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018:男子三日会わざれば

叔父様のお家まで、あと少し!

 お昼過ぎに境界門を経て、叔父様の領地に入った。


 以前にも通った道なんだけど、記憶があまり残っていない。


 お父様の領地より、街道沿いから見える景色に木々が少なく、大きな街が多い印象だ。


 お母様に、叔父様の領地でみる光景をそのまま伝えてみた。


「そうねー、叔父様の領地は王都にも他国とも隣接してますから、交易が盛んなのよ。人の往来が多いと、自ずと街も大きくなっていきますわね」


 王都に隣接しているのは知っていたけど、他の国とも繋がっているのか。


 どこの国と繋がっているのか、ちょっと興味が湧きますね。


「おじさまのりょうちは、どこのくににちかいのですか?」

「ふふ、アリシアちゃんは、お勉強が好きですのね。ここから東の方向に、アレサンディウェールと言う国がありますのよ。主に、人族が住んでますの。数ヶ月前から、交流が遮断されてしまいましたけど、以前は、私もお父さんも数ヶ月に一回は通っていましたのよ」


 アレサンディウェールと言えば……祈念式で騒動を起こした人達か。


 あの戦いでルードヴィヒ様が殺され、その叔父である騎士団長のツヴァイスタ様が身を引いて、雲隠れしてしまったのだ。


 そんな国の近くに叔父様の家がありなんて、ちょっと心配ですね。


 叔父様の事だから、国境警備も万全とは思うけど、もう悲惨な目には合いたくない。


 そんな不安を抱いていると、そっとお母様が腕に力を込めて抱きしめてくれた。


 自分の気持ちに、お母様が気付いた?


 思わず視線を上げると、覆い被さるようにお母様が顔を寄せて抱えてくれる。


 自分の気持ちは、何でもお見通しって事ですね。


 お母様の柔らかい頬が頭に触れる感触に、ふわっと心が温かくなっていく。


 あぁ、これが母の愛かな……この世界に来てから貰いっぱなしだけど、改めてそう思った。


 ーーお母様に包まれて、気が付けば寝落ちしていたようです。


 もう、日が落ちかけているので、馬車の中はランプの灯りが点いていました。

 

「アリシアちゃん、もうすぐ叔父様の家に着きますわよ。少し御髪とお洋服を整えましょうね。」


 お母様は、そう言って腰を少し上げ自分を寝かせてくれる。


 うぬ、この姿勢は……下半身に感じるジメッとした感覚から解放されるのです。


 交換してもらう手を煩わせないために、今日は自らスカートをたくし上げて準備した。


「あら、アリシアちゃんお利口さんですね。ふふふ、さっと交換して差し上げますわよー。えいっ!」


 お母様の可愛い掛け声で、おむつはパッと解き放たれ、すぐさま湿った肌を拭き取り新しい布が充てがわれた。


 今日も素晴らしい手際の良さですね、お母様! 気持ち悪かった感触もすっかり消え、気分爽快ですよ!


「メリリア、少し髪を結いたいのですけど、よろしくて?」

「はい、奥様。こちらにご用意いたしました。」


 メリリアが手にしている物には、見覚えがありますね。あれは、エルグレスお兄様が送ってくれた、白いリボンの髪飾りです。


 なるほど、久しぶりの再会の時は、贈り物をちゃんと身につけて、見せてあげるのも大事なんですね。


「エルグレスおにいさまがくれたリボンですね、おかあさま」

「ええ、アリシアちゃんも気に入ってましたものね。せっかくですから、着けて見せて差し上げましょう」


 贈った側は、こういうの気づきますよね!


