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023:ぜんぶ転移者のせい

シーモペの様子です

 色とりどり、形もさまざま、シーモぺのお店の中には所狭しとブラジャー、パンツ、コルセット、ネグリジェが並んでいる。


 その中には、身体のどこに付ける物なのか? と思うような物もあった。


 下着の世界も奥が深い……ようです。


 直視できない物に囲まれ、顔から手がどかせられない状況に変わりはない。


 全身から噴き出る妙な汗と、下半身の湿り気に気持ちの悪さを感じた。


 お母様に連れられて入った試着室では、五人の従業員らしき女性が待っている。


 彼女達の前には、ブラジャーとパンツが並べられている。さらに、壁に沿って透け感のある服を着たマネキンも置かれていた。


 自分の知っている試着室とは、全く様子が異なるのだ。


 仕切りや、外の視界を遮るカーテンもない、遮蔽物の無い開けた空間。


 ここで、どうやって試着をするのだろうか……。


 そんな疑問が脳裏に過った。


「ようこそ、シーモペへお越しくださいました、ユステア様、フレイ様。毎年お越しいただき、感謝の限りでございます。本日は、特別なデザインもご用意しておりますので、ゆっくりお楽しみください。」


 一人の女性エルフが、お母様とママ母様の前に一歩出て、挨拶をする。


 下着を扱うお店だからという訳でもないだろうけど、どの従業員エルフもスタイルも顔を整っていて、モデルのように凛とした雰囲気があった。


「リュース、ありがとう。今日は、この子に似合う物もお願いしますわ」

「ユステア様、ご安心ください。こちらにご用意させていただいております」


 お母様と会話する従業員エルフさんは、リュースさんですね。覚えました!


 リュースさんが腕を広げて示す方向には……自分用の下着が並んでいるわけですか……。


 あまり興味はないのですけど、顔をいつまでも隠している訳にもいかず、手をどかして指し示す方向へ視線を向ける。


「まぁ、可愛らしいこと。フレイ、見てくださいまし。アリシアちゃんに早く着せてみたいですわ」

「どれもアリシアに似合いそうですわ、ユステア。私、あのフリルが付いたショーツが良いと思いますの」


 ママ母様が指で示すパンツを見て、自分は言葉を無くした。


 お子様用とは言え、ウエスト付近にレースとフリルがあしらわれ、ちょっと上品な雰囲気が感じられるピンク色のパンツだ。


 今、自分が履いているズボンみたいなドロワースとは形状が異なり、お母様達が履いているパンツと同型の物になる。


 あれを履く日が、今日訪れるとは予想もしていない。


 おまけに妙に可愛らしい装いです。


 なんとか、履かずに済む方法は無いのだろうか……そんな事に、頭をフル回転させた。


 お母様から離れて、ひとりでお店を出る事も適わない。


 頼りのお姉様も、試着室に入っているので探し出すのは困難だ。


 お父様を呼ぼうにも、男性がここに来られるとは到底思えない。


 あまり良い考えは何一つ出てこず、途方に暮れた。


 打開策を、何とかここを抜け出す方法を……。


「ユステア様、フレイ様には、こちらから順にご案内させていただきますので、お気に召した物がございましたら、お申し付けください」


 リュースさんは、お母様達にそう伝えると、控えている従業員エルフ達に、テーブルの上に置かれた下着を一点ずつ持って来させた。


 お母様達は、自分の様子には特に気にせず、次から次へとリュースさんの指示で披露される、ブラジャーやパンツ、コルセットを見て歓声を上げている。


 シンプルなデザインの物から、フリルやレースがアクセントとして付いた物、総レース仕立てのパンツや、穴が空いているセクシーな物まで、多種多様なのだ。


「こちらは、下着革命を提唱した創設者、リビングショーツ・ル・コータロー氏のデザインを再現した、特別仕様のランジェリーでございます」

 

 リュースさんの言葉に、お母様とママ母様の目がキラリと輝きを見せる。


 この一品は、今までの見せ方と違いリュースさんが手を振って合図をすると、部屋のドアが開き、ガウンを纏った女性エルフが部屋に入ってきた。

 

 銀色のロングヘアーに、赤いルージュが何ともセクシーな感じの女性がしずしずと前に出てくる。


「では、ご覧ください。これはかつてコータロー氏が、生涯の愛を誓った際に贈ったランジェリーでございます!」


 リュースさんがそう告げると、ガウンを着たエルフが、腰ひもを解きガウンをバッとはだけさせる。


 いや、ちょ、何でこんなに沢山の人がいる前で!


