020:悲しい男達
グレイお兄様達、怒られる?
メリリアがお茶やお菓子をワゴンに片付け始める。
その間、お姉様と黙ったまま屋敷の玄関に視線を向けた。
お父様が怒りを見せていた事に、不安を感じたからだ。
お兄様達に連れていかれたグレイお兄様……一体何をしでかしたのだろう。
これまで感じた事のない、波動? いや、お姉様が言うには魔力か。
あんな薄気味悪い魔力を発してたなんて……今、思い出しても寒気がする。皆んなが慌てて止めるくらいだ、その力は結構な物なのかもしれない。
三歳か四歳くらいのグレイお兄様が、使える力なのか正直疑問に感じた。
メリリアが支度を終えたので、お姉様と屋敷へ向かう。
その途中、屋敷の扉が揺れているかと思うほどの、怒声が聞こえてきた。
「お前達は一体何を見ていたのだ! この馬鹿者どもが!」
その声の主は、お父様ではなくレオナール叔父様の声だった。
叔父様も、お父様並みに良く響く声をしているようです。怒られているのは、グレイお兄様に向けてというより、ランドグリスお兄様とエルグレスお兄様に向けて発せられています。
その怒声を耳にして、グレイお兄様の事が少し心配になった自分は、駆けだそうとした。
けれど、お姉様は自分の顔を覗き見て首を横に振り、自分の手を強く握って離そうとしない。
「おねえさま……」
「行ってはなりませんの。私達が行って、どうにかなる話ではないのです」
「でも……グレイおにいさまがしんぱいです」
お姉様は、グッと自分の手を引いて、身体を寄せてきた。
「優しいのね、アリシアちゃん。お父様や叔父様の話が終わってから、グレイの様子を一緒に見に行きましょう。今は、大人達の話が終わるまで、待たないといけませんの。分かってくださいまし」
優しい声色で自分に語り掛けるお姉様。
そのまま、自分はお姉様の腕にしっかりと抱かれた。
「アリシア様、エルステア様の仰る通りでございます。ここは、一先ず様子を見るべきでしょう」
メリリアもお姉様の意見に同調している。
確かに、自分が行っても話に加わる事すらできないだろう。でも、側に居てあげれば、少しは心強さも感じるのかなと思ったのだけど……。
二人の真剣に見つめてくる表情から察するに、グレイお兄様の引き起こした事が、自分が考える以上に大事であると理解した。
このまま返事をしないと、いつまでもお姉様は腕を離してくれなさそうです。
お姉様に抱かれて幸せなので、この状況でも良いんですけどね。
「おねえさま、メリリア、ごめんなさい。わたくし、わかりました。あとでゆっくりグレイおにいさまと話をします」
「ありがとう、アリシアちゃん。分かってくれて嬉しいですわ」
自分の言葉に、お姉様もメリリアも安心したようで、顔から緊張が解けたようです。
グレイお兄様達が、叔父様に強烈に叱られている言葉に耳を塞いで、お母様の居る部屋へ向かった。
叔父様も怒らせると……やっぱり怖いのだ……。
――夕食の時間まで、王都へ向かう日程を確認した。
遅くとも、明後日にはママ母様と一緒にここを出発する。本当に、今回は寄っただけって感じですね。
王都の領地に入った際に、数件寄るところがあるそうなので、ちょっと迂回して行くみたいです。
うーん、また変な寄り道して、別の大精霊様といきなり遭遇しちゃうって事が無ければいいけど……。
ちょっと、そこだけが不安ですよ。
「アリシアちゃん、今回は、夏の特別なお洋服を、引き取りに行くだけですのよ。エルステアもアリシアもきっと喜んでくれると思いますの」
自分の心配は、お母様の言葉でかき消されました。夏の特別な? そんな服がこの世界にはあるんですね……もしかして、空冷付きの服とか? いや、この世界であれば、ひんやりする素材とか、魔道具とかありそうだし、そういう方向ではないか。
「お母様、夏の特別なお洋服というのは何でしょう。私、初めて耳にいたしましたわ」
「ふふふ、エルステア。それは着いてからのお楽しみですのよ。私も、フレイもメリリアも皆んなの分を用意してますのよ。殿方のもございますから、お父さんも叔父様の容姿も、涼しく感じられますわね」
ほほー、皆んな夏のお洋服になるのですか。
マッチョなお父様と叔父様が涼しく感じられるって、全然想像がつきませんけど。
確かに、もう暑いのに男性陣は、皆んなちょっと厚いそうな服を着ている。家の中では、お父様もすこしラフに、シャツ一枚の時もあるけど、外ではビシッと正装なのだ。
不思議な事に、誰も汗をダラダラと垂らしていない。
何か特殊な素材なのか、そういう訓練を受けているのか……エルフはそもそも熱さに強いとか?
