを金属バットで討伐したというファンタジーに覚えがない。と言うか、金属バットで倒したりなんかしたら……先人たちが築き上げてきたファンタジーのイメージに喧嘩売ってるようにしか思えないんだが。
いよいよ発売日が近づいてきました。
発売当日は仕事が入ってしまっているので……翌日にでも書店に様子を見に行ってみようかと。
 