 見てはいけないと思い、手で顔を覆い隠す。


 初対面のエルフさんが露になる光景に、すこし落ち着きを取り戻していた心臓が、再び強く脈を打ち始めた。


 もう、ここにいるのがツライです。


 いつまで自分は、ここにいないといけないのですか。


 悲嘆に暮れている自分とは対照に、お母様とママ母様が「まぁ」とか「うーん」と歓声と唸りの声を上げている。


「いかがでしょう。こちらは下着の下部、クロッチと言われる部分が開閉する仕様になっております。さらに、お尻部分は全てレースで仕上げておりますので、肌の色と合わせる事でより女性の魅力を引き立てております」


 あぁ、うん、リュースさんの言葉で、どのような仕様の下着か分かりましたよ……。


 あれです、忘年会とかの景品でおふざけに入れるエロ下着ですね。という事は、ブラジャーも透けてるんだろうよ。


 そんな下着を前にしても、お母様とママ母様は忌避感もなく感心しているのは、どういう訳でしょうか。普通だったら、キャーとか不潔とか、そんな反応じゃないの? 


 これは自分の考えが、そもそも間違っているからなのだろか。


 お母様もママ母様も旦那がいるから、逆に関心が深くなる?


 うーん、ここはお母様達の反応を見て、知っておいた方が良いかもしれませんね……。


 自分は、下着には目を向けず、お母様とママ母様の表情や話に少し興味が沸き、視線と耳を傾け始めた。


 それと、もうひとつ気になったのは、創設者の名前がコータロー? 日本人の名前っぽい気がする。名前の前がかなりふざけているが、この世界の人達に意味が通じているのかな? なんだよ生きるパンツって……ふざけてんのか?


 くぅ……この世界に、自分のいた世界の物が流通している上に、女性の注目を浴びているなんて。


 この事態は想定外ですよ。


 いい迷惑じゃないですか!


 この後も、ランジェリーショーは延々と続き、自分の心はどんどん荒んでいった――。


「ユステア様、フレイ様、本日はこちらで全てになります。この後、ご昼食は如何なさいましょうか?」

「そうですわね、それでは続きは昼食後にいたしましょう。フレイ、よろしくて?」


 ショーで披露された下着類が、部屋に訪れた時よりも増えている。


 目の前に置かれた物を、指の間から眺め見て、溜息が零れた。


 こんな量の下着を、生まれてこの方見た事ありませんよ。


 これの中から試着を始めたら、何時になったら開放されるのだろうか。


 幸いな事に、一旦外に出られるようだし、その隙に対策を……。


 しばし思いつめていると、お母様が心配な顔で自分を見る。


「アリシアちゃん、ごめんなさいね。お母さん達ばかり楽しんでしまって。午後はアリシアちゃんのために、いっぱい時間を取りますから許してくださいまし」


 自分を気にしてくれてありがとうございます! ですが、「自分は履きたいと思ってませんので、気にしなくていいですよ! お母様!」と言いたい言葉を飲み込み、首を横に振るだけに留めた。


 こういう他人の気分を下げるような事を、不用意に言ってはいけない……お母様もママ母様も、お洒落を楽しんでいるのだからね……。


 お母様とママ母様、メリリアは、披露された下着から幾つかを試着されるようで、リュースさんと話をしている。まず下着への感想を告げ、その後「これが素敵ですわね」「私はこれとこれの色違いで」と、思い思いにリュースさんに依頼をかけているようだ。


 このやり取りだけで、さらに時間が過ぎていく……しばらくして、お姉様とリリアも部屋に来て、さらに下着談義が賑わってしまった。


 お姉様とリリアも、お眼鏡にかなった下着が選べたのか、嬉しそうな表情をしている。


 なんだか、自分だけ取り残されている気がしますよ。


 自分がまっとうな女性であれば、あの中に加わる事もできたのだけど……この意識が、少しだけ呪わしく感じてしまう。


 ――お母様達の試着着が決まったところで、一旦お店を後にしました。

 

