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36:礼拝堂地下

 シャーリーと手を取り、ジェーンに案内され宮殿の中を歩く。


 宮殿の広い廊下を歩いていると、威厳たっぷりの高貴そうな人物画が所々に掲げられている。何となく、綺麗な女性エルフの肖像画に目を向けると、シャーリーが手を引っ張って教えてくれた。


「このひとは、わたくしのおおおばさまで、ここにきゅうでんをつくったひとですのよ」


 描かれている女性は、人間の年齢で例えると三十代くらいかな。すこし、お婆様と雰囲気が似ている気がしますね。まぁ、皆んな始祖様が造った分身みたいなものだから、似ていてもおかしくないか。


 血を辿れば、シャーリーとも遠い親戚のはず。どのくらい遠いのかは、自分では分かりませんけどね。


 王妃様やお母様から離れて、二人だけの足で宮殿探索を続ける。


 あっちこっちと置かれた彫刻や絵画、置物に触れたり話したりと、寄り道して進んで行く。


 リンナとリーシャも参加して、「あれは何でしょう?」とか「これは何でしょうね、アリシア様」と話かけてくる。さすが、自分の事を理解してくれている二人です。彼女達の示す方へ視線を向けると、好奇心がくすぐられ、思わず短い脚で、てっ、てっ、てっと、駆け寄り、シャーリーに手招きして説明を求めた。


 その様子を、二人は笑顔で見守ってくれているが、ジェーンだけは、何故か焦っている様子だ。まだ午後を過ぎて、夕食の時間までには余裕があるはずだけど、どうしたのかね?


「おっ、姫様、アリシア様。そろそろ先へ向かわれませんか? 日が暮れては遊べなくなりますので……」

「そうですの? それでしたら、またあしたでもよろしくてよ?」

「いっ、あ、その……はい……でも、とてもたのしいところですので、ぜひ。」


 いつもより歯切れの良くない口調のジェーンを見て、シャーリーと目を合わせる。うーん、ジェーンがそこまで見せたいのであれば、早く行ってあげた方がいいよね。せっかく、自分達のために案内してくれるのだし。


「シャーリー、ジェーンのおかげで、ここであそべますし、いきましょう」

「そうね、わかりましたわ。では、あんないをつづけてちょうだい」


 シャーリーの言葉を聞いたジェーンは、ホッと胸を撫で降ろした。このまま、自分達の脚で歩き続けると、あっちこっちと寄り道しかねないので、自分はリンナに抱っこされ、シャーリーはリーシャに抱っこされて移動した。


 目的の場所に着くまで、リーシャから魔族の習慣や特徴、食べ物の話を語って聞かせてもらった。魔族の特徴であるツノは、百年周期で抜けて生え変わるとか、ツノを研いで整えるお店があるとか面白そうな話があった。食べ物は、エルフ族や人族と変らないそうだが、香辛料が発達していて酸味や辛味の強い料理があるとか。


 リーシャは甘い物が好きらしく、我が家で出されるデザートをたいそう気に入っていると教えてくれた。うんうん、確かに甘いものが得意じゃなかった自分が、今や、平然と美味しく食べているくらいだ。生粋の女の子であるリーシャが、虜になってしまうのも仕方がないですね!


「まぁ、そんなに、アリシアのかていでだされるおしょくじが、おいしいのですか? わたくしのところで、もっとおいしいものをだしてさしあげますの!」


 シャーリーの負けず嫌いが発動したようで、探検が終わった後にご馳走したいと言い出した。これ、また皆んなが大慌てになるパターンだ……。


「シャーリー、いまはジェーンしかいないから、あとで、おうひさまときめましょう」


 そう、「大人の許しをちゃんと得よう!」と、遠巻きに伝えてみたけど、シャーリーが理解できたのかは不明だ。このままわがまま言い放題だと、この先、もっと振り回されそうでよろしくないですよ……。

 

 だけど、彼女は自分の言葉を聞き入れる様子もなく、今まで食べたデザートで美味しいかった物を、リーシャに語り続けていた。

 

 次から次へとデザートの名前が出てくる……。いやはや、同い年なのに良くそんなに覚えていられるなぁと、感心してしまった。自分、中身大人の癖に、食べた料理の名前を憶えてませんよ。いちいち長いから覚えるのは無理です! 


