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41:忠誠

「おぉ! シャルロット王女様!」


 床に倒れこんでいる騎士のひとりが声を上げる。


「シャルロット王女様、ご無事でしたか!」


 最初の声に続いて、一階にいる負傷した騎士達が次々と声を上げ、階段の上にいるシャーリーと自分に視線を向け始めた。ほんのついさっきまで、苦痛で顔を歪めていたはずなのに、シャーリーの姿を見て誰もが安堵したような表情を見せている。


 シャーリーも自分と同じように、沢山の騎士が血を流し倒れている光景を直視する事が出来なかったのか、歓声に背を向けたままだった。


 下の騒ぎに動じず、ゆっくりとリフィアが階段を降りていく……。


 騎士達の歓喜の声はさらに大きくなり、涙を流す人も現れ始め騒然としてくる。負傷した中でも動ける者達は、身体を引き摺りながら階段の下に集まりだす。


「貴方達! まだ動いてはいけません! 回復が終わるまでお待ちなさい!」

「シャルロット王女様が驚いてございます。皆様、どうかお下がりくださいませ」


 階段前に二十人くらいの騎士が集まり、シャーリーを出迎えようとしていた。一階の奥からメリリアとリリアの嗜める声が聞こえる。騎士達は、二人の声に反論する様子もなく、シャーリーの姿を見てから頭を下げ、大人しく元居た場所へ移動していった。


「リフィア! 何故ここに連れてきたのですか!」


 メリリアが、奥の方から速足でこちらに向かってくる。明らかに怒ってますよね……リフィアに向けられた言葉が、他人ごとに感じられず、思わず背筋が伸びてしまった。


「シャルロット王女様、アリシア様。こちらは殿方が多くおり物騒でございますので、別室へご案内いたします。どうぞ、こちらへ」


 少し髪が乱れているメリリア。いつもの真っ白なエプロンには、ところどころ黒い染みや泥が付いていて、自分達が来るまで負傷した騎士達の介抱していたのだろう。


 メリリアの姿を見て、騎士達の治療の邪魔をしてしまったと気づき、居た堪れなくなり下を向き視線が合わせられなかった。


まだ一度も入った事のないお父様の書斎に、メリリアが案内してくれると、そこには、お父様と叔父様、お母様がいた。


「おぉ! シャルロット王女様、ご無事で何よりです」

「一時はどうなる事かと思いましたが、怪我も無いようで何よりでございますぞ」


 叔父様は自分達を見るや、笑顔で迎えてくれる。お父様も続けてシャーリーの無事な姿を見て声を上げた。


「奥様、申し訳ございません。シャルロット王女様とアリシア様がお目覚めになられまして、こちらにお連れいたしました」


 メリリアはお母様の前で跪き、自分達がここにいる理由を説明する。こんな大事になっているとは思っていなかった自分は、お母様の様子を上目で覗き込むように伺った。


「メリリア、リフィア、ありがとう。ここに来た騎士達もシャルロット王女様の姿を見て、喜ばしく思った事でしょう。気が高まれば治療も上手くいきますし、良い判断でしたよ」


 お母様は、メリリアの肩にそっと触れてから、自分達の前に立った。


「シャルロット王女様、サントブリュッセルの勇敢な騎士達の姿はご覧になられましたか? 皆、王様や王妃様、そしてシャルロット王女様のために命懸けで戦われましたのよ。王女様のお姿で、皆の痛みは和らいだ事でしょう。治療を受け持つ私からも御礼を言わせていただきます」


 優しく諭すようにお母様は、シャーリーに言葉をかける。


「わたくしのすがたで、みんなげんきになったのですか?」


 お母様の言葉を耳にしたシャーリーは、リフィアから身体を離して、ゆっくりと振り向く。まだ、周りを少し警戒している様子だが、お母様が微笑んで見せると、強張った顔がすこし和らいだかのように映った。


「ええ、騎士道に生きるサントブリュッセル者達にとって、身を挺して主君をお守するのは至極当然でございます。王女様の無事なお姿を見て、彼等は使命を全う出来たと、喜びに打ちひしがれた事でしょう」