 気疲れで、神経はごっそり削れてしまったので、お母様のお乳を飲んでゆっくりしたいです。


 お母様に抱かれながら、胸を触りおねだりを試みる。


 移動中に行儀の悪い話かもしれないけど、今は余り気持ちに余裕が無いのだ。


「アリシアちゃん、もう少しお待ちになってくださいね。お店では、お利巧でしたね。馬車に戻ってゆっくりしましょうね」


 お母様は、そう告げて少し早歩きで馬車へ向かってくれた。


 馬車に入ってからは、直ぐにおっぱいにはありつけない。既に、おむつが破裂しかけているのだ。


「いっぱいちっち出てますねーアリシアちゃん。もう少ししたら、おしっこの練習もしていきましょうね。今日は、そのために可愛い下着を買いますのよー。楽しみですねー」


 おむつを替えるお母様は、上機嫌で自分に語り掛けてきます。


 なるほど、おしっこトレーニングのためにですか……であれば、このままおむつでも……と思ったが、それはそれで良くないな……。


 難しい選択を感じながら、お母様には笑顔を返しておいた。


 いつかは、パンツを履いた生活になる。


 だが、今はまだ心構えが出来ていないのだ。


 お母様のお乳をいただきながら、いかにあのパンツ達と向き合うべきか思考を巡らせた。


 お腹が少し膨れるくらいにお乳をいただき、皆んなでお昼を食べに向かう。


 昼食のお店もお洒落な外観で、中も清潔な感じです。


 このシャルードゥアの街は、行った事はないけどフランスのパリのような雰囲気だ。


 これも、あのふざけた名前のコータローって奴の影響なのだろうか。


「こちらの魚介クリームパスタが美味しいのですよ。アリシアちゃんも、少し召し上がってみましょう」


 あぁ、パスタですって。この言葉をこの世界で聞いたのは初ですね。


 やっぱり、自分がいた世界の誰かが伝えたのだろう……料理にも影響されているようです。


 と、言う事は、もしかして白米とかお味噌汁とか豚汁にも出会える可能性がある?


 コータローのパンツには、かなり打ちのめされたけど、米との出会いに期待で胸が膨らみ笑みが零れた。


 試しに、お母様とママ母様に、コメという物があるか聞いてみたけど、知らないようです。

 

 米という名前で周知されていない可能性もある。


 料理や食材に詳しい人がいれば、聞いてみようと心に誓った。


 パスタも、ちょっと自分が食べていた料理と、味は多少違う感じがする。使っている食材や調味料の違いなのだろう。だけど、これはこれで、美味しくいただけ幸せな気分になれました。


「メリリア、夏のお洋服も取りに伺わないといけませんね。そちらは問題ないかしら?」

「はい、奥様。そちら一式は、午後にシーモぺへ届けるように伝えてございます。試着はそちらで行えますので、ご安心ください」

「流石ですわね、メリリア。ありがとう存じます。フレイ、この後はシャルリズに寄ってからシモーペへ行こうと思いますの」


 何時にもまして笑顔で、この先の予定を決めるお母様。


 普段では見られない光景に、嬉しくも感じるのだけど、全て女性物の衣類である事を感じた自分は憂鬱だった。


「ユステア、シモーペで試着した後は、ワコーラにも行きましょう。あちらでコルセットを新調したいですの」

「ええ、もちろんですわ、フレイ。私もこの機会に新調しようかしら。少し身体を元に戻したいですもの」


 お母様とママ母様のお買い物は……まだまだ続くようです……。


 何時まで続くのか分からない状況に不安を感じながら、瞼が徐々に落ち意識が途切れていく。


 あっ、もう電池切れみたいです自分。


 そのまま、意識が切れる事に喜びを感じながら、眠りについた。

お母様達の買い物は終わりがない!

ついに……アリシアちゃんはパンツを履く!?

シーモペでの戦いに終わりはあるのだろうか……。


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