とりあえず、シャーリーの機嫌を損ねて、この場で癇癪を起されると宥める手立てがない。そのまま止めずに、語らせておくことにした。


 しばらく宮殿の廊下を歩き、教会の礼拝堂のような雰囲気の部屋に入る。どことなく、ユグドゥラシルの祭壇の部屋を感じさせる装飾と、彫像が置かれていた。


「ユグドゥラシルとおなじにみえますね、リンナはしっているの?」

「こちらは、それを模して造られているようです。王族の皆さんが、お祈りをする際に使われるのではないかと思います」


 リンナの言葉に、聞き耳を立てていたシャーリーだが、何故か関心を示している。礼拝堂の中に視線を巡らせている様子から、彼女もここに来たのは初めてなのかも?


 ジェーンが祭壇の真下へ手招きすると、そこには地下へ続く螺旋階段が見えた。階段には赤い絨毯も敷かれていて、魔道具の灯りで照らされている。神聖な雰囲気を感じるけど、行って大丈夫なところなのだろうか……と、疑問に思った。


「ここにはいってもいいの?」

「はい、アリシア様。こちらは、ユグドゥラシル様から譲り受けた、法具が祀られている部屋に続く階段でございます。宮殿で働く者は、毎朝こちらでお祈りを捧げておりますので、危険な場所ではございませんよ」


 なるほどね、ユグドゥラシルの祭壇に似ているのも納得ですよ。王族だけじゃなくて、働く人もここで始祖様に祈っているって事か……早く元に戻してあげないといけないよなぁ……。そう思ったら、胸のあたりがチクりと痛んだ。祈念式の帰りに大精霊様に合ってから、何も進展してない。さすがに、このままじゃいけないよねと目的を思い出し、戻ってからお父様とお母様に確認しようと決めた。


 いや、別に大精霊様から来るって言ってたもんで……。


 心の中で言い訳しながら、リンナに抱かれながら階段を降りて行った。


 ――どのくらい降りたのかは分からないけど、上を眺めると礼拝堂の天井がまだ小さく見える。


「ジェーン、ずいぶんとしたまでいきますのね。まいにち、ここにくるのはたいへんでしょう?」

「いえ、ユグドゥラシル様に直接声が届けられると思えば、この程度で根を上げる者はございませんよ」


 うーん、自分もシャーリーも現時点で、自力で降りろと言われたら無理と言ってしまうかも。信仰心ってすごいよなぁ……現世からその類には無関心だったから、気持ちを理解するのは難しそうです。


「姫様、アリシア様、こちらのお部屋でございます」


 ジェーンが金属製の扉を開けると、そこには石で囲われた広い部屋だった。


 奥に視線を向けると……はぃ? ええ? どうして?


「シャルロット、アリシア。随分と遅かったですわね。何か面白い物でも見つけましたか?」


 最奥に設けられている祭壇の前に、王妃様とお母様、お姉様までいてこちらを見ています。どうしてここに、皆んながいるの? さんざん寄り道してたから、先にここにくるのは容易ですけど……そもそも、ここに来るなんて、自分も知らなかったし、連れて来たジェーンしか分からないはずですよ?


「おかあさま!」


 シャーリーと自分の声が重なり、驚きの声を上げてしまいました。


「ふふ、アリシアちゃん。宮殿探索を楽しめたようですね。シャルロット王女様と仲良くできたようで、お母さん嬉しいですわ」


 お母様が頬に手を当てて、いつもの笑顔で自分を見てくる。シャーリーも自分も、口を開いたまま、お母様達を見つめ返した。


「ど、どうして……ここに……。そっ、そんな……」

「ジェーン。全ては、ユステアの手の内ですのよ。ご覧なさい、あの者達を。稚拙な企みなど通用しませんの」


 王妃様が視線を向けた場所には、レオナール叔父様とエルグレスお兄様がいる。いやいや、いつの間にここに? お母様達に目が行き過ぎて、周りが全然見れてませんでしたが……よくよく冷静に辺りを見渡すと、あちこちにボッコリと穴が空いてたり、柱が崩れ落ちて瓦礫が積まれていたり、おおよそ宮殿の一部とは思えない荒れ具合です。おまけに、瓦礫の側には人が倒れているではありあせんか……。


 一瞬、祈念式の惨状が脳裏を横切る。ここで、叔父様やお母様達と敵対する何かと戦闘行為が行われていた。そう確信するしかない光景に、言葉も出ず唾を飲み込んだ。


「ユステア、この者達は騎士団で処理をする。報告は後ほどアンヌ王妃様の御前で」

「叔父様、ありがとう存じます。そこのメイドは、私、聞きたい事がございますので、残しておいてくださいまし」

「うむ、あまり過激にならぬ事を祈る」


 叔父様とお兄様、そして数人騎士達は、倒れて気絶している人達を縄で縛り、引き摺りながら部屋を出ていった。


 シャーリーも自分も、事情がまったく呑み込めない。あっけに取られ、ただただ皆んなを見ているだけだった。後ろにいるジェーンを見ると、ここに来るまでに見せていた笑顔もなく、血の気が引いたように青ざめていた。