 シャーリーはお母様の言葉に、いまひとつピンときていないようで、不思議そうな顔を見せている。


 まぁ、そんな反応になるよね……騎士団との主従関係や忠誠心なんて、年端もいかない子供が理解できるとは思えませんし。お母様は、なかなか難しい話を、シャーリーにされますね。


 シャーリーは大丈夫かな? と、横目で様子を見ると、少しまごまごしながらお母様に顔を向けた。


「ユステア。わたくしは、きしたちになにもしてあげられません。それなのに……どうして……」


 眉を下げ困惑した表情を見せるシャーリー。潤んだ瞳から、涙が零れそうになっていた。彼女なりに、お母様や騎士達の行動に応えようと頑張っているのだ。その健気な様子に、自分は心を打たれた。


 シャーリーは、本当に芯の強い子なんだな。さすが、次代の王様ですよ……。


「シャルロット王女様、今はまだ全てを理解する必要はございませんのよ。王様や王妃様、その周りの人達を良く見て学ばれるとよいですわ。ゆっくりと歳を重ねていった時に、初めて気付く事ができますの」


 身を投げうち大怪我をしてでも、自分を守ろうとしてくれた人達。何故、彼等は王女様に献身的な行いができるのか。シャーリー、いや、シャルロット王女様がそれに気付いて、自分らしい報い方が見つかるといいね。


 応援するよ、シャーリー! 強くて優しい子だ……気付くのも時間の問題なんじゃないかな?


 お母様とシャーリーを横で見ながら、小さく拳を握って熱い視線を向けた。


 ――お父様の書斎でしばらく留まり、事態の説明を聞かされる。


 宮殿から離れたうちの家まで、王様や負傷した騎士が運び込まれた理由を知り愕然とした。自分達が宮殿を出た後、追いかけるように戦火は広がっていき、隣接する貴族街も無事では済まなかった。


 他のお屋敷より護りが強固な自分の家と、叔父様の家は、門の上部がちょっと壊れたくらいで、目に見える被害は少なかったらしい。他の屋敷では、完全に消失したところもあり、いまだ被害の全容は把握できていないようです。


 騎士団の先頭に立ち指揮を執っていた王様も、黒い靄相手では、無傷とはいかなかった。大事には至らなかったそうで、今は、お父様の寝室で眠っている。


 容態を確認するために、王様が眠る部屋に皆んなで入ると、王妃様が迎えてくれた。


 王妃様が言うには、お母様の回復魔法と薬が効いたらしく、布団に入ると直ぐに眠ったそうだ。このまま安静にしていれば、数日後には完全回復するそうです。


 それを聞いたシャーリーは、涙を流して王妃様に抱きつき喜びの声を上げた。部屋に入った時は、静かに眠る王様の姿を見て、死んじゃったのかと取り乱したけど、王妃様の説明を聞くうちに生きている事を理解し、少しずつ落ち着いていった。


 白い顔で寝ていたら、早とちりしてしまう気持ちは分かりますけどね……。


 自分も、王様が死んじゃった? っと、一瞬思っちゃいましたから。


「シャルロット、ユステアに御礼を言わなくてはいけませんね」

「ユステアさま、おとうさまをすくってくださり、ありがとうぞんじます。このごおんは、わたくし、しょうがいわすれません」


 王妃様に促され、シャーリーは、お母様の前に立ち御礼を告げる。父親を救ってくれた事に恩を感じたのか、シャーリーはお母様に敬称を付けるようになっていた。


 シャーリーと会って、まだ日も浅いのにどんどん成長していく……。環境の変化で、人は急激な成長を遂げると言うけど、まさに今なのか? と、思ったけど、シャーリーはまだまだ幼子だ。歳相応の成長に過ぎない……と、思う事にした。


 お姉様や、メリリア、リリア達が懸命に騎士に手当てをしている中で、お母様と王妃様も加わり、次々と治療をしていく。夕食の時間を少し過ぎた頃には、一部の重傷者を残して、歩けるまで回復できたそうだ。