うん、全く分かりませんね。自分は、めっぽう汗をかいてしまうので、エルフが熱さに強いというのはないのかもしれない。
数日後には、夏の特別なお洋服っていう物が何か分かるし、楽しみしておこう!
「おかあさま、なつのおようふくたのしみです!」
「アリシアちゃんには、小さい子向けの特別仕様ですのよ。楽しみにしていてくださいまし」
お母様は、物凄く良い笑顔を自分に向けてくれる。特別仕様の服って何ですか?
お母様の言葉に、ますます期待が膨らんでしまったよ……とは言え、女性物の服なんだよね……。
ちょっと、複雑な気持ちが出てくるのも否めないです。
――夕食の席に呼ばれると、グレイお兄様はいなかった。
叔父様の後に続いて部屋に入ってきたのは、ランドグリスお兄様とエルグレスお兄様だけです。
ママ母様は、グレイお兄様に付き添っているそうで、同席されないみたいだ。
せっかく一緒に食べられる機会だったのに、残念です。
夕食前まで、お兄様達は叱られていたはずだけど、落ち込んでいる雰囲気も無く、昨日お会いした際に見せた笑顔でこちらを見ている。
叔父様は、少しだけ疲れた様子が見えてけれど、表情は穏やかだった。
グレイお兄様の事を聞いてはいけない……そんな雰囲気だけは何となく感じる。
自分も笑顔を作り、叔父様達へ微笑み返した。
夕食の席では、エルグレスお兄様が少しご機嫌です。昨日、着く直前にお母様に付けていただいた、贈り物のリボンの髪飾りを見て嬉しかったみたいだ。
王都には、もっと沢山の髪飾りがあるそうで、「エルステアとアリシアには、一度案内したい」と、まで言ってくれた。
自分は、そこまで関心はないけど、お姉様は結構嬉しそうにしている。
「ありがとう存じます。エルグレスお兄様。王都の街を周るのが楽しみですわ」
うんうん、そういう反応だよね女の子って。
愛想は大事だね。ちょっと見習いましょうか自分。
上機嫌になエルグレスお兄様と対照的に、ランドグリスお兄様はちょっと不満気な表情です。
「エルグレス、其方、抜け駆けはズルいのではないか? では、俺も、エルステアとアリシアが喜びそうな場所へ案内してやろう」
張り合う様に、ランドグリスお兄様も、どこかへ連れていってくれるようです。
まさかの騎士の練習場じゃないよね……若干、脳筋っぽいから心配だなぁ。
「ランドグリス、騎士団に連れて行くのであれば、それはディオス様が予約済みだぞ。他を考えておくのだな」
「なっ? そんな話は聞いてなかったが……」
ははは、本当に騎士団に連れて行くつもりだったんですね。
うん、自分、ランドグリスお兄様の思考が読めるようですよ。あんまり嬉しい話じゃないけど。
「ランドグリス。エルグレスの話は真であるぞ。我が、エルステアとアリシアを案内しようと思っていたのだ。すまぬな、其の方、他を案内してやってくれ」
「はっ! ディオス様! 素晴らしい場所へご案内させていただきます!」
お父様の声に、ランドグリスお兄様は畏まった返事を返す。その顔からは笑顔は消えていました。
エルグレスお兄様が教えて行かなかったら、直前で慌てた事でしょうし、先に分かって良かったと思いますよ。
とは言え、ちょっとダメージを受けてたのか、しょんぼりしているランドグリスお兄様。
自分達を、王都でもてなしてくれる気持ちはありがたい。
その気持ちを汲み取って、ちょっと首を傾け笑顔で視線を送った。
「らんどぐりすおにいさま、たのしみにしていますね!」
「あぁ! 俺に任せておけ。其方等には、王都で一番楽しい所を案内して進ぜよう!」
ランドグリスお兄様は、あっという間に表情が笑顔に変わり、自信満々にドンッと胸を叩いて返事を返してくれました。
変わり身が早くて、声を掛けた甲斐がありましたよ。
全然知らない王都ですし、いろんな所を巡ってみたいもんね。
お姉様にも、王都での生活の期待を分かち合いたいと思い、視線を送った。
「王都で生活している、お兄様方に案内いただけるなんて光栄ですわ。ありがとう存じます」
