(9)
祝!百話!……ですが、やらかしました。
◇ ◇ ◇
「あそこだ!タワー!」
「少しモンスターが多いな、片付けろ!」
斉藤の言葉に中井がハンドルを巧みに切り、モンスターへの体当たりを繰り返すが、少し数が多い。
「魔法で援護をしろっ!」
「MPがっ……」
「こう言うときのために回復薬を取っておいただろ!」
「そ、そうだけど」
「今使わなくていつ使うんだよ!」
「くそっ!」
村上と落合が最初のガチャで出てから温存していた回復薬をチビチビやりながら魔法を撃ち始める。少し飲むだけでも効果があるというのはありがたい仕様だ。
「よし、あそこで止めろ」
「おう!」
斉藤の指示する位置で中井が車をスピンさせ、助手席側をタワーに向けてハンドルを切り、軽くスピンしながら止まる。
「っとと……よし、やるぞ」
「やるって……何を?」
「このタワーを倒す!」
「「は?」」
「いや、ボスモンスターを倒すんじゃないのか?」
「よく考えろお前ら!この状態のタワーを登れるか?」
チラホラ見えるだけでも相当数のモンスターがいるように見える。実際に中に入ったらもっといるだろう。
「おそらくというか、お約束というか……ボスはこのタワーのてっぺんにいる」
「そうだな」
「お約束は大事だよな」
「だが、俺でもあんなモンスターまみれの中、無事に登り切る自信はねえよ!」
「じゃ、どうするんだよ!」
「タワーを倒せば……めでたく地上戦だろうが!」
そう言い放つなり窓から左手を出し、地面に掌を向ける。
「おりゃっ!」
「斉藤?」
「地面を……消す!」
「え?」
どんなに頑丈に建てられた建物でも、地面が消えれば倒れる。簡単な理屈だ。このタワーの設計をした連中がどれほど天才だとしても、地面が消えても立ってられるような設計など出来るはずも無い。
「いや……地面って……消せるのか?」
「さすがにこの量を消すのは時間がかかるがな!」
だが、言うだけのことはあり、車から数メートル離れたあたりのアスファルトが明らかに変色し、おかしな色の煙も立ち上っている。
「ぐ……おおおおっ!」
「斉藤、少しマズい。囲まれ始めている」
「わかった、離れろ。俺も少し休む」
中井が車を出し、モンスターから距離を取る。
「思った以上にキツいな……だが、手応えはある」
「マジか……ほれ」
「おう」
中井から回復薬を受け取り、蓋を開ける。これで手持ちの回復薬は全て使い切った。
「もう一度行け!次で倒す!」
「わかった。頼むぜ!」
「おう!任せろ!」
◇ ◇ ◇
「各地の……迎撃場所からの情報が揃ってきました」
「聞こうか」
「全国の人数合計は……その……五十三万人を少し超える人数が該当しました……」
「まあ、予想はしていたが……な」
「それと……名乗り出なかった者による被害も報告されています」
「そうか」
「避難所全体の四割程度で数名ずつと言う単位ですが、全体では……二万名ほどでした。先ほどの数字に加算してあります」
「避難所全体の被害状況は?」
「死傷者が数十万規模。こちらはまだ収拾がついておりません」
「そう……か」
話を聞きながら総理ら数名がランキング表示を見る。昨日までは分母が四十億を越えていたのだが、現在三十五億を下回り、その減少が止まる様子がない。
「おそらく……現時点で深夜となっている地域で……だろうな」
「あるいはあの映像を見ても、何の対策も取らなかった……か」
「それにしたってコレは多すぎないか?」
「多分……避難所として使っている場所に問題があるのだろう」
「場所ですか?」
「そうだ。我が国の場合、ほとんどの避難所が小中学校か、自衛隊の駐屯地だ。言うまでも無いが自衛隊の駐屯地の建物はタダの四角い箱。小中学校も一部を除けばタダの箱だ。だが、海外の場合……小中学校もかなりの歴史のある建物が使われ続けたりしていて、街のシンボルみたいになっているところもある。それに、教会のような場所を避難所にしている国も多いだろう」
「そうか、異形となる者をそこから移動させても……拠点になってしまう」
「異形が出ないから安心と思いきや、ボスモンスターが配下を引き連れて現れたらひとたまりも無いな」