お父様と叔父様の指示で、回復できた騎士は任務継続か休息の何れかを選ばせ、解散していった。


 全滅したと聞いていた王様専属の近衛兵は、三人が生存。だけど、何れも重症で身動きすら出来ない状態だそうです。身辺警護に不安があるという事で、お父様とランドグリスお兄様、エルグレスお兄様が臨時で王様の側に就く事になった。王様は、容態が安定するまで我が家からは移動ができない。


王妃様とシャーリーは、しばらく我が家で過ごす事になった。


 シャーリーと一緒の生活! と、一瞬思ったけど、あまり喜ばしい状況ではないので、浮ついた気持ちは黙って心の隅に閉まっておく。


 実際、王妃様とシャーリーは王様の看病に付きっ切りだったので、同じ家にいるのだけど、ほとんど顔を合わせる事もなく数日が過ぎていった。


 この数日の間、我が家は事態の収拾を行う拠点と化してしまい、家の中も外も慌ただしく、急な来客の対応に追われる。もともと、必要最低限の執事やメイドしかいないので、側使えが不足しているため、自分はほとんど部屋から出られなかったのだ……。


 ――眠ったままの王様は看病の甲斐もあり、四日後には意識が戻り、翌日には自分達の前に威厳のある姿で現れた。


「ディオス、ユステア、此度も力を貸してくれて助かった。其方等の受けた数々の恩は、最早返しきれないほどであるな。何か望みがあれば、我に相談すると良い。数少ない恩を返せる機会として、存分に力を尽くさせてもらおう」

「勿体ないお言葉です、サントブリュッセル王。臣下として当然の事でございますので、お心使いだけいただきます」


 お父様が王様に跪き言葉を返すと、お母様は少し膝を曲げ、頭を下げて会釈した。お姉様も自分も、それに続いて、王様に頭を下げて見せる。


「相変わらず、欲の少ない者達だな。以前より欲しがっておった貴重な情報を、我は幾つか得ておる。宮殿に戻り次第、其方に知らせようぞ。たいした足しにもならぬが受け取ってくれ」


 ほぇー、王様を使って情報収集ですか。そう言えば、祈念式の後にいろいろ手分けして集めようって話してましたよね。その類の情報かな? でも、ユグドゥラシルの芽吹かせ方なら既に知っているから、何の情報何だろう……気になります。


 二人の会話に興味深げに聞いていると、シャーリーが自分の前に立ち、そのまま手を取った。


「アリシア、あなたのおちちうえ、ははうえ、あねうえとみなりっぱなかたですのね。わたくし、あなたとともだちになれて、うれしくおもいますわ。これからも、なかよくしてくださいね」


 ニコッと微笑むシャーリー。その笑顔が物凄く眩しく、思わず頬が紅くなるのを覚える。なっ、なんてキラキラした目で自分を見るのですか、シャーリー! 


自分も、凛々しく成長していく貴女が友達で良かったと思ってますよ!


「わたくしも、シャーリーとともだちでうれしいです!」


 シャーリーと、友達の誓いを確かめるように交わし合い、笑顔を向け合った。


「ディオス、今回の被害状況について良くまとめてくれた。全ての報告に目を通し、状況は把握した。我等同志の魂を弔いは、明日で問題ないか?」


 厳しい表情に変わる王様。お父様はその視線を正面から向き合い、口を開いた。


「手筈は整っております、サントブリュッセル王。夏場ともあり、腐敗が進んでおりますので、急ぐ必要がございました。親族には最後の別れを行うよう、通達済みでございます」


 側で話を聞いている王妃様やお母様、お姉様は少し俯き眉を下げている。


王様とお父様の話は、葬式の段取りなのだろう……。沢山の人が被害に合った事は自分も理解しているつもりだ。お母様達でも救えなかった命。何の力にもなれなかった自分は、せめて、彼等が無事に最上神の下へ行けるように弔おうと思った。


亡くなった人達にも家族がいる……その事を考え始めた時、自分の胸にズキッと強い痛みが走る。

野戦病院と化したアリシア家。

お母様達の介抱もあり多くの騎士が救われたようです。

でも、被害の希望は……救えなかった命に心痛める

アリシアちゃん……ちょっと様子がおかしい?


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