 自分ではそこまで気を使えなかったけど、お母様達のおかげで印象アップ間違いなしですよ。


 気分良く、お母様とメリリアに髪を後ろでひとつに纏めてもらい、白い大きなリボンを付けてもらった。


「良く似合ってますわよ、アリシアちゃん。髪の毛も長くなってますし、以前より可愛さが増してますわね。本当に女の子は、ちょっとしたアクセントで雰囲気が全然変わりますの。お母さん、とっても幸せですわ」


 黄色い声で、褒めちぎってくるお母様。


 うーん、あんまり褒められると恥ずかしい気持ちが出てくるので、そこまでにしてくださいな。


 お母様の声に、お姉様もメリリアも便乗してくる、何時もの流れで顔がどんどん熱くなっていった。


 この流れが、叔父様の家に着いても起こる事を考えると、神経が磨り減りそうですよ。


 馬車の中で散々持て囃されているうちに、叔父様の家に到着です。


 お父様が、馬車の扉を開けるように指示すると、メイノワールがノックをして扉をゆっくり開きます。


 扉の向こうには、叔父様と変わらぬ笑顔のママ母様が待っていました。


 側には、ランドグリスお兄様に、エルグレスお兄様、そして……少し背が伸びて帯剣した少年、グレイお兄様がいます。


 グレイお兄様と言うのもちょっと癪に触るが、以前にそう呼ぶと決めていたのを、馬車の中で思い出してしまったのだ。思い出しちゃったら、妙に恥ずかしくなってしまったけど、向こうが指摘してくるのも可哀想に思えてしまったのでね。


「皆、元気そうであるな。レオナールとランドグリスは祈念式以来だが、変わりはないようで何よりだ」

「ああ、ディオスも変わりないな。皆、無事にここまで来れて安心したぞ」


 お父様とレオナール叔父様の声が、馬車の中まで響き渡る。久々の再会なせいでちょっと興奮気味なのか、二人の声はかなり耳に響いてきます。


「ユステア、エルステア、アリシア、ご機嫌よう。無事の到着、心より安心いたしましたわ。エルステアもアリシアも大きくなりましたのね。すっかりお洒落さんになって、私、驚きましたわ。貴女達の成長を良く見せてくださいまし」


 ママ母様は、目を細め微笑みながら、お姉様と自分を眺め見ている。その瞳にランプの光が当たると、キラキラと光りながら揺らいでいた。


 お母様は、お父様にエスコートされて馬車から降り、お姉様と自分はランドグリスお兄様とエルグレスお兄様に続いてエスコートされて降ろしてもらう。


 ママ母様とグレイが立っている扉の前に案内され、スカートを摘んで貴族然とした挨拶を披露した。


「ママははさま、おげんきでしたか? またおあいできて、わたくし、とてもうれしいです!」

「まぁ、アリシアは挨拶もしっかり覚えてきましたのね。もう、こんなに立派になって、私、感激しましたわ」


 喜びのあまり、ママ母様は膝を少し落として自分を抱き締めてきた。


「またこうやって抱き締められる事が出来て、私、神に感謝をしなければなりませんね。本当に、よく来てくれました。ありがとう」


 ママ母様は、少し震えた声になっている。


 自分の子供のように短い間だったけど、お乳をくれ育ててくれたママ母と再会出来た感激はひとしおだ。


 抱き締めてくれるママ母様に、自分もそっと身体に腕を回して抱きついた。


「エルステア、貴女ももっと近くで顔を見せてちょうだい。お姉さんらしい、凛々しい顔になりましたのね。私、誇らしく思いますわ」

「叔母様にそう言っていただけて、私、とっても嬉しいです」


 お姉様は、そう言いながらママ母様に駆け寄り抱き付いてみせる。


「フレイ、少し時期が遅くなりましたけど、この子達は貴女の事を忘れてませんのよ。夏の間、またこの子達とお茶会をしましょう」


 ママ母様は、目尻にハンカチを押し当ててから、お母様に視線を向ける。


「ええ、ユステア。お隣同士ですもの、毎日この子達に会いに伺いますわ」

「ふふふ、私も、貴女とお話ししたい事がたくさんございますもの。楽しみですわね」


 お母様とママ母様が、笑顔で向かい合い、夏の館でのお茶会の開催が約束された。


 それよりも、叔父様の家が、自分達の夏の館と隣にあるという点が気になったのです。という事は、夏の間はずっとママ母様とも交流出来るって事ですよ!