「ついでに推測だが、歴史の重みの分だけ強いモンスターが出そうだ」
今後の対応を海外と連携して薦めていくのは難しそうだな、と全員が頭を抱えるしかなかった。
「それと……琵琶湖近くの避難所からの連絡です。例の……ドラゴン、じゃないワイバーンの件で」
「うむ」
「ゆるいキャラクターで有名な城が……消し飛んだと。こちら、慌てて警察官が撮影した写真です」
「なるほどな……消し飛んだ……爆撃機みたいなものだな」
「避難所でその様子を見ていた警察官によると……その直後の『お知らせ』を見て、異形を瞬殺してくれた少女が慌てて飛び出していったと?」
「うん?もう少し状況を詳しく……異形を瞬殺した……少女?」
報告に上がっていた通り、避難所での出来事が話された。
「容姿などの特徴から、おそらく藤咲司の姉、藤咲寿かと思われます」
「あの両親が世界最強の娘と言っていたが……本当だったのか?」
「ええ。その避難所では全部で五名……その、異形が出てしまったのですが、少女が突如空から飛んできて」
「空から、ね……」
「五分とかからずに全て倒した、と」
「本当に最強かもな……で、どっち方面に行ったと?」
「名古屋方向に、と。何の迷いもなく一直線に向かったそうですので、あの両親の話と合わせると、本当に藤咲司の居場所がわかっていると思われます」
「なるほどな」
「それと……名古屋市に現れた方ですが」
「うむ」
「周囲のモンスターが多すぎて近づけないそうです」
「そうか」
周囲で聞いていた者から「あの辺、拠点になりそうな場所が多そうだからな」という呟きが聞こえてきた。地図で見ると、なるほどと納得できる場所だ。
「ですが、遠隔で確認出来た防犯カメラなどの映像を……おい、出してくれ」
「はい」
プロジェクターが無理矢理拡大したせいでぼやけている映像を映し出した。ちょうどワイバーンがタワーを吹き飛ばした瞬間の映像だ。
「怪獣映画のワンシーンだな。この手の特撮が得意な制作会社が会社をたたみそうだ」
「実際に起こってることですからリアリティが違いますね……っと、これです。ここを見て下さい」
映像を止め、タワーのすぐ下、ビルの隙間から見える位置を指す。
「ぼやけていてよくわかりませんが、人が走っています、誰かを抱えて」
「それで?」
「四、五秒でビルの陰に消えてしまうのですが……よく見て下さい」
映像が動き出し、数秒で姿が見えなくなる。
「走ってたな」
「ええ……ざっくりとした計算ですが……時速五十キロ以上、もしかしたら六十キロは出ていると」
「え?」
「ちなみに陸上百メートルの記録でトップスピードが四十五キロ弱ですよ」
そう言われてもう一度映像を見ると、確かにすごく速く見える。
「これが藤咲司……か?」
「おそらく。先ほどの姉の向かった先ですし」
「ランキング一位……レベルが突き抜けるとここまですごくなるのか」
「そこは何とも。ただ、おそらくタワーにいたであろうボスモンスターを倒しているでしょう。そして驚異的なレベルアップを」
「何とか接触して、色々と聞き出したいところだな」
おそらく、ランキング上位ならではの視点と考え方があるだろう。そしてそれは、他の者にとっても有用性が高い可能性がある。
そんなことを考えていたところに一人飛び込んできた。
「総理!これを!」
「何だ?」
「ネット掲示板の書き込みですが……ガチャの当選確率が時間経過で変動するという情報が書き込まれています」
「何だと?」
プロジェクターに映し出された内容に一同が見入る。
「これは……」
「藤咲司の両親が話していた、最初のガチャの時の確率変動に似ていますね」
「最初のガチャで全部★5をとった……これは……」
「多分……本人による書き込みではないかと」
「可能な限り情報を広めろ!この情報は信憑性が高い。ガチャが出来る者は全員これを読んで、説明文があるのか確認をするようにと!海外にも可能な限り発信するんだ!」
書籍発売まであと十日を切りました。
そして、記念すべき百話なのに……主人公がいないじゃ無いか……と言うやらかしです。
前話の感想欄に対する答え
成海のステータス、八十八話を見ていただくと……魔力に元々+6が入ってます。