「ジェーン、だいじょうぶ? いきなりのことで、ぐあいわるくなっちゃった?」


 心配に思いジェーンに声をかけるが、何の反応も彼女は示さない。彼女に視線を向け様子を伺っていると、自分達が引き離れていっているのが分かった。


 ちょ、ジェーンが一人になっちゃいますよ!


「リンナ、どうして?」

「アリシアちゃん、ジェーンとお話したい事がありますの。すこし下がっていてくださいね」


 お母様がすれ違い様に自分に声をかけると、ジェーンとの間に立ち塞がる。


「シャルロット王女様、アリシアちゃん、こちらにどうぞ」


 お姉様の誘いに促され側に寄る。自分達が側に来たことを確認すると、お姉様は全身に魔力を纏わせ自分達を囲うように魔法防壁を張り巡らせた。


「ここからは、何が合っても出てはいけませんよ。良いですか?」


 シャーリーも自分も、この異常な空気に言葉を失い、お姉様に黙って頷いてみせる。


「ジェーン、そのような顔をしなくとも良いのですよ。貴女のご家族でしたら、騎士団が既に保護いたしましたわ。もう、あの者達に従わなくてもよろしいのよ。ありのままを私達に話すのであれば、貴女とご家族の命は保証いたします」


 お母様は優しくジェーンに語りかける。ジェーンは全てを察したのか、肩を落とし膝から崩れてお母様の前に跪いた。


「ユステア様は、全てご存じだったのですね……私の家族を救ってくださってありがとう存じます。知る限りの事情をご説明させていただきます」

「私に、知らない事はございませんのよ。たとえ、この閉ざされた宮殿であっても」

「まぁ、ユステアの怖いこと。私の事も筒抜けですのね、ふふふ」


 ジェーンが観念した事で、お母様も王妃様も緊張から解かれたように笑い合っている。

 その間に挟まれているジェーンは、何かに開放されたのか、静かに泣いていた。


「この、この役立たず共がぁぁぁ! しぃねぇぇ! すべてしぬぅがよいわぁ!」


 突然、大きな声が頭上から聞こえ、身体がビクッと震える。隣にいるシャーリーに視線を向けると、急な状況変化に困惑していただけの表情から、恐怖で引き攣った顔に変っていた。


「おっ、おねえさま! シャーリーのようすが!」


 シャーリーの歯がカチカチと音を立て、身体が震えている。思わずお姉様に助けを求めたが、その声をかき消すように、再び怒声が部屋に響き渡った。


「ユグドゥラシルのクッソどもがぁ、どこまでも邪魔をしてくるわ! 穢れた国の末裔もろとも、ここで纏めて滅ぶぇぇ!」

「ひぃぃ、いやぁぁ、いやぁぁ! おがあざまぁ」


 シャーリーが言葉にならない悲鳴をあげ、リーシャにもたれ掛かったと思えば、口から泡を吹いて気絶してしまった。リンナに急ぎ側に駆け寄ってもらい、彼女の容態を確認する。抱えるリーシャが言うには、ただの気絶なので、命には影響がないと教えてくれたので、ひとまずホッとした。シャーリーの取り乱し様は尋常ではない。あの声が、全ての元凶だと自分は悟り、頭上の声に怒りが込み上げてきた。


「ゆるせない。こんなちいさいこをまきこむなんて」


唇をギュッと噛み、怒りの感情で心が占められていく。


 部屋の中に響き割った声が止むと、ドッと、頭上から一瞬ピカッと眩い光が発せられた。間髪入れずに、光の先からお姉様の魔法防壁に向かって、何かが伸し掛かってくる。ギュッギュッと、魔法防壁から音がするが、お姉様は平然としているので、たいした事ではないのだろう。


「ふふ、アリシアちゃん。私も成長してますのよ。それよりも、王妃様とお母様ですわ。あちらの方が、魔力の高い攻撃を受けてますから……」


 お姉様の心配する言葉に、自分も不安に駆られ、お母様達がいる方へ視線を向けた。

ジェーンの企みはお母様にはお見通し!

と思ったら? 黒幕登場? 果たしてその正体は?

そして、アリシアちゃんは何かを忘れているようですが……。


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