 何て嬉しい事でしょうか! 自分もママ母様に聞いてほしい報告はたくさんあるのです!


 何から報告しようか迷ってしまうけど、思い付く順に聞いてもらわないとですね!


 先の事を考えて、ちょっと興奮してしまった自分。


 すぐ側にもう一人いるのをすっかり忘れてました……。


 ちらりと横目で見ると、妙に緊張して構っている少年がいます。


 はい、ママ母様に気を取られ、存在が認識していなかったグレイお兄様です。

 

「グレイおにいさま、ごきげんよう」

「うっうむ、アリシアも元気そうで何よりであるぞ」


 腰の剣に手を添えて、胸を張って視線を向けるグレイお兄様。


 悔しい事に、自分の知っているグレイお兄様と容姿がすっかり変わっていて、ちょっと凛々しく逞しい感じに成長しているのだ。


 ぐぬぬ、これだから男の子ってのは……。


 ちょっと見ないと、あっという間に大人びてくるんだよんなぁ。


「グレイ、ご機嫌よう。顔付きが以前より逞しくなりましたのね。喜ばしい事ですわ」

「エルステアも元気そうだな。お兄様達に毎日扱かれているからな、剣の腕もかなり上達したのだ。今度、披露して見せよう」


 お姉様の前でも、すごく得意げな様子で語るグレイお兄様。


 ふむ、お姉様の凄さを知ったら……その勢いがポッキリと折れてしまいそうですね。


 ちょっと可哀想な気もするけど、伸びた鼻は早めに折るに限りますね。


 このまま黙っていましょう。


 口元に手を当てて、クスリと笑うと、グレイお兄様がムッとした表情でこちらを見てきた。


「ぼっぼくは、昔のままではないのだ! ばっ馬鹿にしてはならぬぞ!」


 あちゃちゃちゃ、グレイお兄様が怒っちゃいましたよ。


 これはいけませんね……良好な関係は大事ですから、ちょっと持ち上げて上げないと。


 ちらっとお姉様に視線を合わせると、自分の考えが通じたのか小さく頷いた。


「そうよね。グレイは、騎士団でもお強いと有名なランドグリスお兄様や、エルグレスお兄様から学んでいるのですものね。きっと、驚くほど強くなっていると思いますの。剣の腕前が見られるなんて、今から楽しみですわ」

「そっそうなのだ。エルステアは、分かってくれるようで安心したぞ。アリシア! 以前のような下敷きにされるような男ではないからな、よく見ておくのだ」


 えっ、そんな事したっけ?


 首を傾げて、しばし過去を思い出そうとしたけど……記憶にない……。


「其方はまだお子様だから、覚えて無くてもしょうがあるまいな。まぁ見ておれ、僕の勇姿を見て其方も見る目が変わるであろう。このグレイアスを兄として敬うが良いぞ」


 カァー! グレイお兄様がめっちゃ鼻高々なんですけど!


 でも、よく考えよう……自分にはグレイお兄様に対抗する術がないのだ。


 いくらお姉様の威を借りても、自分の力ではないので、高飛車な姿勢はこちらに向かったままかもしれない……。


 まさかここまでとは思わなかったな。


 夏の間までに、この立ち位置を水平もしくは、ちょい上まで押し上げる必要がありそうだ。


 踏ん反り返るグレイお兄様を一瞥し、叔母様に手を引いてもらい叔父様の屋敷の中へ入っていく。


 ーー絶対、ギャフンと言わせてやるぞ!

男子三日会わざれば……増長が止まりませんでした。

アリシアちゃんは、グレイの鼻を折る事が出来るのでしょうか?

王都編の物語が始まりました!


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