笑顔でお兄様達に視線を送るお姉様は、そのままこちらにも笑顔を向けてくれる。
「アリシアちゃん、いろんな所を一緒に周りましょうね」
「はい! おねえさまといっしょにいきたいです」
ランドグリスお兄様は、食事の後にエルグレスお兄様を呼んで早々に部屋を後にした。
どうやら、自分達をどこに案内したら良いのか相談するようですよ。
食事中にぶつぶつ、闘技場はどうだとか、夜の酒場はどうとか、ギルドがと、聞こえてくる候補地が、明らかに未成年が行っていいのか微妙な場所ばかりだったし。
叔父様が見かねて、「エルグレスと相談してから決めろ」と、言ってくれなかったら……どこに連れていかれたか……危ないところでした。
「ユステア、エルステア、アリシア。この後、談話室を借りてある。そちらへ来てもらいたい」
お兄様達が退室した後、お父様がちょっと真剣な顔で話し掛けてきた。
お父様に促さえれるまま、お母様の後に続いて部屋に向かう。叔父様も同席されるようで、夕食の席と違い神妙な顔で後ろから着いてきた。
夕食の席では聞けなかった、グレイお兄様の話かね。
うーん、正直まだ納得していないんだよなぁ。
ちょっとヤバめな魔力とか魔法で怒られるなら、自分も一回しか発動しなかった呪文を持ってるし、お姉様なんて、ナーグローア様直伝の魔法が使える。
それと比較したら、正直大した事ないと思うんだけど……そうじゃない……?
「其方等を呼んだのは他でもない、既に察しているとは思うがグレイアスの事だ」
うん、分かってましたよー。お父様の言葉に黙って頷き返した。
「詳しくは話せぬが、グレイアスは未熟な力で禁呪を使おうとし、自滅する寸前であったのだ」
えぇぇ? 自滅って……命がなくなっちゃうところだったって事?
「お父様、それは……」
「うむ、言葉通りに受け取って問題ない。禁呪というのはな、様々な生命から恩恵を受けた者でしか使えぬ魔法なのだよ。グレイアスには、まだそのような力も恩恵も足りぬのだ。ただ、唱えるだけであれば、魔法陣が刻まれた装備があれば、誰でもできる」
グレイお兄様は、その装備を何故か持っていて唱えてしまったと?
でも、そんなヤバい装備を何で彼がもっていたんだろう。
「禁呪を発動を間一髪で阻止したが、グレイアスの身体の中には僅かの魔力しか残っておらんかった。元々、魔力の器が育っていないグレイアスであったのでな、我とレオナール、フレイの魔力譲渡で一命はとりとめたが、油断は出来ぬ状態である」
通りで、グレイお兄様を叱る言葉が聞こえてこなかった訳だ。
彼が一命をとりとめた事が分かって、正直、物凄くホッとした。
やっぱり、魔法を覚えていくには、段取りとか成長力とか関係するんだね。
グレイお兄様は、自分達に良い所を見せたい一心で無茶をしてしまったのか……何か可哀そうな事をしてしまった気がする。
ちゃんと、自分は謝ってあげた方がいいよね。
彼が突然居なくなってしまったらと考えると、胸がざわざわしてくる。
一緒にママ母のお乳を奪い合ったり、遊んだ友が居なくなったら……そう考えるだけで胸が苦しくなった。
「アリシアちゃん、グレイアスはもう大丈夫なのよ。明日には元気になってますわ。一緒にお見舞いしましょうね」
お母様は、自分を抱き締めて頭を優しく撫でて語り掛ける。
「はい、おかあさま。グレイおにいさまが、はやくよくなることをいのります」
「ええ、そうして上げてくださいな。本当に優しい子ですね」
グレイお兄様の無茶を誘ったのは、他ならぬ自分だ……。
罪悪感が拭いきれず、お母様の胸にしがみ付いて涙を零した。
王都の案内はお父様達がいろいろ
案内してくれるようで、楽しみですね!
そして、グレイお兄様は何故禁呪に
触れられたのか……。
王都編で少しずつ見えてきます。
どうぞ、お楽しみに!
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